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episode.51 ありがたいことです
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翌日、昼過ぎ頃になって、リゴールは意識を取り戻した。
「……うぅん」
「リゴール! 目が覚めたの!?」
「……エア、リ」
昨夜はベッドを彼が一人で使っていたため、私は床に布を敷いて、そこで寝た。眠れないというようなことはなかったものの、長時間慣れない体勢でいたせいか、背中や腰が痛い。だが、そんな不快感は、リゴールの目覚めによって吹き飛んだ。
「今は……夜ですか……?」
左を下にして横になっていたリゴールは、「体勢が少し不快」とでも言いたげに体をもそもそ動かしながら、そんなことを質問してくる。
「今は昼過ぎよ」
「昼……そう、ですか……」
「何か問題でも?」
「いえ……特に、意味は……ありませんが」
その頃になって、ふと気づく。
今のリゴールには外が見えていないのだと。
窓の外を眺めるためには顔面を窓の方へ向けなくてはならないが、彼は逆向いてしまっている。外を見ようと思ったら、寝返りしなくてはならないのだ。
一人そんなことを考えていると、リゴールが唐突に大きな声を出した。
「そうでした!」
それまで小さな声を発していた彼が急に大きな声を出したことに、私は驚かずにはいられなかった。予想していなかったことが突然起こると、胸がドキドキして痛くなってしまう。
「な……何……?」
「デスタン!」
「え……?」
「デスタンはどうなったのですか!?」
目を見開きながら強く発するリゴール。
「落ち着いて。デスタンは無事よ」
「本当ですか!?」
リゴールは気を失う直前、正気を取り戻したデスタンと言葉を交わしていた。だから、デスタンが正気を取り戻したことは知っているものだと考えていたのだが、リゴールは覚えていないようである。
「えぇ、大丈夫。彼は正気を取り戻したわ。それに、怪我もほとんどないわよ」
私がそう述べると、彼は安堵したように「そうですか……良かった」と呟いていた。
己が負傷している状態であっても、他人のことを気にかけている辺りは、彼らしいと言えるかもしれない。
ただ「今は自分の心配をして」と言いたい気分だ。
「リゴール、気分はどう? 背中の傷は、昨日、ミセさんの知り合いのお医者さんが手当てしてくれたのだけど」
一応これまでの状況を伝えておく。
すると彼は静かに微笑んだ。
「手当てして……いただけたの、ですね……ありがたいことです」
穏やかな表情の彼を見ていると、こちらまで心が軽くなってくる——そんな気がして。だからこそ、勇気を出せた。
「あの時は余計なことを言ってしまって、ごめんなさい」
ちなみに、その勇気とは、謝る勇気のことである。
「えっと……何のお話、でしょうか……」
「私が『リゴール!』なんて叫んでしまったから、気を散らしてしまって。結局それが怪我に繋がった。だから、悪かったなって思っていたの」
リゴールを物理的に傷つけたのは、操られていたデスタン。でも、私の振る舞いが、リゴールを間接的に怪我させたことも事実。
「……エアリ、それは……考え過ぎでは?」
きょとんとした顔で言ってくるリゴール。
「そうかしら」
「えぇ……わたくしはそう思いますが」
「……ありがとう、リゴール。優しいのね」
途端に、彼の面が赤く染まる。
「なっ……い、いえ、そのような……ことは……」
赤くなるわ、ひきつるわで、リゴールの顔面はおかしなことになっている。しかも、言葉の発し方さえ不自然。
いきなりどうしてしまったのだろう。
「どうしたの?」
「えっ、あ……その、ところで!」
「ん? 何?」
「デスタンはそのうち来るのでしょうか!?」
いや、いきなりどうした。
内心突っ込んでしまった。
「デスタンに会いたいのね?」
「は、はいっ……」
「分かったわ。じゃ、呼びに行ってみるわね」
私一人でデスタンのところへ行くというのは少し不安ではあるのだが、リゴールの望みを叶えたいという気持ちがないわけではないので、呼びに行ってみることにした。
