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episode.54 素っ気ない
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あれ以降、デスタンが素っ気ない。
いや、彼が私に冷たいというのは、今に始まったことではない。それは前から。だから、今さら驚くようなことではない。
ただ、最近の彼がおかしいところは、リゴールにも素っ気ないところである。
しかも、一日二日ならまだしも、既に一週間が過ぎているというのにその状態が継続しているのだ。どう考えても、おかしいとしか思えない。
これまでのデスタンは、リゴールを大切に思っているようなことを言っていたし、それに相応しい行動をとっていた。家にいる間は、リゴールの傍にいることも多かった。
しかし彼は、あれ以来変わってしまった。
私だけでなくリゴールにまで素っ気ないし、ミセといちゃつく会にも参加していないようだし。
そんなある昼下がり、ミセの家の廊下で浮かない顔のデスタンと遭遇した。
「デスタンさん!」
私は声をかけた。
この機会にどうなっているのか聞こうと思って。
「……何か」
「今、少し構わないかしら」
「……どうかしましたか」
冷ややかなデスタンの瞳に見つめられると、うなじが粟立つ。何でもない、とだけ言って速やかに別れたいような感覚に襲われた。
それでも、私は話を続ける。
「どうしてリゴールに素っ気なくするの」
リゴールは、デスタンが自分に素っ気ない態度をとられることを、凄く気にしていた。それも「自分がデスタンを傷つけてしまったのかもしれない」というような心配の仕方だった。
自分に罪があるかのように思って心配しているリゴールなんて、気の毒で見ていられない。
「私やミセさんに素っ気ないのはまだ分かるわ。けど、リゴールにまで素っ気ない態度をとる必要なんて、欠片もないじゃない」
デスタンは足を止め、私の鼻辺りを凝視している。
「リゴールは自分を責めているの。自分がデスタンを傷つけてしまったのかもしれない、って。もうこれ以上彼を不安にさせないで」
「……はぁ」
面倒臭そうな顔をされてしまった。
本来なら苛立つところだが、今は、呑気に小さなことで苛立っている場合ではない。
私はさらに問いを放つ。
「リゴールに素っ気なくする理由は何?」
デスタンはすぐには答えなかった。が、十秒ほど経過した後、静かに口を開いた。
「……迷惑をかけたくないので」
想定外の答えに戸惑う。
「え……それはどういう……」
「言っても分からないでしょう、貴女には」
「な、何よ! その言い方!」
失礼な発言にカチンときて、つい調子を強めてしまう。だが今日は「こんなことに腹を立てている場合じゃない」と気づき、何とか冷静さを取り戻すことができた。
「……ま、それはともかく。これ以上リゴールを心配させたら、許さないわ。たとえどんな理由があったとしてもね」
私がそう言った直後、デスタンは突然、ふっと笑みをこぼした。
なぜ笑うのか分からず、戸惑う。
「な……どうして笑うのよ。私を馬鹿にしているの?」
「まさか」
「だったら何なの?」
問うと、デスタンは微笑んだ。
「王子も安心ですね……貴女のような人が傍にいれば」
その微笑みは、彼がいつもミセに向けていたような、作り物の微笑みではなく。もっと自然で柔らかく、素朴なものだった。
——だが、どこか寂しげだ。
それに、今の彼の微笑みは、ある日突然消えてしまいそうな儚さを、確かに含んでいる。
「え……いきなりどうしたのよ、デスタンさん。貴方はそういう性格じゃないわよね。もしかして……まだ操られてる?」
すると彼はきっぱり「それはありません」と返してきた。
それでこそデスタン。
その冷ややかではっきりした言動が、彼らしさ。
急に微笑んだりされたら、逆に不安になってしまう。
「……では。そろそろ失礼します」
「待って!」
再び歩き出そうとしたデスタンの手首を、私は、半ば無意識のうちに掴んでいた。考えるより先に体が動いていたのである。
「リゴールのところへ行きましょ!」
「……は?」
素で返されてしまった。
もう少し気を遣ってくれてもいいのに、などと内心愚痴を漏らしつつも、平静を保って述べる。
「リゴールに、なぜ素っ気なくしていたのか、きちんと話してあげてほしいの」
「……なぜ貴女に命令されなくてはいけないのか、理解できません」
「命令しているわけじゃないわ。ただ、リゴールのことを思って頼んでいるの」
「……王子の頼みならともかく、貴女の頼みに応じる気は微塵もありません」
どうしてそんなに頑ななの!
