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episode.70 剣を振らせてくれるなら
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リゴールは目を輝かせながらデスタンに駆け寄る。が、デスタンの目が捉えているのはリョウカ。
「貴女は確か……」
突如現れたデスタンに静かに声をかけられたリョウカは、怪訝な顔をする。
「アナタ、誰?」
「私はデスタンと申します」
「エアリの知り合い?」
「はい。そのような感じです」
デスタンの対応が丁寧だったからか、訝しむような色はあっという間にリョウカの顔から消えていった。
「そっか。あたし、クメ リョウカ! よろしくね」
リョウカはデスタンに対しても馴れ馴れしい。彼女の頭には、躊躇などという文字は存在していないようである。
そんな馴れ馴れしい態度を取られたデスタンだったが、彼がリョウカに対して嫌みを述べることはなかった。彼はただ、口元へほんの少し笑みを浮かべて「こちらこそ」と返すだけ。
デスタンのことだから、きっと嫌みの一つでも言い出すだろう——私はそう思っていたのだが、案外そんなことはなかった。
「リョウカさん、貴女は確か、先ほど二位になられた方でしたね」
「そうだけど」
「ちょうど良かった。貴女にお願いしたいことがあったのです」
デスタンの発言に暫し戸惑いを隠せていなかったリョウカ。しかし、しばらく時間が経ってから、「お願いって?」と尋ねる。問いに対し、デスタンは、穏やかな表情のまま「できれば、お力を貸していただきたいのです」と答えた。
私は武芸大会中、ずっと、リョウカの華麗な動作に心を奪われていた。
が、まさかデスタンも彼女に目をつけていたとは。
驚きだ。
武芸大会が終了した直後、彼は特に何も言っていなかった。そのため、これといった良い人材は見つからなかったのかな、と思っていたのだが。
「それは、あたしを雇いたいってこと?」
「はい。そうなりますね」
リョウカの問いに、デスタンは頷く。
「べつに、それでもいいよ! どうせ今から仕事探すつもりだったし!」
「構いませんか」
「うん! ただ、お代はちゃーんと払ってよね?」
デスタンは目を細め、リョウカから視線を逸らす。
何か考えているような目だ。
いきなり曇った表情になったデスタンに向けて、リョウカは言い放つ。
「ちょっとちょっと! 何なの? まさか、払うお金がないとか?」
だがデスタンはすぐには言葉を返さない。考え込んでいるような顔をしたまま、黙っている。何か思考しているのだろうか。
「何なのよ!? 気になることが分からないっていうの、一番モヤモヤする!」
橙色の短い髪を揺らしながら、リョウカは鋭く発する。
モヤモヤがイライラに変化しつつあるようだ。
その間、私とリゴールはというと、目の前で繰り広げられているやり取りを眺め続けることだけしかできなかった。片方は喚いているし、片方は無言。そんな奇妙な状態のところへ口を挟めるほど勇気がある私たちではなかったのだ。
——それからだいぶ経って。
「分かりました、お支払いします」
ついに、デスタンが口を開いた。
「そんなこと!? そんなことをあんなに考え込んでいたの!?」
「はい。お金をどこから出すか考えていたのです」
放たれたその言葉に、リョウカは豪快に驚く。
「アナタたち、貧乏なの!?」
彼女は驚きを隠す気など更々ないようで、目を見開き、口をぽかんと開いている。
ただ、顔そのものが可愛らしいため、個々のパーツを大きく変化させても可愛らしさは消えない。多少崩れたくらいで消え失せる愛らしさではないのだ。
「貧しいとまではいっていないかもしれませんが、豊かとも言えません」
デスタンは淡々とした調子で答えた。
彼の表現は正しい。
そう言って間違いないだろう。
私たちは決して、貧しい暮らしをしているわけではない。住む家も、食べる物も、着る服も、すべて持っている。そんな暮らしをしておいて「貧しい」などと言うのは、間違いだ。
