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episode.204 優しい人
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「お邪魔しまーす」
ずっとデスタンが使っていた部屋へ入る。
室内には、仰向けで眠るグラネイト。そして、その一メートルほど横には、上半身を起こした状態のウェスタがいた。
「あ。ウェスタさん、起きていたのね」
「……エアリ・フィールド」
つい「なぜいちいちフルネームで呼ぶのだろう」などと考えてしまいそうになる。が、そこには触れないでおくことにした。わざわざ尋ねるほど重要なことではないからだ。
「ウェスタさん、体調はどう?」
色々あった後だから、自然とグラネイトに意識が向きそうになってしまう。でも、ウェスタも負傷していたことを、私は覚えている。
だから私は彼女の体調についてを先に尋ねたのだ。
「問題ない」
「それは良かった。……で、グラネイトさんは?」
もちろん彼の方も心配ではあるから、続けて質問してみる。
「骨折があるが、命に別状はないと言われた」
私が放った問いに、ウェスタは速やかに答えてくれた。
「う……骨折って……」
想像してしまった。
こんなイマジネーションは要らない。リアルにイメージできればできるほど、胸の辺りに嫌な感覚が広がってしまうから。
でも、一度想像してしまうと、胸の気持ち悪さはもう消えない。
こんなことを言ったら怪我人を気持ち悪がっていると受け取られるかもしれないが……当然そういうわけではないのだ。
一人そんなことを考えていた時。
「どうした。急に顔色が悪くなったようだが」
ウェスタが心配してくれているような顔つきで言ってきた。
私はそんなに分かりやすいのか……。
「あ……ち、違うの!」
「一体どうした」
「何でもないわ! 気にしないで!」
慌ててしまって、不自然な話し方をしてしまう。そのせいで余計に妙な振る舞いになってしまった。
「……何でもないならいいが」
「え?」
「体調が悪くなったのなら心配だ」
それは、ウェスタの口から出てきているとはとても思えないような、優しく温かい言葉だった。グラネイトが聞いたら、きっと、羨ましくて暴れ回るだろう。
「……優しいのね」
実は戸惑いが大きい。
「そんなことはない。協力者になっていた以上、心配するのは当たり前のことだ」
「……やっぱり、優しいわ」
ウェスタはデスタンにどことなく似ている気がする。
兄妹だからだろうか。
容姿が似ているのはもちろんだが、今私が言いたいのはそこではない。今、私が言おうとしているのは、性格的な面のことだ。
デスタンは毒舌で冷淡だが、周囲の人を常によく観察しているし、時には励ましの言葉をかけてくれたりもする。彼は、心ないように見えて温かな心を持っている人物。
そういうところが似ているのだ。
「まさにデスタンさんの妹さんって感じね」
私は思ったことをシンプルに言葉で述べた。
するとウェスタははにかんだ。
「それは……少し照れてしまう」
照れるところが少々おかしいような気がしてしまう。無論、照れるタイミングに決まりなんてものはないのだが。
その時、仰向けで眠っていたグラネイトが足を小さく動かした。
「んん……」
口からは低い音が漏れる。
寝惚けているようだ。
「ん……ウェス、タ……」
寝言でまでウェスタを呼ぶとは、恐ろしい徹底ぶり。
「どうした、グラネイト」
「あと二分……寝さ、せて……」
「何を言っている」
グラネイトの残念な寝言に呆れ果てたウェスタは、大きな溜め息を豪快に漏らしていた。今の彼女には、遠慮なんてものはなかった。
「……すまない、こいつはずっとこんなで」
「面白い人よね」
「……かなり変わっている」
確かに、街で披露していたあの謎の芸は、非常に個性的なものだった。あれはもはや、常人では不可能な域に達していたように思う。だからこそ人気だったのだろうが。
「嫌い?」
「いや……そんなことはない。ただ、呑気さを羨ましく思うことはある」
「確かに。ウェスタさんが傷ついている時以外は、いつも元気いっぱいよね」
するとウェスタは呆れたように返してくる。
