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episode.60 黒の裏切り
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デスタンが無事であることを確認させろ、と、リゴールは言った。
そうすればグラネイトにとやかく言うことはしない、ということも。
「もちろん! グラネイト様は何も嘘はついていない。それゆえ、逃げも隠れもしない。必要がないからだ!」
グラネイトはすぐにそう返す。
彼の声は、嘘をついている者のそれとは思えないものだった。
そこへ、ミセが口を挟む。
「リゴールくんったら、どうしちゃったのかしら? この男性は悪い方なんかじゃないわよ」
「……ミセさん」
「デスタンは疲れたみたいだったから、先にアタシの部屋へ行ってるわ。だって、アタシのデスタンだもの」
ミセは、少し間を空けて続ける。
「連れていってあげるわ」
「ぐるではないでしょうね……?」
今リゴールは疑り深くなってしまっているらしく、ミセの言葉さえすんなりと信じることはしなかった。
グラネイトの嘘への加担を疑われたミセは、目を丸くする。
そして数秒経ってから、頬に片手を当てて冗談混じりに発した。
「あーら! アタシを疑うなんて失礼ねぇ」
「……すみません」
静かな声での謝罪に、一瞬室内が静まり返る。
「ま、そんな日もあるわね。じゃあ、早速案内するわぁ」
「ありがとうございます」
その後、リゴールはミセの後を追って、デスタンに会いに行った。
部屋を出る直前、彼は私をちらりと見て、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
私はグラネイトと二人きりになる。
仕留める気満々の彼と二人になったわけではないし、幸い今は手元に剣がある。それゆえ「どうして私を置いていくの!」と叫びたくはならなかった。が、直前まで敵であった者と二人きりになるというのは、やはり不安なものである。
特に、今のグラネイトは、どういう状態なのかが分からない。
本当に戦意を失っているのか。あるいは、正面から殴り合う気はないが隙があれば殺るつもりなのか。それとも、戦意がないように振る舞っているのは完全に嘘なのか。
分からないから、不安は消えない。
——そんな私に彼が声をかけてきたのは、突然だった。
「少しいいか?」
身長では豪快に負けている。戦闘能力でも大敗している。
そんな敵からこんなにも近くで声をかけられると、一瞬にして全身の筋肉が強張った。しかも、冷や汗まで溢れてくる。
「な……何なの」
「トランのことは知っているのだな?」
「え」
想定していなかった問い。
私は戸惑い、すぐには言葉を返せない。
「知っているのか知らないのか、どっちだ!」
「し、知ってるわ!」
急に調子を強められ、うなじから背中にかけて寒気が走る。
だが、すぐに「この程度で怯んでいてはいけない」と自分へ言い聞かせ、何とか言葉を返すことができた。
「少年みたいな外見の人でしょ」
「……そうか。知っているのだな」
なぜか溜め息をつくグラネイト。
その様子は、まるで、この世界のどこにでもいる普通の男性のよう。
「えぇ」
「なら、やつの卑怯さも知っているのだな?」
「そうね。デスタンを誘拐したり、操ってリゴールに危害を加えさせたり、最低最悪だったわ」
敵との会話で緊張していたはずだったのに、一度口を開くと、言葉はするすると出た。詰まり詰まりになるでもなく、非常に小さな声になるでもなく、敵に擦り寄るようなことばかりを発するでもなく。
「おかげであの後気まずくなって、誤解が発生して、元に戻るまでにもだいぶ時間がかかったわ」
そこまで言った時、突如、脳内に焦りが生まれる。
というのも、「言い過ぎているのでは!?」と思ったのだ。
私は、自然な感じで色々文句を言っていたが、聞いている相手はグラネイト。ブラックスターの人間。つまり、トランと同じ陣営の人間だ。
そんな者に向かってトランに関する愚痴を言い続けるというのは、かなりまずいのではないだろうか。
まず、私の愚痴がトラン本人へ伝わってしまうという可能性がある。また、仲間のことを悪く言われて良い気がする者などいないだろうから、グラネイト自身も嫌な気持ちになっているかもしれない。
「あ……ごめんなさい。つい……」
ひとまずそう述べておく。
愚痴を言い続けるよりかはましだろうと思ったから。
謝罪に対し、グラネイトは、けろっと返してくる。
「なぜ謝る?」
「え、っと……仲間のことを悪く言うなんて問題だったと思ったからよ」
「ふはは! なら心配はない!」
「え」
グラネイトはいきなり笑い出す。
まったく、何がおかしいのやら。
「心配はない、と言っている。なぜか? 理由は簡単」
「理由……」
「このグラネイト様も悪口を言う気でいたからだッ!!」
彼は、まるで決め台詞であるかのような、勢いのある声で放った。それに加え、「決まった!」というような自信に満ちた目で、こちらを見てくる。その様は「見ろ! かっこいい自分を!」とでも叫んでいるかのよう。
今のグラネイトは、端から見れば完全に痛い人である。
「トラン! やつは最低最悪の男だ!」
「そ、そう……」
トランが最低最悪ということ自体は頷ける。しかし、同じ陣営のグラネイトがトランのことを批判しているのを聞くと、複雑な心境にならずにはいられなかった。
そもそも、それでいいのか。
そんな関係で問題ないのか。
「貴方がトランをそこまで悪く評価しているとは思わなかったわ」
「あぁ、もちろん! グラネイト様とて、ついさっきまでは、やつがこれほど最低な男だとは思っていなかった!」
……ついさっきまで?
