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前編

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「なぁ、あのさ、言いたいことがあって」

 婚約者ボルドーはある日突然そんな風に切り出してきて。
 けれどもすぐには気づかない。
 彼が何を今から言おうとしてるのかなんて。

「言いたいこと?」
「そうなんだ」
「ええ、いいわよ。何でも言って? 私にできることなら協力するし」
「ありがとう、じゃあ、言わせてもらうよ」

 少し間を空け、彼は続ける。

「君との婚約は破棄とすることにしたよ」

 空気が凍りついた。

 いや、空気だけではない。

 脳までも。
 脳の奥までも。

 すべてが一瞬で氷と化す。

「え……あの、それは一体……?」
「これが言いたかったことだよ」
「婚約、破棄、って……何よそれ、いきなり過ぎるわ、本気なの?」
「もちろん。本気だよ」
「……そんな、どうして」

 声が無意識に震えてしまう。

「ずっと仲良しだったじゃない、私たち。喧嘩なんてしなかった。だから私、順調にいっているって、そう思っていたのに。貴方はそうは思っていなかったの? 何かが嫌だった? 私のこと、本当は嫌いだったの?」

 ボルドーは首を横に振る。

「好きだったよ。でも、もっと素晴らしい女性に出会ったんだ」
「もっと、素晴らしい……」
「彼女は僕に最上級の愛をくれる、それこそ、君なんて紙くずに見えるくらいにね」

 酷い……どうしてそんなこと……。

 紙くず、なんて……。
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