「……時に馬鹿に見える」
彼女らしい答えかもしれない、それは。
「だがそれでも……助かって良かったと思うのは、やはり、彼が大切な存在だからなのだろうな」
そんな風に述べながらグラネイトを見下ろすウェスタの表情は、まるで母親のよう。紅の瞳には優しい光が宿っている。
ウェスタはずっと、グラネイトへの想いに関してだけは素直でなかった。でも、今は以前とは違って、少しは素直さを持っている。もう気づいてはいる、ということなのだろう。
「ところで、ウェスタさんはこれからどうする予定?」
「……それは、どのように生きていくか、という問いか」
「えぇ。首を突っ込むみたいで申し訳ないけれど、少し気になって」
何も、深い意味などない。
企みがあるわけでもない。
尋ねたのは純粋な興味からであって、それ以上でも以下でもないのだ。
「どう、か……今はまだよく分からない」
むにゃむにゃと寝言を漏らすグラネイトの肩にそっと手を添える。
「だが、なるべく早くここから出られるように努力はする。心配は要らない」
「え? そんなの、べつに気にしなくていいのに」
今の私の言葉は本心だ。
私はウェスタたちがここにいることなんて気にしていないし、エトーリアだってきっと怒りはしないだろう。
けれど、私の言葉はウェスタには届いていないようで。
「……いや、迷惑をかけ続けるわけにはいかない。動けそうになり次第、ここを出る」
「無理しなくて良いのよ? 無茶して動くと危険かもしれないし」
「……ありがとう、いつも」
ブラックスター王の復讐は終わった。
それゆえ、ブラックスターの人間とホワイトスターの人間が憎み合い剣を向け合う必要は、もうない。
リゴールの命を狙った刺客が皆悪かったわけではない。彼らは王の復讐のために利用されていたのだ。ブラックスターに生きる者として、王のために戦いを選んだ——それだけのこと。
私はウェスタたちを憎みたくない。
負の感情は巡り続ける。が、それに意味などありはしない。負の感情が巡り続けたところで、生まれるのは不幸だけ。
だから、憎しみの連鎖はここで止めよう。
その先にこそ、未来はある。
新しい明日、明るい明日を迎えるためには、きっとそれが一番良い方法だ。
ずっとデスタンが使っていた部屋へ入る。
室内には、仰向けで眠るグラネイト。そして、その一メートルほど横には、上半身を起こした状態のウェスタがいた。
「あ。ウェスタさん、起きていたのね」
「……エアリ・フィールド」
つい「なぜいちいちフルネームで呼ぶのだろう」などと考えてしまいそうになる。が、そこには触れないでおくことにした。わざわざ尋ねるほど重要なことではないからだ。
「ウェスタさん、体調はどう?」
色々あった後だから、自然とグラネイトに意識が向きそうになってしまう。でも、ウェスタも負傷していたことを、私は覚えている。
だから私は彼女の体調についてを先に尋ねたのだ。
「問題ない」
「それは良かった。……で、グラネイトさんは?」
もちろん彼の方も心配ではあるから、続けて質問してみる。
「骨折があるが、命に別状はないと言われた」
私が放った問いに、ウェスタは速やかに答えてくれた。
「う……骨折って……」
想像してしまった。
こんなイマジネーションは要らない。リアルにイメージできればできるほど、胸の辺りに嫌な感覚が広がってしまうから。
でも、一度想像してしまうと、胸の気持ち悪さはもう消えない。
こんなことを言ったら怪我人を気持ち悪がっていると受け取られるかもしれないが……当然そういうわけではないのだ。
一人そんなことを考えていた時。
「どうした。急に顔色が悪くなったようだが」
ウェスタが心配してくれているような顔つきで言ってきた。
私はそんなに分かりやすいのか……。
「あ……ち、違うの!」
「一体どうした」
「何でもないわ! 気にしないで!」
慌ててしまって、不自然な話し方をしてしまう。そのせいで余計に妙な振る舞いになってしまった。
「……何でもないならいいが」
「え?」
「体調が悪くなったのなら心配だ」
それは、ウェスタの口から出てきているとはとても思えないような、優しく温かい言葉だった。グラネイトが聞いたら、きっと、羨ましくて暴れ回るだろう。
「……優しいのね」
