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後編

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 ◆


 あれから八年、私は今、宮廷音楽家として富を得ている。
 幼い頃からの経験が活きた形だ。
 ちなみにこの職を紹介してくれたのは父である。

「見て! エーミラ様よ!」
「今日もお美しいわぁ~」
「あの美しさで音楽の才能もあるなんて……素晴らしいわね! まるで女神だわ!」

 侍女からも人気になっている私は、歩いているだけで称賛の的となる。
 そのために働いているわけではないけれど。
 でも、やはり、誰かから褒められるというのは嬉しいものだ。

 私はこれからもこの道を進むつもりでいる。

「あ、あの……! エーミラ様! サインくださいっ」
「はい、書きますよ」
「あ、あ、ありがとうございますっ!」

 煌びやかな世界で、美しい衣に身を包み、華麗に歩く。

 それだけでも心は弾む。
 素晴らしいことではないか。

「こ、これからもっ、応援しています! エーミラ様、素晴らしい音楽を皆に届けてください!」
「応援ありがとうございます、嬉しいです」

 そういえば最近同郷の侍女から話を聞いたのだが。

 オッドレーは愛した女性と結婚はできたようだが、結婚するなり豹変した妻に尻に敷かれ、今では四六時中奴隷のように扱われているそうだ。

 オッドレーは日々妻にへこへこしながら生きているそう。
 とにかくそうしているしかないのだ。

 そして、結婚によってそんなことになってしまったことを酷く後悔し、「誰か助けて」とか「消えてしまいたいよぉ」とか言いながら毎晩一人泣いているらしい。

 けれども、彼自身、何を言っても妻からは逃れられないと本当は分かってはいるのだろう。

 だからこそ、変えられない現実に絶望し、毎夜枕を涙で濡らしているのだ。

 けれどもそれもまた彼が選んだ道。
 ならば彼は進まなくてはならない。

 たとえどれだけ後悔していても、それでも、一度そこへ進むと決めたのならその道を行く外ないのだ。


◆終わり◆
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