少し苛立った私は、掴んでいたデスタンの手を引っ張る。
「なっ……」
「いいから、来て!」
リゴールに素っ気なくしていたのが、幻滅しただとか、付き合いきれなくなったとか、そういう理由でないのなら、会うことに問題はないはずだ。
私はデスタンを、引きずるようにしながら、リゴールがいる部屋——私とリゴールの自室まで、何とか連れていった。
扉を開け、私が先に部屋に入る。
すると、ベッドの上で座っていたリゴールが、すぐに視線をこちらへ向けた。
「エアリ……!」
「ただいま、リゴール」
リゴールの瞳は輝いている。
「デスタンさんを連れてきたわ」
「えっ……」
それまでの嬉しそうな表情から一変、顔面を曇らせるリゴール。さらに、私の後ろからデスタンが現れたのを見て、リゴールは気まずそうな顔をする。が、そんなことは気にせず、デスタンをリゴールの近くまで連れていく。
「デスタン……来て下さったのですか」
先に口を開いたのは、物凄く気まずそうな顔をしているリゴールの方。
「連れてこられたのです」
「……そ、そうですよね。すみません」
リゴールは小動物のように身を縮めた。この場にいることが辛い、とでも言いたげな顔をしている。
そして訪れる静寂。
次にそれを破ったのは、デスタンだった。
「王子。正直に答えていただきたいのですが」
デスタンがいきなり自ら話し出したものだから、リゴールは驚きと戸惑いが混じったような表情になる。
「は、はい……」
「貴方は今でも、私を必要としていますか」
「え……。なぜそのようなことを?」
「答えて下さい」
淡々と言われたリゴールは、顔色を窺うようにデスタンを見ながら、小さく答える。
「それは……もちろん、です」
「気を遣うことはありません。本当のことを答えて下さい」
「わ、わたくしは嘘はつきません!」
リゴールは調子を強める。
「わたくしには貴方が必要! それに嘘偽りはありません!」
しかし、デスタンは固い顔つきのまま。
「私は貴方を傷つけました。それでも貴方は、私を信頼するのですか」
「何を聞いているのですか? 攻撃したのはデスタンの意思ではない……にもかかわらず、わたくしが貴方を責めるとお思いで?」
問いに問いが被さり、表現しづらい空気が漂う。
直後、リゴールは何か閃いたような顔をする。
「もしかして。デスタンがここのところあまり接して下さらなかったのは、それを気にしていたからなのですか?」
いや、彼が私に冷たいというのは、今に始まったことではない。それは前から。だから、今さら驚くようなことではない。
ただ、最近の彼がおかしいところは、リゴールにも素っ気ないところである。
しかも、一日二日ならまだしも、既に一週間が過ぎているというのにその状態が継続しているのだ。どう考えても、おかしいとしか思えない。
これまでのデスタンは、リゴールを大切に思っているようなことを言っていたし、それに相応しい行動をとっていた。家にいる間は、リゴールの傍にいることも多かった。
しかし彼は、あれ以来変わってしまった。
私だけでなくリゴールにまで素っ気ないし、ミセといちゃつく会にも参加していないようだし。
そんなある昼下がり、ミセの家の廊下で浮かない顔のデスタンと遭遇した。
「デスタンさん!」
私は声をかけた。
この機会にどうなっているのか聞こうと思って。
「……何か」
「今、少し構わないかしら」
「……どうかしましたか」
冷ややかなデスタンの瞳に見つめられると、うなじが粟立つ。何でもない、とだけ言って速やかに別れたいような感覚に襲われた。
それでも、私は話を続ける。
「どうしてリゴールに素っ気なくするの」
リゴールは、デスタンが自分に素っ気ない態度をとられることを、凄く気にしていた。それも「自分がデスタンを傷つけてしまったのかもしれない」というような心配の仕方だった。
自分に罪があるかのように思って心配しているリゴールなんて、気の毒で見ていられない。
「私やミセさんに素っ気ないのはまだ分かるわ。けど、リゴールにまで素っ気ない態度をとる必要なんて、欠片もないじゃない」
デスタンは足を止め、私の鼻辺りを凝視している。
「リゴールは自分を責めているの。自分がデスタンを傷つけてしまったのかもしれない、って。もうこれ以上彼を不安にさせないで」
「……はぁ」
面倒臭そうな顔をされてしまった。
本来なら苛立つところだが、今は、呑気に小さなことで苛立っている場合ではない。
私はさらに問いを放つ。
「リゴールに素っ気なくする理由は何?」
デスタンはすぐには答えなかった。が、十秒ほど経過した後、静かに口を開いた。
