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episode.60 とある用事で
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あの後、森のプリンセスから連絡があって、アオたちは無事だったという事実を知ることができた。
それを聞いて安堵した。あれからずっと気になっていたから。アオも時のプリンスも今のところまだそこまで親しくないし、時のプリンスに関しては嫌われてしまっていそうだが。ただ、それでも味方であることに変わりはないから、何かあれば心配はする。だから、皆無事だったのならそれが一番良い結果だ。
――そして、今。
「ちょっと、また来たの?」
ミクニが不愉快そうに言う、その相手は盾のプリンス。
彼は先ほど唐突にクイーンズキャッスルへやって来た。そしてミクニに冷ややかな言葉をかけられている。というのが、現在の状況である。
「急で悪いとは思うが」
「そう言いつつも帰る気はないのよね?」
「あぁ。用がある」
「クイーンさんに?」
「そうだ」
「用とか言っているけど会いたいだけじゃないのかしら?」
「まさか。用があることは事実だ」
盾のプリンスとミクニは暫し静かに睨み合っていた。理由は謎だ。彼が急にここへ来たからだろうか。ただ、このまま放っておくと厄介なことになりそうな気がしたので、敢えて近づいてみる。
「プリンスさん、何かご用ですか?」
割って入り尋ねてみると。
「実は見せたいものがあってだな」
彼はレースの飾りがついた白い箱をこちらへ見せてきた。
「これは?」
「キャッスル内部を整理していたら出てきた」
黒い手袋に包まれたままの手でその箱を開ける盾のプリンス。
中に入っていたのは――煌めくティアラのようなもの。
見た感じ、全体的には銀色。しかし目を凝らして見ればただの銀だけではなく。あちらこちらに華やかに煌めく宝石のようなものがついている。
「綺麗……」
つい見惚れてしまった。
「ちなみに、この箱には紙が入っていた」
「紙?」
「あぁ。それでその紙には『クイーンのティアラ』と書かれていた」
なんという掘り出し物。
「私にはよく分からないが、もしこれがクイーンのティアラなのなら、これは君が持つべきものだ。敢えて盾のキャッスルに埋もれさせておく理由はないだろう」
盾のプリンスは真顔で長文を発した。
「そんな。そのままそちらに置いておいてください。私が貰うなんて申し訳ないですし」
「しかし……」
何か言いたげな顔。
こちらへ渡したい理由でもあるのだろうか。
「何ですか?」
「一度、つけてみてほしい」
彼はこちらをじっと見つめる。
ただ、少し、気まずそうな顔をしている。
「え?」
「……君がつけているところを見てみたい」
近くで私たちの様子を見ているミクニはニヤニヤしている。
それはそうか。
男女がこんな距離で見つめ合っていたら、他者からそんな風な解釈をされてもおかしくはないのかもしれない。
「どうだろうか」
「え……いえ、でも、そこに書かれているクイーンって私のことではありませんよね……?」
「そうかもしれない。だが君にはこれをつける資格があると思う」
「そうでしょうか?」
「もちろん。君もクイーンだ」
その後私はティアラをつけることになった。
思えば、これまでの人生で髪飾り系のものを頭につける経験はあまりなかった。いや、もちろん、一度も何もつけたことがないわけではないし、若干異なる種ではあるが帽子を被ることはあったのだが。
だからきちんとつけられるか心配だったのだが。
「できた」
盾のプリンスが綺麗につけてくれた。
私がしたことはというと、座に腰を下ろしてじっとしておくことだけ。
「本当ですか……!」
「もちろん」
自分一人ではどうしようもないところだった。
彼がいて助かった。
「ありがとうございます。ですが、驚きました。盾のプリンスさんがこんな器用だったなんて」
「紙にはつける方法も書かれていた」
「あ。そうなんですか」
「そうだ。だから密かに練習してきた」
「ありがとうございます……!」
既に練習してきていたとは。
どうやら最初からつけさせる気満々だったようだ。
「でも、どうでしょうか、つけている感じ。変ではないですか?」
「変? まさか。そんなわけないだろう」
その時。
愛のプリンセスから通信が入る。
『あ……あ……もしかして、最悪なタイミングでしたーっ!?』
いきなり騒がしい愛のプリンセス。
彼女の毛先は今日もハートのような形を作っている。
「大丈夫ですよ。何かご用でしょうか」
『ええとですねー、実はー……その! フレレどうしてるかなーって思って。それだけなんです! 用事とかじゃなくって!』
「そうなんですね、お気遣いありがとうございます」
『でもでもでも! プロポーズ中だったなんて思わなくって!!……邪魔してすみませんー』
何を言っているのか?
