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episode.95 愛を囁いてくれる日まで
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ベッドに寝ているデスタンを目にしたミセは、一瞬、その顔に戸惑いの色を浮かべた。が、すぐに微笑み、デスタンの手を握る。
——直後、困惑したような顔に変わった。
「デスタン……?」
ミセに困惑したような顔をされたデスタンは、少々気まずそうに目を細めながら、返す。
「お久しぶりです、ミセさん」
「これは一体どうなっているのぉ……?」
「斬られて、それから動けなくなりました」
「えぇ!? 一体何なのぉっ!?」
派手に驚くミセ。
状況が理解できない、というような顔をしていた。
だが、それも無理はない。前まで活発に動いていた人間が静かにベッドに横たわっていれば、動揺もするだろう。
「治るの……よねぇ?」
「訓練すれば多少は機能が回復するかもしれないですが、完治はないだろうと言われています」
デスタンの口から放たれた言葉に、ミセはへたり込む。
信じられない、というような顔つきで。
「そん……な……」
ミセの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
彼女はデスタンを心から愛していた。だからこそ、デスタンがこんなことになってしまったショックは大きいだろう。そこまで親しいわけではない私でさえかなりの衝撃を受けたのだから、今ミセが受けているショックは凄まじいもののはずだ。
それからしばらく、室内はしんとした空気に包まれた。
ミセは力なく床に座って泣き出すし。デスタンは申し訳なさそうな顔をしつつ黙っているし。何とも言えない静寂の中、リゴールと私はさりげなく目を合わせることしかできなかった。言葉をかけるなんて不可能だった。
重苦しい沈黙を、やがて、デスタンが破る。
「泣かないで下さい、ミセさん。貴女が泣いても、私の体が治るわけではありません」
デスタンの発言に、私は驚いた。
良く見せようと飾り立てていない、彼らしい発言だったからだ。
ミセの家にいた頃、デスタンは彼女にだけは優しく振る舞っていた。微笑み、愛を囁き。彼女にだけは、デスタンとは思えないような穏やかで柔らかな言葉遣いで、紳士的に接していた。
それだけに、デスタンがミセの前でデスタンらしい発言をしたことに、内心かなり驚いたのである。
「え……。その言い方、何なのぉ……?」
涙に濡れた顔を持ち上げ、戸惑いの色を滲ませるミセ。
デスタンの振る舞いの異変に気がついたのは私だけではなかったようだ。
「この際、真実を話させていただきますが」
デスタンは首だけを僅かに動かし、顔をミセの方へ向ける。
そして、淡々とした調子で告げる。
「これが本来の私です」
ミセはまだ涙の粒の残る目を大きく開き、デスタンを見つめながら、瞳を震わせている。また、眉は奇妙な形に歪み、口はぽかんと空いて、情けない顔つきだ。
「私は貴女を騙しました」
「デス、タン……?」
「かつて私が貴女を愛していると言ったのは、嘘偽りです。私は貴女を愛してなどいませんでした」
真実を明かすデスタンの表情に躊躇いはなかった。
「私はただ、王子のために住む場所を確保できればそれで良かった」
ミセの目の前で躊躇なく真実を明かすデスタンを見守るリゴールは、かなり緊迫したような顔をしていた。
顔全体の筋肉が固くなってしまっている。
恐らく、今この部屋の中で一番緊張しているのはリゴールだろう。私にはそう思えてならない。
「そのために貴女を利用してきました。貴女は愛を囁きさえすればいくらでも力を貸して下さる。それは、私にとっては、とても都合が良かったのです」
リゴールがちらちら視線を送ってくる。まるで助けを求めるかのように。しかし私は、視線を返すこと以外何もできない。今の状況で声を出す勇気は私にはない。
ベッドの脇に座り込んでいるミセは、力なく俯いていた。
