異世界恋愛短編集 ~婚約破棄されても幸せになることはできます~

四季

文字の大きさ
7 / 276

4作品

しおりを挟む
『ただチーズトーストを食べていただけなのですが……。~やりたいことをやっていれば誰もが強く輝けるものですね~』

 とろけるチーズを贅沢にかけたトーストを朝食に食べていたら、婚約者である彼ダワワンにその姿を見られてしまい、ごみを見るような目をされたうえ「うっわムリ。婚約、破棄するわ」とさらりと言われてしまった。

 前もって聞いてはいなかったので知らなかったのだが、ダワワンは、小さい頃にチーズで火傷したことがあったそうでそれ以来溶けているチーズを極度に嫌っているのだそう。

 いやいや、そうなら、先に言っておいてよ……。

 そんなことを思いながらも。
 今さら関係を修復することもできず。

 婚約者同士という私たちの関係はあっという間に壊れてしまったのだった。


 ◆


「こんにちは~」
「いらっしゃいませ! 本日はどの商品でしょう?」
「いつもので、お願いできるかしら」
「承知しました! ではお持ちしますね。しばらくお待ちください!」

 あれから数年、私は今、国内初となるチーズ専門店を開き忙しい日々を過ごしている。

「お持ちしました!」
「わ~、嬉しい、ありがとう~。今日も美味しそうね」
「ありがとうございます!」
「このチーズね、孫がすっかり気に入っちゃって。だからまた買いに来るわ。次回もよろしくね」

 私は働いている時間が好き。
 なぜなら一人で静かにしているよりも輝ける気がするから。

「ありがとうございました! ……あ、次の方、お待たせしました」
「オデ美味いチーズ探してるだ」
「どのようなタイプがお好みでしょう?」
「あー、ぶぶぶ、そだな好きなのはー……トロトロになるやつだ」
「癖のあるお味がお好きですか?」
「んんんーやのののん。普通が好き、ノーマルなチーズが好みと伝えておくだ。良いやつ教えでくれでは嬉しいだ」

 ちなみにダワワンはというと、先月食あたりで亡くなった。

「これやこれ、など、この辺りはいかがでしょう?」
「最高!!」
「それは良かったです」
「美味そうなチーズ! チーズチーズチッチチチーズチーズチーチッチチチーズチーズチッチチチーズチーズチッチチチーズチッチチチッチチチチーズーチーズチッチチチッチチチッチチーチーズッズズチーズ! チーズだ! 絶対美味だごのチーズは! 勘で分かるだよ、このチーズは美味いっで!」

 ダワワンは帰らぬ人となったのだ。

「ではこちらにしましょうか?」
「お願いじだす!」

 もう、生涯、ダワワンと顔を合わせることはない。

「やっだやっだぁ! 嬉しいだよ! わあいーっ! 良いチーズが買えそうで、今はとってもとってもワクワクしてるだ。オデ! 胸が高鳴って! 凄い凄い状態だで! こんな経験初めてで、オデ、ときめいてきただよ! ときめきときめくときときめきめくときめくときめくときめきときめく! ときめくときめくときめきときめきときめくときめきときときめきめきめくときめくめく!」


◆終わり◆



『ちょっとした用事で婚約者の家へ行ったのですが、それによって彼が浮気していることを知ってしまいました。』

 婚約者ロレッティオは浮気していた。

「あなたたち、一体何をしているの?」

 ――その日は突然やって来た。

 ちょっとした用事でロレッティオの家へ行った時、ロレッティオはちょうど浮気相手の女性を自宅へ連れ込んでいるところで。

「な、なぜ、お前がここに!?」
「そういう話は後よ」
「まっ……待て! 待ってくれ! 先に質問に答えろ!」
「質問しているのはこちらなのだけれど」

 薄着になった長い金髪の乙女を抱き締めながらも動揺を隠せないロレッティオの顔は眺めていると少し面白くて。
 けれどもこんなあからさまな浮気を見て見ぬふりしてあげることはさすがにできないのでしっかりと突っ込ませてもらう。