一人廊下を歩いていると、ミセに遭遇。
「あーら、エアリじゃなーい。お出掛け?」
「いえ。リゴールが目覚めたので、デスタンさんを呼ぼうと思って」
するとミセは、あらまぁ、というような顔をした。
「呼んでも出てこないかもしれないわよ」
「そうなんですか?」
何かあったのだろうか。
「デスタンったら、昨夜も様子がおかしくて。『デスタンも怪我してるんじゃない? 良かったら手当てするわよ』って声をかけたのに、無言で部屋に入っていってしまったのよ」
ミセの話を聞き、少し驚いた。
デスタンはあんな性格だが、ミセに対してだけは善良な感じに振る舞っていた。不気味に思ってしまうくらい、優しげに対応していたのである。
そんな彼が、ミセを無視するなんて、とても信じられない。
「きっととても辛い思いをしたのね……可哀想に……」
ミセの言い方はやや演技がかっている。けれど、デスタンを心配しているという部分に偽りはないはずだ。
「そういうわけだから、エアリが呼んでも出てこない可能性は高いわよー」
「ですね。取り敢えずは数回声をかけてみて、後は様子を見ることにしますね」
「それが良いと思うわ」
デスタン用の部屋の前に着く。軽くノックしてみるが、返事はなかった。五秒ほど経って、今度は「デスタンさん!」と名を呼んでみる。しかし、言葉が返ってくることはなく、もちろん、扉が開くこともなかった。
「あらあら。やっぱり駄目そうねぇ」
「……そうですね、困りました」
はぁ、と溜め息をつく。
「ホントよねぇ。アタシも困っちゃうわ。デスタンに会えない暮らしなんて、辛すぎよぉ」
「寝ているのでしょうか……」
「昨夜のことがあるから、余計に心配だわ」
まさか、また操られているとか?
そんなことが、ふと、脳に浮かんだ。
だが、「それはない」と、心の中で速やかに否定する。
リゴールを傷つけてしまったことを悔やんでいるうちに体調を崩しでもしたのだろう。きっとそうだ。
「出てきそうにないですね」
「あらあら。でも、どうやら本当にそうみたいねぇ」
「では、私は一旦部屋に帰ります」
リゴールを長時間一人にしているのは嫌だからそう言った——ちょうどその時。
唐突にチャイムが鳴った。
「……うぅん」
「リゴール! 目が覚めたの!?」
「……エア、リ」
昨夜はベッドを彼が一人で使っていたため、私は床に布を敷いて、そこで寝た。眠れないというようなことはなかったものの、長時間慣れない体勢でいたせいか、背中や腰が痛い。だが、そんな不快感は、リゴールの目覚めによって吹き飛んだ。
「今は……夜ですか……?」
左を下にして横になっていたリゴールは、「体勢が少し不快」とでも言いたげに体をもそもそ動かしながら、そんなことを質問してくる。
「今は昼過ぎよ」
「昼……そう、ですか……」
「何か問題でも?」
「いえ……特に、意味は……ありませんが」
その頃になって、ふと気づく。
今のリゴールには外が見えていないのだと。
窓の外を眺めるためには顔面を窓の方へ向けなくてはならないが、彼は逆向いてしまっている。外を見ようと思ったら、寝返りしなくてはならないのだ。
一人そんなことを考えていると、リゴールが唐突に大きな声を出した。
「そうでした!」
それまで小さな声を発していた彼が急に大きな声を出したことに、私は驚かずにはいられなかった。予想していなかったことが突然起こると、胸がドキドキして痛くなってしまう。
「な……何……?」
「デスタン!」
「え……?」
「デスタンはどうなったのですか!?」
目を見開きながら強く発するリゴール。
「落ち着いて。デスタンは無事よ」
「本当ですか!?」
リゴールは気を失う直前、正気を取り戻したデスタンと言葉を交わしていた。だから、デスタンが正気を取り戻したことは知っているものだと考えていたのだが、リゴールは覚えていないようである。
「えぇ、大丈夫。彼は正気を取り戻したわ。それに、怪我もほとんどないわよ」
私がそう述べると、彼は安堵したように「そうですか……良かった」と呟いていた。
己が負傷している状態であっても、他人のことを気にかけている辺りは、彼らしいと言えるかもしれない。
ただ「今は自分の心配をして」と言いたい気分だ。
