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episode.34 聞けなかったことも
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あれからというもの、私は。盾のプリンスに色々なものを見せてもらった。そう、あの船のようなものと似ている、どこかを弄ることで何かが動くというようなものを。
私は正直そういうものにはそこまで興味はなかった。
それでも、色々出してきて話す彼は静かな表情ながらとても楽しそうだったので、制止することなんてできなかった。
彼の表情が大きく変わることはない。が、彼の心にも動きはあるということは察することができた。それは喜ばしいことだし、私と過ごす時間を楽しいと思ってもらえるなら嬉しくもある。
せっかく彼が楽しく過ごせているのだ、わざわざ水を差すこともないだろう――そう考え、私は彼のしたいことに付き合った。
その後解散となり別れたのだが。
私は一つだけ聞きそびれてしまった。
母親に関する話は聞けたのだから当初の目的は達成したということなのだが、実は、もう一つ聞いてみたいことがあったのだ。
棚の上の小瓶について、である。
これは私の出自にも生命にも関係のないことなのだが、盾のキャッスルの座周辺にあった棚の上にはいくつもの小瓶があって、それが何なのか密かに気になっていたのだ。
どうしても気になったので尋ねてみようと考えていたのだけれど、なんだかんだで時間がなく、そのまま別れることとなってしまった。
ちなみに、今はクイーンズキャッスルへ帰っている。
ここは何もかもが白く殺風景だ。一歩誤れば退屈になってしまいそうな場所である。が、自宅から持ってきたものがあるため、今では退屈はしない。本を開き、目で文字を追っていれば、時は確実に過ぎてゆく。
◆
『……ン、クイーン、……クイーン!!』
鋭さのある声が耳に入り、浅い眠りから目を覚ます。
どうやら私はいつの間にやら眠ってしまっていたようだ。頭上には見慣れたパネルのようなものが出現していて、そこには落ち着いた雰囲気の女性――杖のプリンセスの上半身が映し出されている。
「ん……、あ、はい……すみません、何でしょうか……?」
『起きられましたか』
「あ、はい。すみません。えっと、何か用事で……?」
最初はちょっとした用事か何かかと思っていたが、パネルに映し出された彼女の表情を見て異変を感じる。
いつもとは何かが違っている。
もしかして、事件でもあったのだろうか。
『実は緊急の連絡がありまして』
「連絡、ですか?」
嫌な予感が……。
『いくつかのキャッスルにて、敵が現れているようです。ですから、しばらくはそちらにいらっしゃる方が良いかと』
やはりか。
こんな予感、的中しなくて良かったのに。
「敵襲、ですか……」
『はい。しかし、クイーンズキャッスルは安全ですので、ご安心ください』
「皆さんは? 皆さんは大丈夫なのですか?」
『ご安心を。現時点ではどこも問題ありません。防衛に成功しています』
杖のプリンセスが紡ぐ言葉は不安を掻き立てるようなものではない。が、彼女自身の表情の固さを目にしてしまうと、どうしても不安を抱かずにはいられなかった。
彼女は日頃から落ち着いた雰囲気ではあるが、それでも、いつもならここまで緊張しているような顔はしないはず。
だからこそ、緊迫した状況なのだと察してしまう。
「あの、私にできることがあったら言ってください……! 力になりたいので……!」
そんなことを言ってみるものの。
『いえ。結構です。クイーンはそこから動かないでください』
さらりと返されてしまった。
皆に任せておくしかないのか――事実、私が下手に手を出さない方が良いのかもしれない。私が出ていったところで足を引っ張るだけ。それなら、戦いには参加せずここでじっとしている方が、まだしも有意義なのかもしれない。巻き込まれてしまったなら仕方がないが、わざわざ戦いの地へ赴くこともないのかもしれない。
でも、だとしたら、私は何のために存在しているのだろう。
クイーンと呼ばれて?
ただこの地に引きこもっているだけ?