「まずは話を聞かせて」
「あ、ああ……分かった、説明する……だから、親には言わないでくれ」
「言うわよ」
「なっ!?」
「だって婚約破棄する予定だもの」
「ふ、ふざけるな! そんなこと! そんな勝手なこと、悪質過ぎる。許されることじゃないぞ!」

 ロレッティオはもうとにかく必死。

「悪質? それはそっちでしょう」

 だが何を言われようがこちらが折れてあげる必要なんてない。

「すべて話すわよ、貴方のご両親にはね」

 その後私は事情を説明した。
 急に忙しくなり、いろんな意味で時間はかかったが、彼の両親は真剣に話を聞いてくれたのでその点はとてもありがたかった。

 そして予定通りロレッティオとの婚約は破棄。

 ロレッティオは泣いて「許してくれ! 一時の気の迷いだったんだ!」とか「ちょっとした出来心で……彼女とは本気じゃない、本気じゃなかった!」とか言っていたけれどそれは無視した。

 また、ロレッティオと浮気相手の女性に慰謝料を支払いを請求。

 償いはしっかりとしてもらう。
 そこは譲れない。
 こちらは理不尽に心を傷つけられたのだから、何の償いもないまま彼らを解放することなどできはしないのだ。

 そうやってすべてに決着をつけることで、私はようやく未来へと進める――面倒臭いことでも心折れず頑張るのだ――それは未来の私を救うための行動だから。


 ◆


 時は流れた。
 多くの季節が過ぎ去った。

 婚約破棄からちょうど五年になる今日、私は、愛している人と結婚する。

 かつて私を傷つけた者たちは皆揃って滅んだ。

 婚約者だった彼ロレッティオはある時路上で謎の男に襲われて金目のものを奪われたうえ死亡、浮気相手だった金髪の乙女はロレッティオの死によって心を病みやがて自ら死を選んだそうだ。

 ――悪はこの世から消え去った。


◆終わり◆



『寒い昼下がり、婚約者の彼から呼び出されました。そしてそこで告げられたのは……。』

 雪降る日、寒い昼下がり。
 婚約者ダモスに呼び出されたので厚着をして彼の家へ向かったのだが。

「君との婚約だが、破棄とすることとするよ」

 彼はいきなり告げてきた。
 関係を終わらせる言葉を。

「え……」
「だから婚約破棄だって」
「ええっ」
「うるさいな! 婚約破棄だって言ってるだろ!」

 ダモスは突然鋭く言い放ってくる。

「一回で理解しろよ! 馬鹿か!」

 こうして私たちの関係は終わった。


 ◆


 婚約破棄された日から数年。
 私はそこそこ良い家柄の男性と結婚した。

 出会ってすぐの頃から、彼は私を大切にしてくれていた。そして純粋に愛してくれた。優しくしてくれるし、思いやりを持った接し方をしてくれるし、何より私を一人の人間として扱ってくれる。だからこそこちらも安心して彼を見つめることができるのだ。

 一方ダモスはというと。
 あの後、若干暇になったために派手に女遊びをしていたそうなのだがその中で不治の病を貰ってしまったらしく、やがてそれが悪化し落命するに至ったそうだ。

 ダモスは幸せになれないままこの世を去った。

 だがきっとそれもまた運命。
 ならば他の道はなかったのだろう。


◆終わり◆



『私の婚約者は心ないことばかり言ってくるうえなぜかいつも鼻水を垂らしています……。~幸せへの道は必ずあるはずです~』

 私の婚約者は心ないことばかり言ってくる人だ。
 彼は完全に私のことを舐めていて、常に見下し、何をしても何を言っても許される相手であると思っている様子。

 その思い込みはかなり凄まじいもので。
 彼の中には私も人間であるという発想が欠片ほどもない。

 町でたまたま会った時でさえ「おっ、馬鹿顔女じゃ~ん」などと悪意たっぷりに嫌みを言ってくるほどだ。

 そんな彼、ラウスト・リッディーガンは、いつも鼻水が垂れている。ゆえに、周りからすれば私よりも彼の方がずっと変わり者だ。ただ、本人は少しも気にしていないようで。彼の場合、自分のおかしさにはまったくもって気づいていないようである。