「リゴール、気分はどう? 背中の傷は、昨日、ミセさんの知り合いのお医者さんが手当てしてくれたのだけど」
一応これまでの状況を伝えておく。
すると彼は静かに微笑んだ。
「手当てして……いただけたの、ですね……ありがたいことです」
穏やかな表情の彼を見ていると、こちらまで心が軽くなってくる——そんな気がして。だからこそ、勇気を出せた。
「あの時は余計なことを言ってしまって、ごめんなさい」
ちなみに、その勇気とは、謝る勇気のことである。
「えっと……何のお話、でしょうか……」
「私が『リゴール!』なんて叫んでしまったから、気を散らしてしまって。結局それが怪我に繋がった。だから、悪かったなって思っていたの」
リゴールを物理的に傷つけたのは、操られていたデスタン。でも、私の振る舞いが、リゴールを間接的に怪我させたことも事実。
「……エアリ、それは……考え過ぎでは?」
きょとんとした顔で言ってくるリゴール。
「そうかしら」
「えぇ……わたくしはそう思いますが」
「……ありがとう、リゴール。優しいのね」
途端に、彼の面が赤く染まる。
「なっ……い、いえ、そのような……ことは……」
赤くなるわ、ひきつるわで、リゴールの顔面はおかしなことになっている。しかも、言葉の発し方さえ不自然。
いきなりどうしてしまったのだろう。
「どうしたの?」
「えっ、あ……その、ところで!」
「ん? 何?」
「デスタンはそのうち来るのでしょうか!?」
いや、いきなりどうした。
内心突っ込んでしまった。
「デスタンに会いたいのね?」
「は、はいっ……」
「分かったわ。じゃ、呼びに行ってみるわね」
私一人でデスタンのところへ行くというのは少し不安ではあるのだが、リゴールの望みを叶えたいという気持ちがないわけではないので、呼びに行ってみることにした。
一人廊下を歩いていると、ミセに遭遇。
「あーら、エアリじゃなーい。お出掛け?」
「いえ。リゴールが目覚めたので、デスタンさんを呼ぼうと思って」
するとミセは、あらまぁ、というような顔をした。
「呼んでも出てこないかもしれないわよ」
「そうなんですか?」
何かあったのだろうか。
「デスタンったら、昨夜も様子がおかしくて。『デスタンも怪我してるんじゃない? 良かったら手当てするわよ』って声をかけたのに、無言で部屋に入っていってしまったのよ」
ミセの話を聞き、少し驚いた。
デスタンはあんな性格だが、ミセに対してだけは善良な感じに振る舞っていた。不気味に思ってしまうくらい、優しげに対応していたのである。
そんな彼が、ミセを無視するなんて、とても信じられない。
「きっととても辛い思いをしたのね……可哀想に……」
ミセの言い方はやや演技がかっている。けれど、デスタンを心配しているという部分に偽りはないはずだ。
「そういうわけだから、エアリが呼んでも出てこない可能性は高いわよー」
「ですね。取り敢えずは数回声をかけてみて、後は様子を見ることにしますね」
「それが良いと思うわ」
デスタン用の部屋の前に着く。軽くノックしてみるが、返事はなかった。五秒ほど経って、今度は「デスタンさん!」と名を呼んでみる。しかし、言葉が返ってくることはなく、もちろん、扉が開くこともなかった。
「あらあら。やっぱり駄目そうねぇ」
「……そうですね、困りました」
はぁ、と溜め息をつく。
「ホントよねぇ。アタシも困っちゃうわ。デスタンに会えない暮らしなんて、辛すぎよぉ」
「寝ているのでしょうか……」
「昨夜のことがあるから、余計に心配だわ」
まさか、また操られているとか?
そんなことが、ふと、脳に浮かんだ。
だが、「それはない」と、心の中で速やかに否定する。
リゴールを傷つけてしまったことを悔やんでいるうちに体調を崩しでもしたのだろう。きっとそうだ。
「出てきそうにないですね」
「あらあら。でも、どうやら本当にそうみたいねぇ」
「では、私は一旦部屋に帰ります」
リゴールを長時間一人にしているのは嫌だからそう言った——ちょうどその時。
唐突にチャイムが鳴った。
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