あなたの剣になりたい

四季

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episode.132 黒いベールの王妃

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 現れた王妃は、黒いベールで唐紅の髪を隠していた。

 首には革製の黒いチョーカー。彼女の唇と同じように、しっとりとした艶がある。

 身にまとっている漆黒のドレスは、肩が大きく露出した大人っぽいデザイン。レース生地は硬そうながら肌に吸い付くようで、体のラインがくっきりと出ている。また、胸回りやウエスト、手首などには、金の糸で刺繍が施されている。それゆえ、シックな色みながら煌びやかな雰囲気に仕上がっていて。王妃という言葉の似合うドレスだ。

 そして、履いているのは夜の闇のような色をしたロングブーツ。膝までか太ももまでか、丈ははっきりとは分からない。ただ、不気味に輝く黒が、妙な色気を漂わせている。

「んふふ……今日こそ決着をつけましょう」

 王妃は右腕を前方へ伸ばす。すると、黒い鎌が現れた。現れた黒い鎌の柄は、王妃の右手にすんなり収まる。

「戦う気はありません!」

 リゴールが一歩前へ進み出る。

「このような戦いは無意味です。武器を下ろして下さい」

 相手は戦う気満々の王妃。けれども、リゴールは怯んでいない。彼は、本を取り出しもしないまま、堂々と王妃の前に立っている。

「武器を下ろせ? ……それは無理な願いね」

 うっすらと笑みを浮かべる王妃。

 こんなことを言ってはリゴールに失礼かもしれないが、普通に話して彼女を説得できるとはとても思えない。

 王妃はブラックスター王を盲信している。もはや、思考力はないも同然。そんな彼女が相手では、何を言っても効果はないだろう。
 すぐに暴力に走ったりしない。なるべく言葉で分かり合おうとする。それは、崇高な選択かもしれない。けれど、相手によっては、その選択が最善とは言えないこともあるのではないだろうか。

「わたくしは何もしません。ブラックスターの方々に手を出すつもりもありません。ですから、もう襲ってくるのは止めて下さい!」

 リゴールははっきりと告げる。
 だが、その言葉は、王妃には届かない。

「何を言っても……無駄よ!」

 王妃は鎌を手に、リゴールに迫る。

 私は剣を抜こうとした——が、それより先にリゴールは防御膜を張っていて。結果、振り下ろされた鎌を黄金の膜が防ぐ形になっていたのだった。

「戦いを続けても、こちらもそちらも損しかしません!」
「そんなことは関係ないのよ」

 王妃は冷ややかな声を発しつつ、さらに鎌を振る。だがリゴールもそう易々と殺られはしない。鎌による至近距離からの一撃を、リゴールはまたしても防御膜で防いだ。

「我らが王はホワイトスター王子を生かすなと仰せよ」
「発想が物騒なのです!」
「大人しくくたばりなさい」
「それはできません!」

 リゴールは体の前に張った黄金の膜で防御を継続している。が、王妃は諦めることなく、攻撃を仕掛け続けていて。彼女の攻めは、まだまだ終わりそうにない。

 しばらくして、王妃は一旦後ろへ下がる。
 それに合わせ、リゴールも一二歩後退。

 二人の間の距離が開く。

 時間ができたところを逃さず、リゴールは詰め襟の上衣から本を取り出す。そして、その本を開き、左手で持つ。

「説得は不可能なようですね」
「そう……んふふ。説得なんて、無意味よ……」

 王妃の言葉に、リゴールは目を伏せる。

「なら、申し訳ないですが撃退させていただきます」

 リゴールの声は真剣さに満ちていた。ただの脅しなどというものではないということは、少し聞けばすぐ分かる。

 だが王妃は、余裕の笑みを浮かべていた。

「んふふ……そう易々と撃退できると思わないことね」

 王妃は鎌を持っていない方の手を頭の高さにまで上げ、パチンと指を鳴らす。

 ——直後、王妃の前に得体の知れない生物が現れた。

 人間に似た二足歩行の生物で、背の高さは二メートルほど。頭部は坊主。肌はオリーブ色でごわごわしている。姿勢は猫背ぎみで、それゆえ、上に向かうに連れて大きくなっているように見えた。腕は私やリゴールの腕より数倍太く、ぱっと見ただけで筋肉がついていることが分かるような形をしている。

 そんな生物が三体も同時に現れたから、リゴールは愕然としていた。
 愕然とするのも無理はない。私だって、今、同じ思いだ。

「……さぁ、お行き」

 王妃が冷ややかに命じると、三体が一斉に動き出す。

 ターゲットは、リゴール。
 三体とも、リゴールを狙っている。

 太い腕を振り上げながら正面から接近してきた一体は、リゴールを捉えると、上げていた片腕を勢いよく振り下ろす。

 土煙が巻き起こる。
 だが、リゴールは飛び退いて回避していた。

「リゴール!」
「……問題ありません」

 声をかけると、彼は振り向いて返してくれる。
 その声には険しさがあり、余裕はあまりなさそうだった。

「私も戦うわ」
「構わないのですか?」
「もちろんよ」

 私は首にかけていたペンダントを握り、「剣!」と発する。すると、ペンダントは白い光を帯びて、剣へと形を変えた。

 そこへ、先ほど腕攻撃を仕掛けてきた個体が迫ってくる。

「任せて」

 私は剣の柄部分をしっかりと握り、躊躇いを払って、剣を振り抜く。
 白色の光が宙を駆け、生物を横向けに斬った。

 一撃目にしては上手くいった——けれど油断する暇はない。というのも、左右から残りの二体が迫ってきているのだ。

「エアリッ」
「……大丈夫!」

 両手で剣を持ち、その場で回転する。
 剣の刃を包む白い光が、回転によって円になり、近づこうとしてきていた生物二体を弾き飛ばした。

「それは何の技です!?」

 瞳を輝かせたリゴールが問いを放ってくる。

「あ、いや……」

 特に何の技ということはない。ただの思いつきだ。けれど、期待に瞳を輝かせて問われたら、ただの思いつきだなんて言いづらくなってしまう。がっかりされてしまいそうな気がして。

「何でもないの!」

 けれど、結局私は真実を述べた。
 嘘をついても何の意味もない、という結論に至ったからである。

 そして、改めて生物たちの方へ視線を向ける。少々可哀想な気もするが、残る二体も倒さなくてはならない。彼らが攻撃を仕掛けてくる以上、放っておくわけにはいかないのだ。

 だが、不思議なことに、二体は接近してこない。

 不気味に思い警戒していると、二体は、突如足を動かし始めた。歩くでも走るでもなく、その場で足を素早く動かす。前後左右、動かし、動かす。その様は奇妙としか言い様がない。

「何なの……?」

 徐々に土煙が巻き起こってくる。

 が、それ以外に変化はない。
 ただ少し視界が悪くなるだけ。

 どうやら攻撃ではなさそうだ。間接的な攻撃の可能性も考えたが、それもなさそう。となると、何か他の意図があるのだろう。しかし、現時点ではまだよく分からない。
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