実は戸惑いが大きい。
「そんなことはない。協力者になっていた以上、心配するのは当たり前のことだ」
「……やっぱり、優しいわ」
ウェスタはデスタンにどことなく似ている気がする。
兄妹だからだろうか。
容姿が似ているのはもちろんだが、今私が言いたいのはそこではない。今、私が言おうとしているのは、性格的な面のことだ。
デスタンは毒舌で冷淡だが、周囲の人を常によく観察しているし、時には励ましの言葉をかけてくれたりもする。彼は、心ないように見えて温かな心を持っている人物。
そういうところが似ているのだ。
「まさにデスタンさんの妹さんって感じね」
私は思ったことをシンプルに言葉で述べた。
するとウェスタははにかんだ。
「それは……少し照れてしまう」
照れるところが少々おかしいような気がしてしまう。無論、照れるタイミングに決まりなんてものはないのだが。
その時、仰向けで眠っていたグラネイトが足を小さく動かした。
「んん……」
口からは低い音が漏れる。
寝惚けているようだ。
「ん……ウェス、タ……」
寝言でまでウェスタを呼ぶとは、恐ろしい徹底ぶり。
「どうした、グラネイト」
「あと二分……寝さ、せて……」
「何を言っている」
グラネイトの残念な寝言に呆れ果てたウェスタは、大きな溜め息を豪快に漏らしていた。今の彼女には、遠慮なんてものはなかった。
「……すまない、こいつはずっとこんなで」
「面白い人よね」
「……かなり変わっている」
確かに、街で披露していたあの謎の芸は、非常に個性的なものだった。あれはもはや、常人では不可能な域に達していたように思う。だからこそ人気だったのだろうが。
「嫌い?」
「いや……そんなことはない。ただ、呑気さを羨ましく思うことはある」
「確かに。ウェスタさんが傷ついている時以外は、いつも元気いっぱいよね」
するとウェスタは呆れたように返してくる。
「……時に馬鹿に見える」
彼女らしい答えかもしれない、それは。
「だがそれでも……助かって良かったと思うのは、やはり、彼が大切な存在だからなのだろうな」
そんな風に述べながらグラネイトを見下ろすウェスタの表情は、まるで母親のよう。紅の瞳には優しい光が宿っている。
ウェスタはずっと、グラネイトへの想いに関してだけは素直でなかった。でも、今は以前とは違って、少しは素直さを持っている。もう気づいてはいる、ということなのだろう。
「ところで、ウェスタさんはこれからどうする予定?」
「……それは、どのように生きていくか、という問いか」
「えぇ。首を突っ込むみたいで申し訳ないけれど、少し気になって」
何も、深い意味などない。
企みがあるわけでもない。
尋ねたのは純粋な興味からであって、それ以上でも以下でもないのだ。
「どう、か……今はまだよく分からない」
むにゃむにゃと寝言を漏らすグラネイトの肩にそっと手を添える。
「だが、なるべく早くここから出られるように努力はする。心配は要らない」
「え? そんなの、べつに気にしなくていいのに」
今の私の言葉は本心だ。
私はウェスタたちがここにいることなんて気にしていないし、エトーリアだってきっと怒りはしないだろう。
けれど、私の言葉はウェスタには届いていないようで。
「……いや、迷惑をかけ続けるわけにはいかない。動けそうになり次第、ここを出る」
「無理しなくて良いのよ? 無茶して動くと危険かもしれないし」
「……ありがとう、いつも」
ブラックスター王の復讐は終わった。
それゆえ、ブラックスターの人間とホワイトスターの人間が憎み合い剣を向け合う必要は、もうない。
リゴールの命を狙った刺客が皆悪かったわけではない。彼らは王の復讐のために利用されていたのだ。ブラックスターに生きる者として、王のために戦いを選んだ——それだけのこと。
私はウェスタたちを憎みたくない。
負の感情は巡り続ける。が、それに意味などありはしない。負の感情が巡り続けたところで、生まれるのは不幸だけ。
だから、憎しみの連鎖はここで止めよう。
その先にこそ、未来はある。
新しい明日、明るい明日を迎えるためには、きっとそれが一番良い方法だ。
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