あなたの剣になりたい

四季

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episode.69 少女現る

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 いきなり現れたのは、武芸大会にて二位を取っていた少女。

 橙色のショートヘアは少年のようで、しかし、前髪を留めている白い花のピンは可愛らしい。そして、ふっくらした頬のラインも、また愛らしい。小さい動物のような愛らしさがある。

 ただ、眼光は鋭い。
 戦士のようなそれである。

 少女らしい容姿に、戦士のような目つき。そのアンバランスさに、妙に興味をそそられてしまう。

 また、服装も独創的だ。

 胸元はY字のように合わさっており、胴にはそこそこ太い帯が巻かれている。ちなみに、その太い帯の柄は、ピンについているのと同じ白い花だ。帯の下から出ている部分はスカートのようになっていて、丈は太ももの真ん中までと結構短い。が、膝上までのスパッツを穿いているため、足が丸出しになっているということはない。

「公共の場でいちゃつくとか駄目!」
「えっ……」

 いきなり注意されてしまった。

 個人的に、彼女とは話してみたいと思っていた。それだけに、彼女の方からやって来てくれるとは奇跡のような展開だ。それも、嬉しい奇跡である。

 ただ、彼女の顔つきは険しい。
 すぐに友達になれそうな雰囲気ではない。

「す、すみませんっ……」

 少女に注意され、即座に謝ったのはリゴール。彼は、すぐに立ち上がり、勢いよく頭を下げたのだった。

「そのっ……わたくしが勝手に絡んでいただけなのです……! エアリは悪くありませんっ……!」

 いやいや、いきなり「エアリ」なんて固有名詞を出したら混乱させてしまうでしょ?
 そう突っ込みたい気分になったが、その言葉は飲み込んだ。

「ふぅん。庇うんだ」

 唇を尖らせながら、訝しむような視線をリゴールへ向ける。

「……貴女、少し不躾ですよ。庇うも何も、エアリは悪いことは何もしていません」
「よく言うね。こんなところで抱き締めあっておいてさ」
「抱き締めあって? まさか。わたくしが一方的に抱きついただけです!」

 いや、堂々と言えることではないと思うのだが……。

「ま、どっちでもいいよ。ただ、今度からは人気ひとけのないところでやってよね!」

 きっぱり言い放ち、少女はくるりと進行方向を変える。

 せっかくの機会なのに。
 そう思った私は、半ば無意識のうちに発していた。

「待って!」

 少女は足を止め、振り返る。
 その可愛らしい顔には、驚きの色が満ちていた。

「何?」
「あ……その……」

 想定外の速やかな反応に、私はまともな言葉を返せない。
 彼女を引き留めたのは衝動的な行いであったため、実際に言葉を交わす心の準備はまだできていなかったのだ。

「ちょっと、何なの?」
「えと……貴女と話がしたいの!」

 私はすぐに立ち上がり、彼女の方へと駆け寄る。

「話? あたしと?」
「そうなの! 武芸大会での活躍、凄いと思っていたのよ!」

 今になって、ようやく、まともな言葉を発せるようになってきた。

「……見てくれてたの?」

 結果は二位だったが、戦いの華やかさでは一位だったと言っても過言ではないだろう。

「えぇ! 剣を振り回して戦う姿、凄くかっこよかったわ!」

 そう告げると、少女は急に頬を緩めた。

「本当に? ……そう言ってもらえたら、嬉しいな」

 それまでの彼女は、険しい表情をしていたため、気の強さが前面に出ていた。いかにも勇ましそう、という雰囲気をまとっていた。が、頬を緩めた途端、その雰囲気はガラッと変わった。今度は可愛らしさが溢れ出てきたのである。

「ありがと! 励みになるよ!」
「でも……惜しかったわね、二位だなんて」
「えへへ。最後の最後で負けちゃったんだよねー」

 少女はペロリと小さく舌を出す。
 いたずらをごまかす幼い女の子を彷彿とさせる、可憐な振る舞いだ。

 普通、それなりに年をとった女性が舌をペロリと出すような動作をすれば、奇妙な感じになってしまうだろう。だが、彼女がそれをする様子には、違和感なんてものは少しもなかった。違和感がないどころか、純粋に可愛らしいと思うことができる。

 一人思考を巡らしていると、彼女は突然手を差し出してきた。

「あたしリョウカ! クメ リョウカっていうの。よろしくね!」

 そうはっきりと名乗り、少女——リョウカは可愛らしく笑う。

 まさか自ら名乗ってくれるとは思っていなかったため、驚いた。が、名を問う時間を短縮できたのは幸運と言えるかもしれない。余計な時間を使わずに済んだから。

「クメ リョウカさん?」
「うん! そだよ!」
「何だか珍しい名前ね」
「そうだと思うよ。だってあたし、この国の人間じゃないから」

 リョウカは愛らしい顔に真夏の空のような爽やかな笑みを浮かべる。

「この国の人間じゃない? ……ってことは、まさか、ホワイトスターとかブラックスターとかの……!?」

 動揺を隠しきれぬまま、私はそんなことを言ってしまう。
 気軽に口にしてはならないことなのに。

「え? 何それ?」

 ポカーンと口を開けるリョウカ。

「あ……いいえ。今のは……何でもないわ、気にしないで」

 胸の前で開いた両手を振りながら、慌てて放つ。
 するとリョウカは、眉を困っている人ような位置へ動かし、呆れ笑い。

「もう、何なのー?」
「変よね。いきなり声をかけて、しかもこんなこと。ごめんなさい」

 呆れ笑いで済んでいるだけまだましだ。だが、その程度で済んでいるのは、リョウカが広い心の持ち主だから。もしリョウカが広くない心の持ち主であったなら——いや、平均的な心の持ち主であったとしても、呆れ笑いだけで済ませてはくれなかっただろう。

 今日出会ったばかりの相手が、何の前触れもなく知らない単語を吐き出せば、誰だって反応に困る。
 私とて、出会ったばかりの人がいきなり知らない単語をいくつも言い出したら、戸惑わずにはいられないだろうと、そう思う。

「べつに謝らなくていいよ! 悪いことをしたわけじゃないし!」
「……ありがとう」
「気にしないで!」

 そう言って、リョウカは笑う。

「それでさ! アナタは名前何ていうんだっけ? エアリだった?」

 お、既に知られている。

 一瞬「なぜ知っているの?」と訝しみそうになったが、リゴールが先ほど「エアリ」という単語を口から出していたことを思い出したため、訝しむ気持ちはすぐに消えた。

「えぇ。エアリ・フィールドよ、よろしく」
「よろしくね!」

 こうして、私とリョウカは握手を交わす。
 友情の始まりを告げる握手……であってほしい。

「エアリって呼ぶね! あたしのことはリョウカでいいから!」
「呼び捨て?」
「うん! その方が馴染める!」
「分かったわ」

 視線を重ね、笑い合う。
 リョウカの心と私の心の間の距離が、ぐっと縮まった気がした。

 ——その時。

「デスタン!」

 私の近くにいたリゴールが、唐突にそんなことを発した。

 彼がそう言ったのを聞き、視線を少しばかり動かす。
 すると、滑らかになびく藤色の髪が視界に入った。

 先ほどリゴールの体調不良に気づかず行ってしまったデスタンが、私たちの居場所を探し当てたようである。
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