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前編

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 ぱぁん、と乾いた音が響く。

 晩餐会の会場に。

「コルネリア! お前のような口煩い女とはもうやっていけん! よって、婚約は破棄とする!」

 そう叫んだのは新興貴族の家の息子であるアグレ。
 女好きで有名な男だ。

 そして、その彼に頬を張られた彼女は、歴史ある貴族の令嬢コルネリア――私の友人でもある美しくて可愛らしい女性だ。

 あんなに魅力的なコルネリアがなぜこんな目に。
 ぱっとしない私ならともかく。

 そんなことばかり考えてしまう。

「アグレ様……」
「お前はいちいち偉そうなんだよ! 家がちょっと歴史あるからって生意気にもほどがある!」
「待ってください、話を聞いて」
「うるせえ! お前の話なんぞ一切興味ないわ! 聞きたくもないわッ」

 アグレはそう吐き捨てるように言うとどすどすと足を踏み鳴らしながら会場である部屋から出ていった。

「コルネリア、大丈夫?」

 床に尻をついたままのコルネリアに恐る恐る近づき声をかける。

 感情的になられたらどうしよう。
 失礼だったらどうしよう。

 そんな不安を抱えながらも声をかけたのは、彼女をどうしても放っておけなかったからだ。

「……ええ、大丈夫よ。かっこ悪いところを見せちゃったわね」

 ただ、コルネリアは思っていたよりも冷静で。

「ううん、悪いのはあの男だわ。だって確か浮気していたんでしょう? 他の女にも手を出して」
「そうよ」
「じゃあやっぱりあの人が悪いわよ、完全に」
「ありがとう、理解してくれて」

 この状況でも笑ってみせるほどの強さを持っていた。
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