上 下
2 / 5

2話

しおりを挟む

「お前と婚約してくれるような優しい男は俺だけなんだからな、お前は尽くせよ」

 オルタはいつだってそんなことを言うばかり。

「お前みたいなおかしな髪色のやつと将来を誓ってやってるんだ、お前は俺の言いなりで生きろよ。それがせめてもの償いってものだろ? 分かっているなら一生余計なことは言うな。で、俺の言う通りに生きろ。な? そうやって尽くしていれば、奉仕の精神を持っていれば、俺はとてつもなく優しいからお前の夫でいてやる」

 オルタにとって私は奴隷みたいな存在だったようで。

 彼が私へまともな優しさや愛を向けることはなかった。

 ――そんな風にして婚約してから数ヶ月が経った頃、オルタは酒場で出会った女と恋に落ちた。

 そこから浮気が始まった。

 その頃私とオルタは同じ家に住んでいたのだが、オルタは私を放置するようになった。
 それどころか無視することも多くなっていった。
 彼は女と好き放題仲良くしていて、一方私はというとずっと家で雑用をし続けることを求められていた。

 そしてやがて。

「彼女に子が宿ったので婚約は破棄する」
「え……」

 まさかの展開がやって来る。

「俺は彼女のために生きることを選ぼうと思う」
「そんな、ことって……」
「きっとこれは彼女と結ばれろというお告げだ。神がそう言っているのだろう――お前のようなごみ女の世話をするくだらない道はやめて愛する人と結ばれる道を選べ、と」

 なんという身勝手さ。

 好き放題して、無責任に子など……。
しおりを挟む

処理中です...