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後編

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「だからさ、これでお別れにしよ? じゃあね」
「待って! お願い、もう少し話をさせて!」
「私にできることなら協力する、そう言ったよね? だったら婚約破棄を受け入れることだって協力だよ」
「違うわ! それは違う、そういうことを言っているのではないの!」

 あれはこういう話と知っていて発した言葉ではない。
 今それを持ち出すのは卑怯だ。
 それに何でもすると言ったわけではない。

「じゃああの言葉は嘘だったのかい?」
「そうではないけれど……本当に協力するって思っていたけれど……でもまさかこんな話だったなんて! 知らなかったから! 喜んで協力できないことだってあるわ」
「協力してよ」
「できないわ! こんなの!」
「じゃ、ばっさりいくよ。君との婚約は破棄するから、さよなら」

 その日以降、しばらく、私はずっと泣いていた。

 実家の自室で。
 親の気持ちなんて一切気にせずに。


 ◆


 早いもので、あれからもう三年になる。

 悲しみと絶望を越えて。
 私は幸福を得た。

 釣りが趣味で料理が得意な資産家の青年と結婚した私は、今、何の悩みもなく生活できている。

 ボルドーと結ばれるより良かったかもしれない。
 今はそんな風に思う部分もある。
 彼と出会えて私の人生は色づき方が変わった。

 ちなみにボルドーはというと、あの後惚れ込んでいた女性にはプロポーズを拒否されたらしい。で、それと同時期くらいにその人とは別のしめじのような女性からストーカーされるようになり、その行為の恐ろしさにやられ、今では自室から一歩も出られなくなってしまったそうだ。彼はストーカーに心を破壊されたのだ。

 けれど同情はしない。

 彼だって一度は私の心を壊したのだから。


◆終わり◆
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