あなたの剣になりたい

四季

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episode.118 平和的解決はもはや不可能

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 鎌の先端が、喉元に触れる。
 ひんやりした不気味な感覚。感覚だけでゾッとしてしまうような、得体の知れない恐ろしさがあって。

「待って。こんなこと、無意味だわ。止めてちょうだい」
「残念ながら止められないのよ……ごめんなさい」

 言葉で止めてもらえれば、どんなに良いだろう。そう思い、最後の望みを託して止めるように言ってみた。

 けれど、望みは砕かれた。
 平和的解決はもはや不可能だ。

 背後はベッド。前には王妃。挟まれてしまい動けない状況に陥っている。つまり、どちらかを動かさなくては、ここから逃れられないのだ。

 ——やる!

 心を決め、蹴りを入れる。
 ほんの少しではあるが、王妃の体勢が崩れた。

 その隙に、すかさず逃れる。

「ちょこまかと……!」

 王妃の表情が急激に固くなる。彼女の顔から、余裕が完全に消えた。

 睨まれるのは少々恐ろしい。
 けれど、命を奪われるのに比べればずっとまし。

 私は生きたい。生き延びて、いろんなことを経験したい。だから諦められはしないのだ。たとえそれが救済であったとしても、私はそれを欲していない。

 私は扉に向かって走る。

「待ちなさい!」

 背後から聞こえる王妃の声。
 それに対し、私は、咄嗟に謝る言葉を発する。

「ごめんなさい、無理!」

 謝りつつも、足は止めない。

 どこへ行く? 誰に知らせる?

 そんなことを考えながら、駆ける。

 デスタンは今は戦力にならないから駄目。リゴールはより一層殺し合いになりそうだから駄目。エトーリアは論外。バッサも、巻き込みたくないから駄目。

 少し考えて、リョウカの部屋へ行ってみることに決めた。

 彼女が部屋にいる保証はない。それはつまり、彼女が部屋にいなかったら終わりということ。ある意味では、危険な賭けだ。


 もうまもなくリョウカの部屋に着く。

「リョウカ! いる!?」

 扉に鍵はかかっていなかった。だから私は、ノックもせず、その扉を開けた。
 ベッドはなく、敷き布団が床に直接敷かれている。二メートルほどの高さのタンスや椅子があるだけの、殺風景な部屋。

「エアリ!?」

 幸運なことに、リョウカは部屋にいた。

「リョウカ! 追われてるの、助けて!」
「お、追われてる!? 何それっ!?」

 ——その直後。

 バン! と大きな音を立てて、乱暴に扉が開いた。

「逃がさないわよ……?」

 長い柄の鎌を持った王妃が姿を現す。その表情は、冷ややかなまま。余裕のなさもそのままだ。

「ちょっ……エアリ、誰?」

 リョウカは怪訝な顔で尋ねてくる。
 少し困惑しているからか、いつもより声は小さい。

「リゴールを狙っている集団の一人なの」
「それって、敵ってこと?」
「そうなるわね」

 私がそう答えると、リョウカは壁に立て掛けていた刀を手に取る。

「じゃ、倒すんだね?」
「えぇ」
「オッケー」

 リョウカはウインク。
 それを見て、私は少しほっとする。

 味方が一人いるのといないのとでは、不安感に大きな差がある。敵と対峙している時の孤独ほど辛いものはないから、その辛さを和らげてくれる人の存在は、とてもありがたい。

 それが腕の立つ人なら、なおさら心強いというもの。

「エアリ、護身にはタンスの木刀使って」
「た、タンス?」
「そ。そこのタンスに、あたしが使ってる木刀あるから」
「わ……分かったわ」

 王妃が一歩迫ってくる。

 ほぼ同時に、リョウカが一歩前へ出る。

 私はリョウカの指示に従い、タンスに近づく。そして、その扉を開く。

 リョウカが言った通り、タンスの中には木刀が入っていた。しかも一本ではなく、三本だ。
 三本も入っているとは思わなかったから、驚き、少し戸惑ってしまった。

 けれど、呑気に戸惑っている暇はない。
 私はそのうちの一本をすぐに手に取った。

 ——その時。

 王妃とリョウカの戦いが突如始まる。

「邪魔者はすべて始末するわ……たとえ見知らぬ者であっても、ね。んふふ……」
「舐めないでよねっ」

 鎌と刀が交わり、甲高い接触音が空気を揺らす。それはあまりに刺々しく、恐怖すら感じるような音。優しさや柔らかさなど、欠片もない。

「リョウカ! 私も……」
「エアリはいいよっ! そこにいて!」

 王妃は柄の長さを活かした豪快な戦い方。対するリョウカは、王妃とは逆に、素早く細やかな戦闘スタイル。

 二人の戦い方は対照的。
 まさに真逆だ。

 しかし、強さ自体は互角といったところ。両者共に、負けはしないが勝ちにも行けないという、微妙な状況に陥ってしまっている。

「援護するわ!」

 そんな状況だからこそ、私は言った。
 一対一では互角でも、一対二になればリョウカが有利になるのではないかと、そう考えたからである。

「大丈夫っ! だから下がってて!」

 けれど、あっさり断られてしまった。
 私などは戦力のうちに含まれない弱さだということだろうか。足手まといにしかならない、と思われているのかもしれない。

 ……だとしたら、少し悔しい。

「本当に大丈夫なの?」
「うんっ。任せて!」

 王妃とリョウカの激しい攻防は続く。

 どちらも引かない。
 それゆえ前にも出られない。

 そんな進展のない戦いが続くのを、私はただ見守ることしかできなくて。それは正直、悔しいし苦しい。
 本当は私も力になりたいのだ。

 そんなことを考えつつ、王妃とリョウカの戦闘を見守っていると。

「とりゃっ!」

 リョウカが先に動いた。
 刀ではなく足を使い、王妃の手元に蹴りを入れたのだ。

「くっ……」

 鎌の柄は王妃の手からするりと抜けた。
 結果、王妃は鎌を手放すことになったのである。

「せい!」

 そこへ、リョウカは刀を降り下ろす。

 王妃は咄嗟に、胸の前で両腕を交差させる——そこへリョウカの斬撃が入った。

「んぐっ……」

 赤い飛沫が散る。
 顔を強張らせている王妃に向かって、リョウカは直進していく。もちろん、刀を持ったまま。

「たあっ!」

 リョウカは刀を槍のように構え、先端を王妃に向けて突き出す。
 刀は、王妃の胸へ命中した。

「く……はっ……」

 私は、二人から少し離れた場所で、王妃を凝視する。
 刀は確かに刺さっているが、だからといって油断はできない。王妃が怪しげな術を使う可能性もゼロではないから。
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