あなたの剣になりたい

四季

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episode.55 今日は快晴、お散歩日和

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 リゴールは相変わらず自信なさげな顔つきをしていたが、その発言は的を射ていた。

「……はい。また迷惑をかけることになってはいけないと思い」

 デスタンは素直に頷いて述べる。
 すると、リゴールはベッドからゆっくりと立ち上がった。

「良かった……! わたくしのことが嫌いになったというわけではなかったのですね……!」

 自身よりずっと背の高いデスタンを見上げ、リゴールは嬉しそうに発する。嫌われたわけではないと分かり安心したらしく、外敵に怯える小動物のようだった顔面はほぐれ、柔らかな顔つきになっていた。

「何というか、すみません」
「いえ! 謝らないで下さい! 嬉しいことですから!」

 子どものように無垢な笑みを浮かべるリゴールを目にしたからか、デスタンも若干柔らかい顔つきになっている。

 険しい道を行くからこそ。
 危機がすぐ傍に存在する暮らしだからこそ。

 笑顔でいてほしい。

 柔らかな雰囲気に包まれている二人を眺めていると、その思いが伝わったような気がして、私も少し嬉しくなった。

「ところでデスタン、貴方の怪我は問題ないのですか?」
「怪我、とは」

 デスタンは首を傾げる。そんな、よく分かっていない様子の彼に対し、リゴールははっきり告げる。

「連れていかれる時、トランにやられた傷のことです!」

 するとデスタンは、無表情のまま、ゆっくりと頭を縦に動かした。

「なるほど。それなら問題ありません。なぜか手当てされていましたので」

 きょとんとした顔になるリゴール。

「な……手当てされていたのですか?」
「はい」

 デスタンの短くもしっかりした返答を聞き、リゴールは面に安堵の色を滲ませる。

「それは良かったです。が、少し意外です。ブラックスターの者がそのような親切なことをするとは……あ、いえ! ブラックスターを悪く言っているわけでは! その……ないのですよ!?」

 安堵の色を浮かべていたかと思えば、急に慌て出す。それも、何か言われたわけでもないのに。
 リゴールの言動は、とにかく落ち着きがなかった。

「落ち着いて下さい、王子」
「あ。は、はい……すみません……」

 デスタンが落ち着くよう言ったからリゴールは止まった。が、もしデスタンが落ち着くよう言わなかったとしたら、リゴールはもっとあたふたし続けていたことだろう。

「で、では……デスタン。いきなりで申し訳ありませんが、散歩にでもいきませんか?」
「なぜですか」
「実はわたくし、少し外の空気を吸いたかったのです」
「そうですか、分かりました」

 背中に傷を負って以降、リゴールはずっとミセの家の中にいた。直後は一日のほとんどの時間をベッドに横になって過ごしていたし。数日が経過して動けるようになってきてからも、たまに家の中をうろつく程度だったし。だから、段々「外の空気を吸いたい」と思ってくるのも、無理はないだろう。

 そんなことを考えつつ二人の様子を眺めていると、リゴールが突然こちらへ視線を向けてきた。

「構いませんよね? エアリ」
「え。どうして私なの」
「少しくらいなら外へ行っても問題ありませんよね?」

 いや、取り敢えず私の発言も聞いてほしいのだが。

「え、えぇ。激しい運動でなければ大丈夫だと思うけど……」
「では少し、行って参ります!」

 急展開過ぎてついていけない。

「ちょっと待って。どこへ行くの?」
「そこらまでのつもりですが……何か問題がありますか?」

 散歩と言いつつ遠くまで行く、ということがあったらと思い、一応聞いてみたのだ。が、返ってきたのは「そこらまで」という答え。私は少し安心した。

「あ! もし良ければ、エアリも一緒に行きますか?」
「悪いわ。せっかく二人で語らえる時間なのに」
「いえ! わたくしはエアリも一緒の方が嬉しいです!」

 なんのこっちゃら。


 そうして私は、二人と一緒に家の外へ出た。

 今日は快晴。
 空は青く澄んでいて、ただ見上げるだけで心を爽やかにしてくれる。

「よく晴れていますね……!」

 頼りない足取りで歩いていたリゴールは、家から出るや否や、感心したように瞳を輝かせる。

 高台から見下ろす街。
 溶け合うような、空と海の境界線。

 言葉にならないくらい美しい光景だ。

「快晴だわ」
「実に素晴らしい。散歩にはもってこいですね……!」

 リゴールは元気そうだ。ただ、足取りだけはまだ怪しさが残っているので、私は彼のすぐ横を歩くよう心がけた。よろけた時に素早く支えられるように、である。

 一方デスタンはというと、後ろから、さりげなく私たちについてきていた。

 それでいいの?
 リゴールとデスタンが散歩する会なのではないの?

 細やかな疑問は尽きないが、それらは無視して、私は足を動かし続けた。


「王子、家から離れていますが」

 デスタンがそう発した時、私たちは、ミセの家からかなり離れたところまで来てしまっていた。

 遠出をするつもりはなくて。でも、温かい日差しの中を、ゆったり歩いていたら、いつの間にやら結構移動してしまっていたのである。

「あ。そういえばそうですね」

 雄大な印象を与える樹木を見上げながら、リゴールはあっさりと返す。

「遠出はしないという話だったのでは」
「そうですね。でも、自然の中にいると心が安らぐので、帰りたくなくなってきました」

 最初こそ頼りない足取りだったリゴールだが、歩くことに慣れてきたのか、段々軽やかに歩けるようになってきている。

「話が違います」

 せっかく楽しい散歩中だというのに、デスタンは不機嫌そうな顔をしている。

「まぁまぁ、そう固いことを言わないで下さい!」
「王子は警戒心が薄すぎます。何かあったらどうするのです」
「それはそうですが……。ただ、ずっとそんなことを言っていては、楽しみがなくなってしまいます。わたくし、そんな人生は嫌です」

 警戒心の欠片もないリゴールに、デスタンは呆れ果てた顔をする。

「まったく……」
「もし何かあっても、エアリとデスタンがいてくれれば安心です!」
「なぜそんなに呑気なのですか……」

 リゴールはご機嫌だ。
 ただ、なぜか妙にわがままでもある。

「エアリ! もっと色々なところへ行ってみたいです!」

 天真爛漫なのは良い。だが、ミセの家から離れすぎるのは、危険と言えるだろう。何か事件が起きたり敵に襲われたりした時にすぐに避難できないというのは、危険である。

「リゴール……今日はそろそろ戻った方がいいわ」
「……エアリ?」
「デスタンもああ言っていたし、そろそろ戻りましょうか」

 やんわり提案してみたところ、「えぇー」というような顔をされてしまった。

「きっと、帰り道も色々見られるわよ」
「それはそうですが……」
「じゃ、決まりね!」
「は、はい……」

 こうして、取り敢えず引き返すことにしたのだった——が、何もなく終わるはずがなかった。
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