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episode.67 クレアの武芸大会
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クレアに到着した。
そこは、非常に賑わっている都市だった。
大通りは道幅がかなり広い。しかし、それでも混雑。人で溢れかえっている。武芸大会が開かれるからなのか、いつもこのような感じなのか、そこは分からない。ただ、少なくとも、私がこれまで行ったことのあるどの街より人が多いことは確かだ。
「よく眠っていましたね、デスタン」
「……失礼しました」
「いえ、責めているわけではありませんよ。では早速。武芸大会とやらの会場へ行ってみましょう」
馬車を降りた私たち三人は、砂利の敷かれた大通りへ足を踏み入れる。
途中ではぐれないよう、注意しながら。
デスタンの案内に従い、歩くことしばらく。目の前に、黒くて大きい建造物が現れた。全体的な形は円形で、外側の壁の高さは二階建ての家を縦に二つ重ねたくらい。それゆえ、外から中の様子を覗き見ることはできそうにない。
「大きいですね……!」
一番に感嘆の声を漏らしたのはリゴール。
「こんな大きさの建物、こちらへ来てから初めて見るかもしれません……!」
「それは、ホワイトスターではよくあったということ?」
リゴールを一人で喋らせ続けるのも何なので、思いきって質問してみた。すると彼は、頭を左右に動かす。
「いえ。よく、はありません。ただ、城はそこそこな大きさがありました」
「お城! 確かに、お城ならとっても大きいのでしょうね!」
私は城で暮らしたことはないし、城下町で暮らしたことさえない。だから、本物の城というものは知らない。私の脳に刻まれているその姿とは、昔絵本で見たものなのである。
それゆえ、私が考えている城のイメージが実際の城と一致しているのかどうかは、分からない。
「そうですね。内部が妙に複雑で、よく迷子になりました」
「迷子って……」
「似た部分が多いので、歩いていると段々よく分からなくなってくるのです」
円形の建造物に向かってゆっくり歩きつつ、私はリゴールと言葉を交わす。深い意味のない話題ばかりではあるが、私としてはその方が気が楽なので、嫌ではない。
「私も迷いそうだわ……」
「はい、皆迷います。わたくしのところへ来て下さったばかりの頃、デスタンもよく迷っていました」
リゴールがそう言ったところへ、デスタンがすかさず口を挟んでくる。
「余計なことを言い触らさないで下さい、王子」
きちんとした雰囲気の黒い上下を身にまとっているデスタンは、隙のない印象だ。日頃の彼が情けなく見えるというわけではないが、今の彼は、特に完璧な雰囲気を漂わせている。
それだけに、「よく迷っていた」などという話を聞くと、不思議な感じがしてしまう。
「何を言い出すのです? デスタン。余計なことではありませんよ?」
「余計なことです」
「昔貴方が迷子になっていた話をしているのです。余計などではありませんよ?」
「恥をかかせるような話は止めて下さい」
リゴールとデスタンの永遠に続きそうなやり取り。こういったことは時偶発生するので、驚きはしない。
「そろそろ会場へ入りましょう」
「あ! デスタン、話を逸らしましたね!?」
速やかに歩き出すデスタン。
リゴールはその背を追って、小走りする。
「何のことでしょう? ……行きますよ」
「えぇっ」
滑らかな足取りで速やかに先頭を行くデスタン。その黒い背中を小動物のように懸命に追うリゴール。そんな二人に、私はついていった。
円形の大きな建造物。その内部は、個性的な構造になっていた。というのも、建物自体はドーナツのような形になっていたのである。しかも、一階の一部を除けば、そのほとんどが客席。座席がびっしりと並んでいて、自由に座ることができるようになっている。
私たち三人は速やかに席につこうとしたのだが、一階の客席にはもうあまり空きがなく、結局三階まで上がることになった。最上階である。
建物の内をくり貫いて作ったような楕円形のフィールドには若々しい緑がきっちり並んで生えていて、風が吹くたび、それらは波のように揺れる。
「面白い構造ね」
「ですね! わたくしもそう思います」
