あなたの剣になりたい

四季

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epilogue

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 早いもので、あれからもう一カ月が過ぎた。
 王を倒して以来、リゴールを狙った襲撃は一度もなく、退屈なほどに穏やかな時が流れている。

「長い間世話になった。感謝する」
「ふはは! 何だかんだで長く居座ってしまったな!」

 今日、ウェスタとグラネイトは屋敷を発つ。
 一度ブラックスターへ帰るのだという。
 私はリゴールやデスタンと共にそれを見送るため、屋敷の門の外側に立っている。

 晴れ渡った空は皆の心中のように澄んでいて、青一色。
 降り注ぐ日差しは、私たちを祝福してくれているかのようだ。

「どうか、お気をつけて」

 もうじき旅立とうという二人に、リゴールは控えめな調子で声をかけた。

 彼にとっては、二人は敵だ。何度も自身の命を狙って襲ってきた人物でもあって、それゆえ、今は仲間でも完全に信頼はできないと思う部分もあるだろう。

 それでも、二人を見送るリゴールの瞳に迷いはなかった。

「ふはは! 心の広い王子、百二十点!」
「……あ、ありがとうございます」

 グラネイトがリゴールに妙なことを言っている隙に、ウェスタはデスタンの前へと歩いていく。何か言いたげな顔をしながら少し黙る。そしてやがて、デスタンにそっと腕を絡めた。

「兄さん……必ずまた会いに来るから」

 デスタンはウェスタを拒まない。
 片手をそっと彼女の頭の上に当て、短く返す。

「そうだな。また会おう」

 リゴールに仕えることを選んだ兄と、そんな兄を探し続けていた妹。ずっと一緒に過ごせた方が幸せなのではないか、と、考えてしまう部分はあって。

 でも、それはきっと違うのだろう。

 それは私一人の感覚に過ぎないのだ、恐らく。

 二人はいつだって繋がっている。肉体が傍になくとも、心の深いところで繋がっていられるから、不安ではないのかもしれない。
 私には兄弟姉妹がいないから、その感覚はよく分からないけれど。

「ではこれで」
「ふはは! グラネイト様、完全復活の時!!」
「……うるさい」
「いきなり怒るなよォッ!?」

 温かな日差しの中、去っていく二人を見送る。
 しばらく共に過ごした人たちの背中を見るのは寂しい。でも、仲良く二つ並んだ背を目にしたら、ホッとする部分もあった。

「行ってしまいましたね」

 二人が去ってから、リゴールが残念そうに呟く。

「王子が残念に思われることはないはずです」
「デスタン?」
「あの二人は王子の命を狙っていた者たちですから」
「それはそうですが……それでも寂しいですよ。一緒にいる間は、よく顔を見かけましたから」

 そんな風に心を述べるリゴールの心情が理解できなかったのか、デスタンは軽く首を傾げる。

「そういうものでしょうか……」
「わたくしにとっては、そういうものなのです」
「そうでしたか」

 こうして私たちは屋敷内へと戻った。
 しんみりしていた私を迎えてくれたのはエトーリア。

「お別れは済んだの? エアリ」

 エトーリアは、その整った顔に穢れのない純粋な笑みを浮かべながら、尋ねてくる。

「えぇ」
「何だか寂しそうな顔をしてるわね」
「そりゃそうよ。ずっと一緒の家で暮らしていたんだもの」


 その日の晩。
 私は自室にリゴールを招いた。

「失礼しますね」
「どうぞどうぞ、遠慮なく」

 彼を自室へ招いたことに理由なんてない。
 ただ、すべてが終わったこの時に、彼と二人で話をしたかったというだけのことだ。

「それでエアリ、わたくしに何かご用で?」
「いいえ」
「違ったのですか?」

 リゴールはきょとんとした顔をする。

「そう……用事なんてないの。ただ少し会いたくなっただけ」

 おかしなことを言う、と思われてしまわないか、私としても不安はあった。
 でもそれは杞憂に過ぎず。
 リゴールはちっとも悪く取っていないようで、笑顔で返してくれる。

「そうだったのですね」

 彼は真っ直ぐな目をしている。
 どこまでも、穢れのない。

「ねぇ」

 私は天井を見上げながら口を開く。

「リゴールは……これからも私といてくれるのよね?」

 重いと思われそう、という不安は振り払い、確認の問いを発した。

「はい。そのつもりですが」
「嫌になったら言って良いのよ」
「そうですね。けど……わたくしは嫌にはならないと思います」

 リゴールはそう断言する。

 人間誰しも、相手を嫌いになることはあるものだ。訳なんてなくても、感情が変わることはある。
 それでも、彼は断言できるというのか。

 私には無理だ。

「……随分はっきり言うのね」
「問題ですか?」
「いえ。ただ、少し信じられなかっただけよ。私は、そんなに真っ直ぐ断言できる人間ではないから」

 若干嫌みのようだが、これは、嫌みを込めた言葉ではない。
 彼の真っ直ぐさを羨ましくは思うけれど。

「でも嬉しいわ。貴方にそう言ってもらえて」
「光栄です」
「それは違うわ。光栄、って言うべきなのは、私の方」

 王子に傍にいてもらえるのだから、物語みたいな話だ。

 ……正しくは『元・王子』だが。

「わたくしはそうは思いませんが……」
「私はそう思うってだけ」
「では、お互い、ということですね」

 リゴールの青い双眸を見つめる時、不思議なものが込み上げてくる。

 それは、よく分からないもの。
 でも決して悪いものではないし、不快なものでもない。

 ただ、名称が分からないだけで。

「じゃあ、改めて。これからもよろしくね」
「参りましょう。共に」


 ー終ー
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