……そんなのはおかしな話だ。
プリンセスもプリンスも戦う定めに生きているというのに、クイーンである私だけがこんな状態で本当に良いのか。
「……そうですね。分かりました。では……ここにいるまま、隠れていますね」
『何かあれば遠慮は不要ですので連絡してください』
「はい。……ありがとうございます」
通信は終了した。
七つのキャッスルに護られ、何者にも侵されることのないクイーンズキャッスル――そんなところで一人ぬくぬくしているのはどうしても罪悪感があって、私は、皆に無事かを確認してみることにした。
コンパクトを使えば簡単に連絡できる。
これは非常に便利だ。
『あら! フレイヤちゃんじゃない! どうかしたのかしらー? 何か困り事でもあったかしらー?』
最初に連絡してみたのは森のプリンセス。
彼女は顔を強張らせてはいなかった。
「敵襲のことを聞きました。そちらはどうですか? 大丈夫そうですか」
『ま! そういうことー。心配してくれていたのねー? あぁもう! 優しいのね! ……で、本題だけれどー。わたしのところは大丈夫よー。敵はもう殲滅したわ』
殲滅した!?
……ってことは、敵が来たってこと……よね?
「倒された、ということですか」
『えぇそうよー。それがどうかしたのかしらー?』
森のプリンセスは右の手のひらを頬に当てつつ微笑んでいる。
彼女の後ろにはフローラが浮いているのが視認できた。
「い、いえ……」
『言いたいことがあるなら言ってちょうだい? 遠慮はなしにしましょうー?』
「ええと……、その、仕事が早くて凄いなぁと」
『ま! ふふ、ありがとう。フレイヤちゃんに褒めてもらえるなんて嬉しいわー。それだけでもやる気百万倍よー』
森のプリンセスは最初から最後まで笑顔かつ穏やかだった。
その後愛のプリンセスにも連絡したが、彼女のところへは敵は来ていないようであった。ちなみに、ミクニもきちんとあのまま拘束できている、と言っていた。特に変化はないみたいだった。
私は正直そういうものにはそこまで興味はなかった。
それでも、色々出してきて話す彼は静かな表情ながらとても楽しそうだったので、制止することなんてできなかった。
彼の表情が大きく変わることはない。が、彼の心にも動きはあるということは察することができた。それは喜ばしいことだし、私と過ごす時間を楽しいと思ってもらえるなら嬉しくもある。
せっかく彼が楽しく過ごせているのだ、わざわざ水を差すこともないだろう――そう考え、私は彼のしたいことに付き合った。
その後解散となり別れたのだが。
私は一つだけ聞きそびれてしまった。
母親に関する話は聞けたのだから当初の目的は達成したということなのだが、実は、もう一つ聞いてみたいことがあったのだ。
棚の上の小瓶について、である。
これは私の出自にも生命にも関係のないことなのだが、盾のキャッスルの座周辺にあった棚の上にはいくつもの小瓶があって、それが何なのか密かに気になっていたのだ。
どうしても気になったので尋ねてみようと考えていたのだけれど、なんだかんだで時間がなく、そのまま別れることとなってしまった。
ちなみに、今はクイーンズキャッスルへ帰っている。
ここは何もかもが白く殺風景だ。一歩誤れば退屈になってしまいそうな場所である。が、自宅から持ってきたものがあるため、今では退屈はしない。本を開き、目で文字を追っていれば、時は確実に過ぎてゆく。
◆
『……ン、クイーン、……クイーン!!』
鋭さのある声が耳に入り、浅い眠りから目を覚ます。
どうやら私はいつの間にやら眠ってしまっていたようだ。頭上には見慣れたパネルのようなものが出現していて、そこには落ち着いた雰囲気の女性――杖のプリンセスの上半身が映し出されている。
「ん……、あ、はい……すみません、何でしょうか……?」
『起きられましたか』
「あ、はい。すみません。えっと、何か用事で……?」