隣の席のリゴールと視線を合わせ、意味もなく笑みをこぼす。
「期待通りの実力者がいれば良いのですが……」
「真剣ね、デスタンさん」
「当然です。遊びに来たわけではありませんから」
まだ誰も現れていないフィールドへ真剣な眼差しを向けるデスタンの横顔を見ていたら、胸の中でおかしな感情が膨らんだ。これは一体何? と問いたい衝動が込み上げてきたが、問う相手がいないため諦めた。
そんな時、リゴールが唐突に問いを放つ。
「しかしデスタン。実力者を見つけられた場合、いかにして知り合いになるのですか?」
フィールドにはまだ誰も現れない。だが、客席は着実に埋まってきている。最上階でもほぼ空席がない状態、かなりの賑わいだ。
武芸大会がここまで人気のある催し物だったとは。
こう言っては失礼かもしれないが、正直、驚きしかない。
「上位数名とは表彰後に言葉を交わすことができるそうなので、その時にでも声をかけてみるつもりです」
デスタンの淡々とした答えに、リゴールは眉を寄せる。
「呼び出せれば楽なのですがね……」
表彰後に声をかけられる時間が設けられているというのは、ありがたいことだ。だが、たとえそのような時間があったとしても、私は話しかけには行けないだろう。
「王子がそう仰るのは分かります。城では呼び出すのが普通でしたから」
「わざわざ話しかけにいかねばならないというのは、どうも違和感が……」
リゴールはこの世界での暮らしにすっかり馴染んでいるように見える。苦労しているようにも見えないし。
しかし、もしかしたらそれは違うのかもしれない。それは、私の都合のいい解釈なのかもしれない。
そんなことを、少し考えたりした。
「それは理解しています。が、ここでは他人を自由に呼び出すわけにはいきません。王子、どうか我慢なさって下さい」
「……そうですね。わがままは言いません」
直後。
わぁぁ、と、客席から大きな声が沸き上がる。
一瞬何事かと思い焦ったが、事故や災害が発生したではないようで。フィールドを見下ろし、目を凝らすと、出場者が入場してきているのが視認できた。
武芸大会がようやく始まるようだ。
出場者が入場してくるなり、会場全体の盛り上がりが一気に高まった。客席も物凄い騒ぎで、建物が崩れてしまわないか不安なくらいである。
そこは、非常に賑わっている都市だった。
大通りは道幅がかなり広い。しかし、それでも混雑。人で溢れかえっている。武芸大会が開かれるからなのか、いつもこのような感じなのか、そこは分からない。ただ、少なくとも、私がこれまで行ったことのあるどの街より人が多いことは確かだ。
「よく眠っていましたね、デスタン」
「……失礼しました」
「いえ、責めているわけではありませんよ。では早速。武芸大会とやらの会場へ行ってみましょう」
馬車を降りた私たち三人は、砂利の敷かれた大通りへ足を踏み入れる。
途中ではぐれないよう、注意しながら。
デスタンの案内に従い、歩くことしばらく。目の前に、黒くて大きい建造物が現れた。全体的な形は円形で、外側の壁の高さは二階建ての家を縦に二つ重ねたくらい。それゆえ、外から中の様子を覗き見ることはできそうにない。
「大きいですね……!」
一番に感嘆の声を漏らしたのはリゴール。
「こんな大きさの建物、こちらへ来てから初めて見るかもしれません……!」
「それは、ホワイトスターではよくあったということ?」
リゴールを一人で喋らせ続けるのも何なので、思いきって質問してみた。すると彼は、頭を左右に動かす。
「いえ。よく、はありません。ただ、城はそこそこな大きさがありました」
「お城! 確かに、お城ならとっても大きいのでしょうね!」
私は城で暮らしたことはないし、城下町で暮らしたことさえない。だから、本物の城というものは知らない。私の脳に刻まれているその姿とは、昔絵本で見たものなのである。
それゆえ、私が考えている城のイメージが実際の城と一致しているのかどうかは、分からない。
「そうですね。内部が妙に複雑で、よく迷子になりました」
「迷子って……」
「似た部分が多いので、歩いていると段々よく分からなくなってくるのです」
円形の建造物に向かってゆっくり歩きつつ、私はリゴールと言葉を交わす。深い意味のない話題ばかりではあるが、私としてはその方が気が楽なので、嫌ではない。
「私も迷いそうだわ……」