愛していた者に、愛してくれているのだと思っていた者に、想いなど欠片もなかったのだと、真実を告げられる。それはあまりに残酷で。ミセが顔を上げることすらままならないのも、理解できる。
「……結局……何もかも偽りだったと……」
「そういうことです」
「……どうして、そんな……」
ミセが絞り出すようにして発する声は、震えていた。
「私はそういう人間だということです」
デスタンはあまりに無情だった。
彼には感情などというものが存在しないのではないか——見ていてそう思ったくらい。
「憎いなら気が済むまで殺せば良いのです。素人とて、抵抗しない人間を殺めることくらいならできるでしょう」
十秒ほどの沈黙の後、ミセは唇を僅かに開く。
「……できないわよぅ」
ミセは改めてデスタンの片手を握り、涙で濡れ赤く腫れた顔をほんの少しだけ持ち上げる。
「……好き……なんだもの」
ミセの口から放たれた言葉に、驚きと戸惑いの入り混じったような表情を浮かべるデスタン。
「よく分かりません。馬鹿なのですか、貴女は」
馬鹿とか使わないで、馬鹿とか。
そんな言葉が出てきては、せっかくの良さげな空気が台無しだ。
「分かってるわよぅ……アタシが馬鹿だってことくらい……」
——認めた!?
「でも好きになってしまったら、仕方ないのよぉ……」
それは一理あるかもしれない。
誰かを愛している時、人間は、その人に関して盲目になるものだ。小さなことくらい許してしまえるし、少々のことでは幻滅しないという、普通ならあり得ないようなことが起こり得る。
だからこそ、冷静さを欠いてはいけないというものなのだが。
ただ、それは時に、武器ともなるだろう。
弱点になりうることは、強みにもなりうる。それは、どんな分野においても通じる、世の仕組みの一つ。
……もっとも、その仕組みをいかに上手く使うかが難しいわけなのだが。
「だから……デスタン、傍にいさせて……」
「なぜそうなるのでしょうか」
「アタシ、何でもするから……」
デスタンは戸惑っている。
一方リゴールはというと、顔を真っ赤にしていた。
「いつか本当に愛を囁いてくれる日まで……アタシ、貴方の傍にいるわ……」
——直後、困惑したような顔に変わった。
「デスタン……?」
ミセに困惑したような顔をされたデスタンは、少々気まずそうに目を細めながら、返す。
「お久しぶりです、ミセさん」
「これは一体どうなっているのぉ……?」
「斬られて、それから動けなくなりました」
「えぇ!? 一体何なのぉっ!?」
派手に驚くミセ。
状況が理解できない、というような顔をしていた。
だが、それも無理はない。前まで活発に動いていた人間が静かにベッドに横たわっていれば、動揺もするだろう。
「治るの……よねぇ?」
「訓練すれば多少は機能が回復するかもしれないですが、完治はないだろうと言われています」
デスタンの口から放たれた言葉に、ミセはへたり込む。
信じられない、というような顔つきで。
「そん……な……」
ミセの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
彼女はデスタンを心から愛していた。だからこそ、デスタンがこんなことになってしまったショックは大きいだろう。そこまで親しいわけではない私でさえかなりの衝撃を受けたのだから、今ミセが受けているショックは凄まじいもののはずだ。
それからしばらく、室内はしんとした空気に包まれた。
ミセは力なく床に座って泣き出すし。デスタンは申し訳なさそうな顔をしつつ黙っているし。何とも言えない静寂の中、リゴールと私はさりげなく目を合わせることしかできなかった。言葉をかけるなんて不可能だった。
重苦しい沈黙を、やがて、デスタンが破る。
「泣かないで下さい、ミセさん。貴女が泣いても、私の体が治るわけではありません」
デスタンの発言に、私は驚いた。
良く見せようと飾り立てていない、彼らしい発言だったからだ。