しかし、だからといって「豊かだ」と言うのは、少し違っている気がする。
貧しくはないが、お金をどんどん払えるほど豊かでもない。
「ふぅん。そう。ま、お代はちょっとでいいよ。……で、あたしは何をすればいいの?」
リョウカは両手で前髪のピンを直しつつ、さらりと問う。
「護衛及び剣の指導をお願いしたいと考えています。しかし、無理そうでしたらどちらかだけでも構いません」
デスタンの言葉に、ニパッと笑うリョウカ。
「剣! いいね、それ!」
「両方頼んで構いませんか」
「うん! 剣をいっぱい振らせてくれるなら、お代は少なくてもいいよ!」
リョウカは段々やる気になってきたようだ。
少女ながら凄腕の彼女に剣を習えるなら、それに越したことはない。レベルの高い者から教わった方が、成長できるだろうから。
「それでは、よろしくお願いします」
デスタンは右手を左胸に添えつつ、腰から曲げて、ゆっくりとお辞儀をする。丁寧なお辞儀をされたリョウカは、慌てて、ペコペコと何度か会釈を繰り返していた。
その後、私たちは、荷物をまとめたリョウカと合流。爽やかな空の下、屋敷へ帰る馬車へ向かうべく移動を始める。
道を歩いている途中、ふと思う。
空気がいつもと違うな、と。
溌剌としたリョウカが近くにいてくれているからか、私たちを包む空気がいつもより明るい雰囲気な気がするのだ。
もちろん、これまでが暗かったわけではない。リゴールは明るく振る舞ってくれていたし、重苦しいなぁ、と感じたことはない。
けれど、今は、「いつもより明るい感じがするなぁ」と思う。
不思議なことだ。
一人増えただけで、こんなにも空気が変わるなんて。
「上手く協力者を見つけられて良かったですね、エアリ」
砂利道を歩いていると、リゴールが話かけてきた。
「リゴール、体調はもう大丈夫?」
「はい。回復しました」
「なら良かった。安心したわ」
「ありがとうございます」
人込みで体調を崩した時にはどうなることかと思ったが——そのおかげでリョウカと知り合いになれたのだから、結果的には幸運であったと言えるだろう。
「まもなく馬車が待機している場所へ着きます」
先頭を歩くデスタンが述べた、ちょうどその時、馬車の姿が見えてきた。
「貴女は確か……」
突如現れたデスタンに静かに声をかけられたリョウカは、怪訝な顔をする。
「アナタ、誰?」
「私はデスタンと申します」
「エアリの知り合い?」
「はい。そのような感じです」
デスタンの対応が丁寧だったからか、訝しむような色はあっという間にリョウカの顔から消えていった。
「そっか。あたし、クメ リョウカ! よろしくね」
リョウカはデスタンに対しても馴れ馴れしい。彼女の頭には、躊躇などという文字は存在していないようである。
そんな馴れ馴れしい態度を取られたデスタンだったが、彼がリョウカに対して嫌みを述べることはなかった。彼はただ、口元へほんの少し笑みを浮かべて「こちらこそ」と返すだけ。
デスタンのことだから、きっと嫌みの一つでも言い出すだろう——私はそう思っていたのだが、案外そんなことはなかった。
「リョウカさん、貴女は確か、先ほど二位になられた方でしたね」
「そうだけど」
「ちょうど良かった。貴女にお願いしたいことがあったのです」
デスタンの発言に暫し戸惑いを隠せていなかったリョウカ。しかし、しばらく時間が経ってから、「お願いって?」と尋ねる。問いに対し、デスタンは、穏やかな表情のまま「できれば、お力を貸していただきたいのです」と答えた。
私は武芸大会中、ずっと、リョウカの華麗な動作に心を奪われていた。
が、まさかデスタンも彼女に目をつけていたとは。
驚きだ。
武芸大会が終了した直後、彼は特に何も言っていなかった。そのため、これといった良い人材は見つからなかったのかな、と思っていたのだが。
「それは、あたしを雇いたいってこと?」
「はい。そうなりますね」
リョウカの問いに、デスタンは頷く。
「べつに、それでもいいよ! どうせ今から仕事探すつもりだったし!」
「構いませんか」
