あなたの剣になりたい

四季

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episode.85 剣技

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 人のいない、処刑場裏。
 私とデスタンは、そこで待機する。

 紅の空の下、その時を待つ。誰かに見つかったわけではないが、それでも妙に緊張してしまう。

 だが、それも当然と言えば当然だ。敵地にいるのだから、緊張せずにいられるわけがない。

「ウェスタさん……大丈夫かしら……」

 彼女は女性だ。そこらの女性より遥かに強いことは確かだが、それでも女性だから、心配せずにはいられない。警備の相手を女性一人に任せるなんて、普通ならあり得ないことだろう。

「問題ありません」
「けど、女の人なのよ……?」
「ウェスタは私と血を分けた者。それに、私は使えない魔法も使えます。そう易々とやられはしないでしょう」

 デスタンはウェスタの戦闘能力を信頼しているようだ。

 ならば、私も信じよう。
 疑っていても何も始まらない。

「……そうね。そうよね。ありがとう、デスタンさん」
「いえ」

 その時。
 処刑場の正面入り口の方から、慌てたような叫び声が響いてきた。

「始まったようですね」
「えぇ」

 デスタンと目を合わせ、お互い、一度頷く。
 それから私はペンダントを剣へと変化させる。これで、戦闘準備は完了だ。

「行きますよ」
「えぇ」

 こうして私たちは、処刑場の場内を目指す。


 裏入り口から場内に入り込んだ。

 私の役割は、デスタンが場内の敵の相手をしている間に、リゴールの体の拘束を解き、彼を処刑場から連れ出すこと。そして、別れる直前デスタンから受け取った本をリゴールに渡すこと。

 正直言うなら、ここまで来ても私は怖かった。敵前に姿を晒すわけだから。

 でも、もう逃げることはできない。
 前へ進む道しかないのだ、私には。

 デスタンが先に、処刑場内へ突っ込んでゆく。

 それから私も駆けた。
 目指すは、処刑場の中央に座らされているリゴール。

「リゴール!」

 名を呼ぶと、手足を拘束された状態で座っていたリゴールが顔を上げる。彼の青い瞳が、間違いなくこちらを向いた。

「……エアリ」
「今行くから!」

 だが、あっさり通させてはもらえない。

 というのも、リゴールの傍に待機していた兵二人が、立ち塞がったのである。

 尖った帽子を被り、軽装ながら鎧を身につけ、槍を持っている。そんな男性二人が、その槍の先をこちらへ向けてくる。

「させんぞ! 賊め!」

 以前の私なら相手にならなかっただろう。
 でも今は違う。
 私はリョウカの指導を受けてきた。少しは戦えるようになっているはず。冷静でありさえすれば、二人くらい何とかなる。

「オラァ!」

 片方の兵は槍を大きく振った。私はその場で咄嗟に屈み、槍の先を避ける。そして、全力で剣を振り抜く。

「グァバ!」

 剣の先が、兵の太もも辺りを薙いだ。
 兵の動きが鈍る。

 そこが狙い目!

 もう一撃、今度は腹部を斬りつける。

 赤い飛沫を浴びてしまったが気にせず、すぐに、もう一人の兵へと意識を向ける。

「よくも! 許さん!」

 まだ斬っていない方の兵は、鬼のような形相をしながら襲いかかってくる。相方をやられたことで本気になったのだろう。

 でも、負けられない。
 傷つけるのは申し訳ないが、それでも倒す。

「ごめんなさい!」

 柄をしっかり握り、兵に向かって勢いよく剣を振る。

「ルァイム!!」

 槍の先が私に届くより速く、剣が兵を切り裂いた。兵はそのまま、地面に崩れ落ちる。

 これで二人とも片付いた。
 やっとリゴールのところへ行ける。

「リゴール、大丈夫?」

 地面に座り込んだまま愕然としているリゴールに声をかける。

「……エアリ」
「怪我はない?」
「は、はい。しかし、これは一体……」

 意外なことに、リゴールの両手両足を拘束しているのは縄だった。
 これなら剣で何とかできる。

「デスタンさんが助けに来てくれたの。それに、ウェスタさんも協力してくれているのよ」

 リゴールの両手両足を拘束している縄を、剣の先で速やかに断つ。そして、四肢が自由になったにもかかわらずぼんやりしているリゴールに、言葉をかける。

「もう動けるわよ」

 すると彼は、戸惑ったような表情で、自由になった自身の両手を見ていた。

「そうだ。はい、これ」

 私は彼に本を差し出す。

「ありがとうございます……!」
「このまま脱出するわよ」
「……は、はい。そうですね。まずはここから離れなくてはですね」

 リゴールは片手に本を持った状態で立ち上がる。

 ——刹那。

「ふっ!」

 背後からの声に、振り返る。

 そして、私は愕然とした。

 デスタンが斬り伏せられていたのである。

 その光景を目にしたのは、私だけではなかった。リゴールも、ほぼ同時にそれを見ていた。信じられない、というような顔をしながら。

「デスタンさん!?」

 どうしよう。どうすれば良いのだろう。

 このまま逃げればリゴールを助けることはできるが、デスタンを放置してゆくことになる。デスタンを助けに行けば、全員で脱出することはできるかもしれないが、逆に全員殺られる可能性も高まる。

 何をどうすればいいの——悩んでいると、リゴールがデスタンに向かって駆け出した。

「待ってリゴール!」
「待てません!」

 駆け出したリゴールは、魔法を発動し、迫り来る兵を蹴散らしていった。

 さらに、彼はそのまま、デスタンを斬り伏せた張本人へ向かってゆく。凄まじい気迫で。

 デスタンを斬り伏せた張本人、唯一剣を持つ兵は、視線を、倒れて動かないデスタンから迫り来るリゴールへと移す。

 リゴールと剣使いの兵。
 一対一だ。

「覚悟!」
「本性を晒したな、白の王子!」

 リゴールは黄金の光の弾丸を剣使いの兵に向けて連射。兵はそれを、剣で確実に防いでいく。並の兵とは思えぬような剣技だ。

 ——だが。

 必死の形相のリゴールは、力押しで兵を仕留めた。

「レモッ……ン」

 光の柱を胸元に受け、剣使いの兵は後ろ向けに倒れ込む。
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