プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

文字の大きさ
7 / 141

episode.6 プリンセスとプリンス

しおりを挟む
 グレーの襟付きワンピースにワインレッドの長袖のボレロ、少し出掛けるくらいの感覚で深く考えず選んだ服を着てきてしまった。そのことを今さら後悔している。人前に出るのならもう少し良さげな服を着てきた方が良かったかな、と。

「今繋ぎます。しばらくお待ちください」

 杖のプリンセスは淡々と述べた。

「もしかして……直接会うわけではないのですか?」
「はい。キャッスルを回るのは時間がかかり過ぎます」
「そうでしたか」

 私は自然に安堵の溜め息を漏らしていた。

 通信での会話でも対面での会話でも同じことではある。互いを見るわけだし、言葉を交わすわけだから。ただ、私としては対面でないだけでも気が楽になる部分がある。違わないようだけれど違う。

「それでは」

 杖のプリンセスはぱちんと指を鳴らす。
 すると宙にパネルのようなものが四つ発生した。

『お久しぶりー、杖のプリンセスさんー』

 一番に姿が映し出されたのは女性だった。
 美女という単語が似合いそうな二十代後半くらいに見える女性。長い睫毛に彩られた瞳は深い緑色、やや伏せているように見える目つきが色っぽさを感じさせる。髪は白を多く混ぜた緑のような色で、毛量は多くない。その丈は、胸の一番高い位置になっているあたりまでぎりぎり達するくらい。

「お久しぶり」
『用事ってー? 何ですー?』
「彼女のことで」

 女性の視線がこちらへ向く。

『ま! 可愛らしいお嬢さん。初めましてー』
「初めまして……」
『そう緊張なさらないでー。森のプリンセスです、よろしくー』

 白に近い緑の髪に覆われた頭部には、薔薇のような花の髪飾り。
 ドレスは薄い桜色。

「フレイヤといいます」
『あらあら可愛らしいお名前ー。フレイヤちゃん。素敵ねー』

 森のプリンセスはゆったりとした喋り方をする。怖くはなさそうだ。むしろ善い人かもしれない。おっとりしていそうだから、厳しい言葉をかけてくることもなさそうだ。

「彼女がクイーンの娘かもしれない、ということなのです」

 杖のプリンセスは淡々と言葉を発する。

『ま! クイーンの?』
「クイーンのコンパクトを所持しているのです。母が遺したものだとか」
『そんなことがあるなんてー』

 刹那、森のプリンセスが映っているのとは別のパネルに、一人の少年が映し出される。

『マジかよ。そんな地味女がクイーンの娘とか、ないわー』

 前髪が妙なうねり方をしている少年はいきなり毒を吐いてくる。

『もう! プリンス! 駄目よ、そんな言い方!』
『森のババアは黙ってな』
『ひーどーいー。これだから男の子は』

 妙なやり取りを聞かせられ戸惑っていた私に杖のプリンセスが教えてくれた。
 この少々無礼な少年こそが海のプリンスなのだと。

 直後、また別のパネルに、仮面で目を隠した人物が映り込む。

『……用とは』
「すみません、突然。彼女のことで少し」
『……女?』
「彼女に紹介したく思いまして」
『……勝手にするがいい』

 杖のプリンセスは仮面の人物が時のプリンスであると教えてくれる。

「初めまして」
『……お主に興味はない』
「そ、そうですか……」

 一応挨拶してみたのだが駄目だった。彼とは親しくなれそうにない。それにしても、プリンスばかり感じ悪いのはなぜなのか。プリンセスは皆優しく親切な感じなのに。

『ぶぅえええええっ!!』

 突如響く謎の声。
 残る一つのパネルからだ。

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさーいっ!! 遅れましたぁーっ!!』
「落ち着いてください」

 映っているのはもさもさしたロングヘアの少女。
 杖のプリンセスによると、彼女は愛のプリンセスらしい。

『ひと眠りしようと思ったら! 気づいたら時間になってて! 髪の毛何とかしようとしたらあちこちハートだらけになっちゃって! ごめんなさい! ホントごめんなさい!』
「貴女が遅刻するのはいつものこと、慣れています」
『ごめんなさい!』
「次からは気をつけてください。では本題に」
『本のタイトル?』
「違います。面倒ですので、話を進めます」
『ふえぇ……』

 それから、改めて、杖のプリンセスは私を皆に紹介した。

 ひと通り話終えてから、彼女は問う。

「二十年ほど空位となってきたクイーン、その座に彼女をつけるべきか否か。現時点での答えをお願いします」

 何でそんな話に!?

『わたしは賛成よー。だってだって、可愛いんですものー』
『何の話かよく分からないですけど……森プリが賛成なら同じく賛成! かなっ』

 森と愛のプリンセスは賛成に票を投じる。

 温かく受け入れてもらえること自体は嬉しいが……。

『はん! 馬鹿かよ!』
『……茶葉よりも信用ならぬ』

 海と時のプリンスは反対派らしい。
 何となくそんな気がしたけれど。

「あたしは賛成派よ!」

 背後から急に発したのは剣のプリンセス。

「本人の意思は考慮しなくていいのか」
「はぁ!? うっるさい! それあたしに言うことじゃないでしょ!」

 剣のプリンセスと盾のプリンスはさりげなく睨み合っていた。

「意見は確認できました。協力ありがとうございました。ではこれにて一旦解散としま——」

 杖のプリンセスがまとめ的な文章を言い終わりかけた、その時。

 突如脳が割れそうなくらい大きなブザー音が響く。

 何事かと思っていると、杖のプリンセスが表情を固くしたことに気づいた。そして、それを見て、まずいことが起ころうとしているのだと察した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

傷痕~想い出に変わるまで~

櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。 私たちは確かに愛し合っていたはずなのに いつの頃からか 視線の先にあるものが違い始めた。 だからさよなら。 私の愛した人。 今もまだ私は あなたと過ごした幸せだった日々と あなたを傷付け裏切られた日の 悲しみの狭間でさまよっている。 篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。 勝山 光との 5年間の結婚生活に終止符を打って5年。 同じくバツイチ独身の同期 門倉 凌平 32歳。 3年間の結婚生活に終止符を打って3年。 なぜ離婚したのか。 あの時どうすれば離婚を回避できたのか。 『禊』と称して 後悔と反省を繰り返す二人に 本当の幸せは訪れるのか? ~その傷痕が癒える頃には すべてが想い出に変わっているだろう~

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...