「……迷惑をかけたくないので」
想定外の答えに戸惑う。
「え……それはどういう……」
「言っても分からないでしょう、貴女には」
「な、何よ! その言い方!」
失礼な発言にカチンときて、つい調子を強めてしまう。だが今日は「こんなことに腹を立てている場合じゃない」と気づき、何とか冷静さを取り戻すことができた。
「……ま、それはともかく。これ以上リゴールを心配させたら、許さないわ。たとえどんな理由があったとしてもね」
私がそう言った直後、デスタンは突然、ふっと笑みをこぼした。
なぜ笑うのか分からず、戸惑う。
「な……どうして笑うのよ。私を馬鹿にしているの?」
「まさか」
「だったら何なの?」
問うと、デスタンは微笑んだ。
「王子も安心ですね……貴女のような人が傍にいれば」
その微笑みは、彼がいつもミセに向けていたような、作り物の微笑みではなく。もっと自然で柔らかく、素朴なものだった。
——だが、どこか寂しげだ。
それに、今の彼の微笑みは、ある日突然消えてしまいそうな儚さを、確かに含んでいる。
「え……いきなりどうしたのよ、デスタンさん。貴方はそういう性格じゃないわよね。もしかして……まだ操られてる?」
すると彼はきっぱり「それはありません」と返してきた。
それでこそデスタン。
その冷ややかではっきりした言動が、彼らしさ。
急に微笑んだりされたら、逆に不安になってしまう。
「……では。そろそろ失礼します」
「待って!」
再び歩き出そうとしたデスタンの手首を、私は、半ば無意識のうちに掴んでいた。考えるより先に体が動いていたのである。
「リゴールのところへ行きましょ!」
「……は?」
素で返されてしまった。
もう少し気を遣ってくれてもいいのに、などと内心愚痴を漏らしつつも、平静を保って述べる。
「リゴールに、なぜ素っ気なくしていたのか、きちんと話してあげてほしいの」
「……なぜ貴女に命令されなくてはいけないのか、理解できません」
「命令しているわけじゃないわ。ただ、リゴールのことを思って頼んでいるの」
「……王子の頼みならともかく、貴女の頼みに応じる気は微塵もありません」
どうしてそんなに頑ななの!
少し苛立った私は、掴んでいたデスタンの手を引っ張る。
「なっ……」
「いいから、来て!」
リゴールに素っ気なくしていたのが、幻滅しただとか、付き合いきれなくなったとか、そういう理由でないのなら、会うことに問題はないはずだ。
私はデスタンを、引きずるようにしながら、リゴールがいる部屋——私とリゴールの自室まで、何とか連れていった。
扉を開け、私が先に部屋に入る。
すると、ベッドの上で座っていたリゴールが、すぐに視線をこちらへ向けた。
「エアリ……!」
「ただいま、リゴール」
リゴールの瞳は輝いている。
「デスタンさんを連れてきたわ」
「えっ……」
それまでの嬉しそうな表情から一変、顔面を曇らせるリゴール。さらに、私の後ろからデスタンが現れたのを見て、リゴールは気まずそうな顔をする。が、そんなことは気にせず、デスタンをリゴールの近くまで連れていく。
「デスタン……来て下さったのですか」
先に口を開いたのは、物凄く気まずそうな顔をしているリゴールの方。
「連れてこられたのです」
「……そ、そうですよね。すみません」
リゴールは小動物のように身を縮めた。この場にいることが辛い、とでも言いたげな顔をしている。
そして訪れる静寂。
次にそれを破ったのは、デスタンだった。
「王子。正直に答えていただきたいのですが」
デスタンがいきなり自ら話し出したものだから、リゴールは驚きと戸惑いが混じったような表情になる。
「は、はい……」
「貴方は今でも、私を必要としていますか」
「え……。なぜそのようなことを?」
「答えて下さい」
淡々と言われたリゴールは、顔色を窺うようにデスタンを見ながら、小さく答える。
「それは……もちろん、です」
「気を遣うことはありません。本当のことを答えて下さい」
「わ、わたくしは嘘はつきません!」
リゴールは調子を強める。
「わたくしには貴方が必要! それに嘘偽りはありません!」
しかし、デスタンは固い顔つきのまま。
「私は貴方を傷つけました。それでも貴方は、私を信頼するのですか」
「何を聞いているのですか? 攻撃したのはデスタンの意思ではない……にもかかわらず、わたくしが貴方を責めるとお思いで?」
問いに問いが被さり、表現しづらい空気が漂う。
直後、リゴールは何か閃いたような顔をする。
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