ミセの家にいた頃、デスタンは彼女にだけは優しく振る舞っていた。微笑み、愛を囁き。彼女にだけは、デスタンとは思えないような穏やかで柔らかな言葉遣いで、紳士的に接していた。
それだけに、デスタンがミセの前でデスタンらしい発言をしたことに、内心かなり驚いたのである。
「え……。その言い方、何なのぉ……?」
涙に濡れた顔を持ち上げ、戸惑いの色を滲ませるミセ。
デスタンの振る舞いの異変に気がついたのは私だけではなかったようだ。
「この際、真実を話させていただきますが」
デスタンは首だけを僅かに動かし、顔をミセの方へ向ける。
そして、淡々とした調子で告げる。
「これが本来の私です」
ミセはまだ涙の粒の残る目を大きく開き、デスタンを見つめながら、瞳を震わせている。また、眉は奇妙な形に歪み、口はぽかんと空いて、情けない顔つきだ。
「私は貴女を騙しました」
「デス、タン……?」
「かつて私が貴女を愛していると言ったのは、嘘偽りです。私は貴女を愛してなどいませんでした」
真実を明かすデスタンの表情に躊躇いはなかった。
「私はただ、王子のために住む場所を確保できればそれで良かった」
ミセの目の前で躊躇なく真実を明かすデスタンを見守るリゴールは、かなり緊迫したような顔をしていた。
顔全体の筋肉が固くなってしまっている。
恐らく、今この部屋の中で一番緊張しているのはリゴールだろう。私にはそう思えてならない。
「そのために貴女を利用してきました。貴女は愛を囁きさえすればいくらでも力を貸して下さる。それは、私にとっては、とても都合が良かったのです」
リゴールがちらちら視線を送ってくる。まるで助けを求めるかのように。しかし私は、視線を返すこと以外何もできない。今の状況で声を出す勇気は私にはない。
ベッドの脇に座り込んでいるミセは、力なく俯いていた。
愛していた者に、愛してくれているのだと思っていた者に、想いなど欠片もなかったのだと、真実を告げられる。それはあまりに残酷で。ミセが顔を上げることすらままならないのも、理解できる。
「……結局……何もかも偽りだったと……」
「そういうことです」
「……どうして、そんな……」
ミセが絞り出すようにして発する声は、震えていた。
「私はそういう人間だということです」
デスタンはあまりに無情だった。
彼には感情などというものが存在しないのではないか——見ていてそう思ったくらい。
「憎いなら気が済むまで殺せば良いのです。素人とて、抵抗しない人間を殺めることくらいならできるでしょう」
十秒ほどの沈黙の後、ミセは唇を僅かに開く。
「……できないわよぅ」
ミセは改めてデスタンの片手を握り、涙で濡れ赤く腫れた顔をほんの少しだけ持ち上げる。
「……好き……なんだもの」
ミセの口から放たれた言葉に、驚きと戸惑いの入り混じったような表情を浮かべるデスタン。
「よく分かりません。馬鹿なのですか、貴女は」
馬鹿とか使わないで、馬鹿とか。
そんな言葉が出てきては、せっかくの良さげな空気が台無しだ。
「分かってるわよぅ……アタシが馬鹿だってことくらい……」
——認めた!?
「でも好きになってしまったら、仕方ないのよぉ……」
それは一理あるかもしれない。
誰かを愛している時、人間は、その人に関して盲目になるものだ。小さなことくらい許してしまえるし、少々のことでは幻滅しないという、普通ならあり得ないようなことが起こり得る。
だからこそ、冷静さを欠いてはいけないというものなのだが。
ただ、それは時に、武器ともなるだろう。
弱点になりうることは、強みにもなりうる。それは、どんな分野においても通じる、世の仕組みの一つ。
……もっとも、その仕組みをいかに上手く使うかが難しいわけなのだが。
「だから……デスタン、傍にいさせて……」
「なぜそうなるのでしょうか」
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デスタンは戸惑っている。
一方リゴールはというと、顔を真っ赤にしていた。
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