「うん! ただ、お代はちゃーんと払ってよね?」
デスタンは目を細め、リョウカから視線を逸らす。
何か考えているような目だ。
いきなり曇った表情になったデスタンに向けて、リョウカは言い放つ。
「ちょっとちょっと! 何なの? まさか、払うお金がないとか?」
だがデスタンはすぐには言葉を返さない。考え込んでいるような顔をしたまま、黙っている。何か思考しているのだろうか。
「何なのよ!? 気になることが分からないっていうの、一番モヤモヤする!」
橙色の短い髪を揺らしながら、リョウカは鋭く発する。
モヤモヤがイライラに変化しつつあるようだ。
その間、私とリゴールはというと、目の前で繰り広げられているやり取りを眺め続けることだけしかできなかった。片方は喚いているし、片方は無言。そんな奇妙な状態のところへ口を挟めるほど勇気がある私たちではなかったのだ。
——それからだいぶ経って。
「分かりました、お支払いします」
ついに、デスタンが口を開いた。
「そんなこと!? そんなことをあんなに考え込んでいたの!?」
「はい。お金をどこから出すか考えていたのです」
放たれたその言葉に、リョウカは豪快に驚く。
「アナタたち、貧乏なの!?」
彼女は驚きを隠す気など更々ないようで、目を見開き、口をぽかんと開いている。
ただ、顔そのものが可愛らしいため、個々のパーツを大きく変化させても可愛らしさは消えない。多少崩れたくらいで消え失せる愛らしさではないのだ。
「貧しいとまではいっていないかもしれませんが、豊かとも言えません」
デスタンは淡々とした調子で答えた。
彼の表現は正しい。
そう言って間違いないだろう。
私たちは決して、貧しい暮らしをしているわけではない。住む家も、食べる物も、着る服も、すべて持っている。そんな暮らしをしておいて「貧しい」などと言うのは、間違いだ。
しかし、だからといって「豊かだ」と言うのは、少し違っている気がする。
貧しくはないが、お金をどんどん払えるほど豊かでもない。
「ふぅん。そう。ま、お代はちょっとでいいよ。……で、あたしは何をすればいいの?」
リョウカは両手で前髪のピンを直しつつ、さらりと問う。
「護衛及び剣の指導をお願いしたいと考えています。しかし、無理そうでしたらどちらかだけでも構いません」
デスタンの言葉に、ニパッと笑うリョウカ。
「剣! いいね、それ!」
「両方頼んで構いませんか」
「うん! 剣をいっぱい振らせてくれるなら、お代は少なくてもいいよ!」
リョウカは段々やる気になってきたようだ。
少女ながら凄腕の彼女に剣を習えるなら、それに越したことはない。レベルの高い者から教わった方が、成長できるだろうから。
「それでは、よろしくお願いします」
デスタンは右手を左胸に添えつつ、腰から曲げて、ゆっくりとお辞儀をする。丁寧なお辞儀をされたリョウカは、慌てて、ペコペコと何度か会釈を繰り返していた。
その後、私たちは、荷物をまとめたリョウカと合流。爽やかな空の下、屋敷へ帰る馬車へ向かうべく移動を始める。
道を歩いている途中、ふと思う。
空気がいつもと違うな、と。
溌剌としたリョウカが近くにいてくれているからか、私たちを包む空気がいつもより明るい雰囲気な気がするのだ。
もちろん、これまでが暗かったわけではない。リゴールは明るく振る舞ってくれていたし、重苦しいなぁ、と感じたことはない。
けれど、今は、「いつもより明るい感じがするなぁ」と思う。
不思議なことだ。
一人増えただけで、こんなにも空気が変わるなんて。
「上手く協力者を見つけられて良かったですね、エアリ」
砂利道を歩いていると、リゴールが話かけてきた。
「リゴール、体調はもう大丈夫?」
「はい。回復しました」
「なら良かった。安心したわ」
「ありがとうございます」
人込みで体調を崩した時にはどうなることかと思ったが——そのおかげでリョウカと知り合いになれたのだから、結果的には幸運であったと言えるだろう。
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