言い方が妙に引っ掛かる。
「もしかして、彼と何かあったの?」
思いきって直球で尋ねてみた。
「そうだ! やつはこのグラネイト様に嘘をつきやがった!」
私の問いに、グラネイトは獣が唸るように叫んだ。
「嘘って?」
「王子を殺せば、その対価としてこのグラネイト様の願いを叶えると、やつはそう言った。だが! それは嘘だったのだ!」
グラネイトは今にも暴れだしそうな声色で事情を説明し始める。
「やつの真の狙いは、失敗続きのグラネイト様を闇へ葬ることだったのだ!」
自分で自分を「失敗続き」などと言って、恥ずかしくはないのだろうか。ぼんやりとそんなことを考えてしまった。
「彼は貴方のことも攻撃したの?」
「そうだ。やつは黒い矢で、デスタン諸共俺を殺そうとした。グラネイト様はやつに騙された! くそぉ!」
グラネイトは強く握った拳を震わせている。
込み上げる感情を抑えようとしてはいるが抑えきれない、といったところか。
そうすればグラネイトにとやかく言うことはしない、ということも。
「もちろん! グラネイト様は何も嘘はついていない。それゆえ、逃げも隠れもしない。必要がないからだ!」
グラネイトはすぐにそう返す。
彼の声は、嘘をついている者のそれとは思えないものだった。
そこへ、ミセが口を挟む。
「リゴールくんったら、どうしちゃったのかしら? この男性は悪い方なんかじゃないわよ」
「……ミセさん」
「デスタンは疲れたみたいだったから、先にアタシの部屋へ行ってるわ。だって、アタシのデスタンだもの」
ミセは、少し間を空けて続ける。
「連れていってあげるわ」
「ぐるではないでしょうね……?」
今リゴールは疑り深くなってしまっているらしく、ミセの言葉さえすんなりと信じることはしなかった。
グラネイトの嘘への加担を疑われたミセは、目を丸くする。
そして数秒経ってから、頬に片手を当てて冗談混じりに発した。
「あーら! アタシを疑うなんて失礼ねぇ」
「……すみません」
静かな声での謝罪に、一瞬室内が静まり返る。
「ま、そんな日もあるわね。じゃあ、早速案内するわぁ」
「ありがとうございます」
その後、リゴールはミセの後を追って、デスタンに会いに行った。
部屋を出る直前、彼は私をちらりと見て、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
私はグラネイトと二人きりになる。
仕留める気満々の彼と二人になったわけではないし、幸い今は手元に剣がある。それゆえ「どうして私を置いていくの!」と叫びたくはならなかった。が、直前まで敵であった者と二人きりになるというのは、やはり不安なものである。
特に、今のグラネイトは、どういう状態なのかが分からない。
本当に戦意を失っているのか。あるいは、正面から殴り合う気はないが隙があれば殺るつもりなのか。それとも、戦意がないように振る舞っているのは完全に嘘なのか。
分からないから、不安は消えない。
——そんな私に彼が声をかけてきたのは、突然だった。
「少しいいか?」
身長では豪快に負けている。戦闘能力でも大敗している。
そんな敵からこんなにも近くで声をかけられると、一瞬にして全身の筋肉が強張った。しかも、冷や汗まで溢れてくる。
「な……何なの」
「トランのことは知っているのだな?」
「え」
想定していなかった問い。
私は戸惑い、すぐには言葉を返せない。
「知っているのか知らないのか、どっちだ!」
「し、知ってるわ!」
急に調子を強められ、うなじから背中にかけて寒気が走る。
だが、すぐに「この程度で怯んでいてはいけない」と自分へ言い聞かせ、何とか言葉を返すことができた。