最初はちょっとした用事か何かかと思っていたが、パネルに映し出された彼女の表情を見て異変を感じる。
いつもとは何かが違っている。
もしかして、事件でもあったのだろうか。
『実は緊急の連絡がありまして』
「連絡、ですか?」
嫌な予感が……。
『いくつかのキャッスルにて、敵が現れているようです。ですから、しばらくはそちらにいらっしゃる方が良いかと』
やはりか。
こんな予感、的中しなくて良かったのに。
「敵襲、ですか……」
『はい。しかし、クイーンズキャッスルは安全ですので、ご安心ください』
「皆さんは? 皆さんは大丈夫なのですか?」
『ご安心を。現時点ではどこも問題ありません。防衛に成功しています』
杖のプリンセスが紡ぐ言葉は不安を掻き立てるようなものではない。が、彼女自身の表情の固さを目にしてしまうと、どうしても不安を抱かずにはいられなかった。
彼女は日頃から落ち着いた雰囲気ではあるが、それでも、いつもならここまで緊張しているような顔はしないはず。
だからこそ、緊迫した状況なのだと察してしまう。
「あの、私にできることがあったら言ってください……! 力になりたいので……!」
そんなことを言ってみるものの。
『いえ。結構です。クイーンはそこから動かないでください』
さらりと返されてしまった。
皆に任せておくしかないのか――事実、私が下手に手を出さない方が良いのかもしれない。私が出ていったところで足を引っ張るだけ。それなら、戦いには参加せずここでじっとしている方が、まだしも有意義なのかもしれない。巻き込まれてしまったなら仕方がないが、わざわざ戦いの地へ赴くこともないのかもしれない。
でも、だとしたら、私は何のために存在しているのだろう。
クイーンと呼ばれて?
ただこの地に引きこもっているだけ?
……そんなのはおかしな話だ。
プリンセスもプリンスも戦う定めに生きているというのに、クイーンである私だけがこんな状態で本当に良いのか。
「……そうですね。分かりました。では……ここにいるまま、隠れていますね」
『何かあれば遠慮は不要ですので連絡してください』
「はい。……ありがとうございます」
通信は終了した。
七つのキャッスルに護られ、何者にも侵されることのないクイーンズキャッスル――そんなところで一人ぬくぬくしているのはどうしても罪悪感があって、私は、皆に無事かを確認してみることにした。
コンパクトを使えば簡単に連絡できる。
これは非常に便利だ。
『あら! フレイヤちゃんじゃない! どうかしたのかしらー? 何か困り事でもあったかしらー?』
最初に連絡してみたのは森のプリンセス。
彼女は顔を強張らせてはいなかった。
「敵襲のことを聞きました。そちらはどうですか? 大丈夫そうですか」
『ま! そういうことー。心配してくれていたのねー? あぁもう! 優しいのね! ……で、本題だけれどー。わたしのところは大丈夫よー。敵はもう殲滅したわ』
殲滅した!?
……ってことは、敵が来たってこと……よね?
「倒された、ということですか」
『えぇそうよー。それがどうかしたのかしらー?』
森のプリンセスは右の手のひらを頬に当てつつ微笑んでいる。
彼女の後ろにはフローラが浮いているのが視認できた。
「い、いえ……」
『言いたいことがあるなら言ってちょうだい? 遠慮はなしにしましょうー?』
「ええと……、その、仕事が早くて凄いなぁと」
『ま! ふふ、ありがとう。フレイヤちゃんに褒めてもらえるなんて嬉しいわー。それだけでもやる気百万倍よー』
森のプリンセスは最初から最後まで笑顔かつ穏やかだった。
その後愛のプリンセスにも連絡したが、彼女のところへは敵は来ていないようであった。ちなみに、ミクニもきちんとあのまま拘束できている、と言っていた。特に変化はないみたいだった。
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