「お前との婚約だけどさ、破棄するわ」
「え」
「だーかーら! 婚約破棄するって言ってんの!」
「……本気で仰っているのですか?」
「当たり前! 冗談なわけないじゃ~ん。本気だよ、本気! ホ! ン! キ!」

 いきなりのことに戸惑いながらも話を聞いてみておくことにしたのだが。

「お前はさ、俺には相応しくない女だよ。ぱっとしないし、馬鹿面だし。だからお前とは切る。オーケェ? 分かってきた? じゃ、そーいうことで! ばいっば~い!」

 大人しく聞いていたら、そのまま話が終わってしまう。

 ラウストはがに股で左右に揺れ動くような動きをしながらあっという間に私の前から走り去っていった。

 まさかこんな形で関係が終わるなんて。
 これはさすがに想定していなかった。

 ……が、悲しくはない。

 なぜなら、私はもうずっと前から彼を愛していなかったからだ。

 嫌な言葉をかけてくる。
 失礼なことをやたらとしてくる。

 そんなラウストのことは嫌いだった。

 だから、驚きはしたけれど、あくまでそれだけで。それ以上の感情、特に悲しみに近い感情が生まれることはなかった。元々嫌いだった人を失う、それは大して辛いことではないのだ。正直なところを言うなら、まぁどうでもいいから好きにして、くらいのものである。

 結婚しても嫌なことをされ続けることは目に見えている。
 ならば早めに離れる方が良い。
 きっとその方が私の未来は明るくなるのだから。


 ◆


 あれから三ヶ月。

 深く考えずに結婚相手を見つける会に参加したのだが、そこで意外な最高の出会いがあり、私の人生は大きく動き出すこととなっていっている。

 今はまだ道の途中だ。
 けれども、希望ある明日を、未来を、見据えることは確かにできている。

 だから大丈夫。

 真っ直ぐに生きていれば、きっと、幸せという日射しを浴びながら歩める。

 ちなみにラウストはというと。
 あの後好きになった女性に告白するも「鼻垂れ小僧はちょっと……」と言われ拒否されてしまったらしく、それにショックを受けた彼は、自らこの世を去ることを選んだそうだ。

 とても、とても……言葉も出ないくらい、呆気ない最期だったようだ。


◆終わり◆
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

(完結)お姉様、私を捨てるの?

青空一夏
恋愛
大好きなお姉様の為に貴族学園に行かず奉公に出た私。なのに、お姉様は・・・・・・ 中世ヨーロッパ風の異世界ですがここは貴族学園の上に上級学園があり、そこに行かなければ女官や文官になれない世界です。現代で言うところの大学のようなもので、文官や女官は○○省で働くキャリア官僚のようなものと考えてください。日本的な価値観も混ざった異世界の姉妹のお話。番の話も混じったショートショート。※獣人の貴族もいますがどちらかというと人間より下に見られている世界観です。

才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。

キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。 そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間―― 「君との婚約を破棄することが決まった」 皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。 だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。 一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。 真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。 これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。

婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢アミュレットは、その完璧な美貌とは裏腹に、何事にも感情を揺らさず「はぁ、左様ですか」で済ませてしまう『塩対応』の令嬢。 ある夜会で、婚約者であるエリアス王子から一方的に婚約破棄を突きつけられるも、彼女は全く動じず、むしろ「面倒な義務からの解放」と清々していた。

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです

hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。 ルイーズは伯爵家。 「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」 と言われてしまう。 その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。 そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

処理中です...