「少年みたいな外見の人でしょ」
「……そうか。知っているのだな」
なぜか溜め息をつくグラネイト。
その様子は、まるで、この世界のどこにでもいる普通の男性のよう。
「えぇ」
「なら、やつの卑怯さも知っているのだな?」
「そうね。デスタンを誘拐したり、操ってリゴールに危害を加えさせたり、最低最悪だったわ」
敵との会話で緊張していたはずだったのに、一度口を開くと、言葉はするすると出た。詰まり詰まりになるでもなく、非常に小さな声になるでもなく、敵に擦り寄るようなことばかりを発するでもなく。
「おかげであの後気まずくなって、誤解が発生して、元に戻るまでにもだいぶ時間がかかったわ」
そこまで言った時、突如、脳内に焦りが生まれる。
というのも、「言い過ぎているのでは!?」と思ったのだ。
私は、自然な感じで色々文句を言っていたが、聞いている相手はグラネイト。ブラックスターの人間。つまり、トランと同じ陣営の人間だ。
そんな者に向かってトランに関する愚痴を言い続けるというのは、かなりまずいのではないだろうか。
まず、私の愚痴がトラン本人へ伝わってしまうという可能性がある。また、仲間のことを悪く言われて良い気がする者などいないだろうから、グラネイト自身も嫌な気持ちになっているかもしれない。
「あ……ごめんなさい。つい……」
ひとまずそう述べておく。
愚痴を言い続けるよりかはましだろうと思ったから。
謝罪に対し、グラネイトは、けろっと返してくる。
「なぜ謝る?」
「え、っと……仲間のことを悪く言うなんて問題だったと思ったからよ」
「ふはは! なら心配はない!」
「え」
グラネイトはいきなり笑い出す。
まったく、何がおかしいのやら。
「心配はない、と言っている。なぜか? 理由は簡単」
「理由……」
「このグラネイト様も悪口を言う気でいたからだッ!!」
彼は、まるで決め台詞であるかのような、勢いのある声で放った。それに加え、「決まった!」というような自信に満ちた目で、こちらを見てくる。その様は「見ろ! かっこいい自分を!」とでも叫んでいるかのよう。
今のグラネイトは、端から見れば完全に痛い人である。
「トラン! やつは最低最悪の男だ!」
「そ、そう……」
トランが最低最悪ということ自体は頷ける。しかし、同じ陣営のグラネイトがトランのことを批判しているのを聞くと、複雑な心境にならずにはいられなかった。
そもそも、それでいいのか。
そんな関係で問題ないのか。
「貴方がトランをそこまで悪く評価しているとは思わなかったわ」
「あぁ、もちろん! グラネイト様とて、ついさっきまでは、やつがこれほど最低な男だとは思っていなかった!」
……ついさっきまで?
言い方が妙に引っ掛かる。
「もしかして、彼と何かあったの?」
思いきって直球で尋ねてみた。
「そうだ! やつはこのグラネイト様に嘘をつきやがった!」
私の問いに、グラネイトは獣が唸るように叫んだ。
「嘘って?」
「王子を殺せば、その対価としてこのグラネイト様の願いを叶えると、やつはそう言った。だが! それは嘘だったのだ!」
グラネイトは今にも暴れだしそうな声色で事情を説明し始める。
「やつの真の狙いは、失敗続きのグラネイト様を闇へ葬ることだったのだ!」
自分で自分を「失敗続き」などと言って、恥ずかしくはないのだろうか。ぼんやりとそんなことを考えてしまった。
「彼は貴方のことも攻撃したの?」
「そうだ。やつは黒い矢で、デスタン諸共俺を殺そうとした。グラネイト様はやつに騙された! くそぉ!」
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