「はい、皆迷います。わたくしのところへ来て下さったばかりの頃、デスタンもよく迷っていました」
リゴールがそう言ったところへ、デスタンがすかさず口を挟んでくる。
「余計なことを言い触らさないで下さい、王子」
きちんとした雰囲気の黒い上下を身にまとっているデスタンは、隙のない印象だ。日頃の彼が情けなく見えるというわけではないが、今の彼は、特に完璧な雰囲気を漂わせている。
それだけに、「よく迷っていた」などという話を聞くと、不思議な感じがしてしまう。
「何を言い出すのです? デスタン。余計なことではありませんよ?」
「余計なことです」
「昔貴方が迷子になっていた話をしているのです。余計などではありませんよ?」
「恥をかかせるような話は止めて下さい」
リゴールとデスタンの永遠に続きそうなやり取り。こういったことは時偶発生するので、驚きはしない。
「そろそろ会場へ入りましょう」
「あ! デスタン、話を逸らしましたね!?」
速やかに歩き出すデスタン。
リゴールはその背を追って、小走りする。
「何のことでしょう? ……行きますよ」
「えぇっ」
滑らかな足取りで速やかに先頭を行くデスタン。その黒い背中を小動物のように懸命に追うリゴール。そんな二人に、私はついていった。
円形の大きな建造物。その内部は、個性的な構造になっていた。というのも、建物自体はドーナツのような形になっていたのである。しかも、一階の一部を除けば、そのほとんどが客席。座席がびっしりと並んでいて、自由に座ることができるようになっている。
私たち三人は速やかに席につこうとしたのだが、一階の客席にはもうあまり空きがなく、結局三階まで上がることになった。最上階である。
建物の内をくり貫いて作ったような楕円形のフィールドには若々しい緑がきっちり並んで生えていて、風が吹くたび、それらは波のように揺れる。
「面白い構造ね」
「ですね! わたくしもそう思います」
隣の席のリゴールと視線を合わせ、意味もなく笑みをこぼす。
「期待通りの実力者がいれば良いのですが……」
「真剣ね、デスタンさん」
「当然です。遊びに来たわけではありませんから」
まだ誰も現れていないフィールドへ真剣な眼差しを向けるデスタンの横顔を見ていたら、胸の中でおかしな感情が膨らんだ。これは一体何? と問いたい衝動が込み上げてきたが、問う相手がいないため諦めた。
そんな時、リゴールが唐突に問いを放つ。
「しかしデスタン。実力者を見つけられた場合、いかにして知り合いになるのですか?」
フィールドにはまだ誰も現れない。だが、客席は着実に埋まってきている。最上階でもほぼ空席がない状態、かなりの賑わいだ。
武芸大会がここまで人気のある催し物だったとは。
こう言っては失礼かもしれないが、正直、驚きしかない。
「上位数名とは表彰後に言葉を交わすことができるそうなので、その時にでも声をかけてみるつもりです」
デスタンの淡々とした答えに、リゴールは眉を寄せる。
「呼び出せれば楽なのですがね……」
表彰後に声をかけられる時間が設けられているというのは、ありがたいことだ。だが、たとえそのような時間があったとしても、私は話しかけには行けないだろう。
「王子がそう仰るのは分かります。城では呼び出すのが普通でしたから」
「わざわざ話しかけにいかねばならないというのは、どうも違和感が……」
リゴールはこの世界での暮らしにすっかり馴染んでいるように見える。苦労しているようにも見えないし。
しかし、もしかしたらそれは違うのかもしれない。それは、私の都合のいい解釈なのかもしれない。
そんなことを、少し考えたりした。
「それは理解しています。が、ここでは他人を自由に呼び出すわけにはいきません。王子、どうか我慢なさって下さい」
「……そうですね。わがままは言いません」
直後。
わぁぁ、と、客席から大きな声が沸き上がる。
一瞬何事かと思い焦ったが、事故や災害が発生したではないようで。フィールドを見下ろし、目を凝らすと、出場者が入場してきているのが視認できた。
武芸大会がようやく始まるようだ。
出場者が入場してくるなり、会場全体の盛り上がりが一気に高まった。客席も物凄い騒ぎで、建物が崩れてしまわないか不安なくらいである。
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