誤解?
「プロポーズ中って何の話ですか」
『へ? だってだって、ティアラとかつけてるじゃないですかっ!』
「あ」
言われて思い出した。
盾のプリンスにつけてもらった銀色のティアラは今もそのままになっている。
「すみません、これ、プロポーズとは無関係なんですよ。それに、そもそもプロポーズされていませんし」
『むむむむむぅ……? それはホントなんですかぁ……?』
愛のプリンセスは唇を尖らせつつパネルに映し出される顔を徐々に大きくしてくる。
『恥ずかしがるなんてナシナシ! 本当のことを言ってくださいーっ!!』
いや、既に本当のことを言っているのだが。
「本当のことしか言っていませんよ」
『あ……もしかしてもしかして……怒らせてしまってます……?』
なぜそうなる?
私の言葉の返し方がおかしかったのだろうか?
『すみませんすみません……ずみばてぬ……ごべんにゃざあぁぁぁぁ……い……』
愛のプリンセスは泣き出してしまう。
なんという情緒不安定さ。
「ああ……泣かないでください」
それを聞いて安堵した。あれからずっと気になっていたから。アオも時のプリンスも今のところまだそこまで親しくないし、時のプリンスに関しては嫌われてしまっていそうだが。ただ、それでも味方であることに変わりはないから、何かあれば心配はする。だから、皆無事だったのならそれが一番良い結果だ。
――そして、今。
「ちょっと、また来たの?」
ミクニが不愉快そうに言う、その相手は盾のプリンス。
彼は先ほど唐突にクイーンズキャッスルへやって来た。そしてミクニに冷ややかな言葉をかけられている。というのが、現在の状況である。
「急で悪いとは思うが」
「そう言いつつも帰る気はないのよね?」
「あぁ。用がある」
「クイーンさんに?」
「そうだ」
「用とか言っているけど会いたいだけじゃないのかしら?」
「まさか。用があることは事実だ」
盾のプリンスとミクニは暫し静かに睨み合っていた。理由は謎だ。彼が急にここへ来たからだろうか。ただ、このまま放っておくと厄介なことになりそうな気がしたので、敢えて近づいてみる。
「プリンスさん、何かご用ですか?」
割って入り尋ねてみると。
「実は見せたいものがあってだな」
彼はレースの飾りがついた白い箱をこちらへ見せてきた。
「これは?」
「キャッスル内部を整理していたら出てきた」
黒い手袋に包まれたままの手でその箱を開ける盾のプリンス。
中に入っていたのは――煌めくティアラのようなもの。
見た感じ、全体的には銀色。しかし目を凝らして見ればただの銀だけではなく。あちらこちらに華やかに煌めく宝石のようなものがついている。
「綺麗……」
つい見惚れてしまった。
「ちなみに、この箱には紙が入っていた」
「紙?」
「あぁ。それでその紙には『クイーンのティアラ』と書かれていた」
なんという掘り出し物。
「私にはよく分からないが、もしこれがクイーンのティアラなのなら、これは君が持つべきものだ。敢えて盾のキャッスルに埋もれさせておく理由はないだろう」
盾のプリンスは真顔で長文を発した。
「そんな。そのままそちらに置いておいてください。私が貰うなんて申し訳ないですし」
「しかし……」
何か言いたげな顔。
こちらへ渡したい理由でもあるのだろうか。
「何ですか?」
「一度、つけてみてほしい」
彼はこちらをじっと見つめる。
ただ、少し、気まずそうな顔をしている。
「え?」
「……君がつけているところを見てみたい」
近くで私たちの様子を見ているミクニはニヤニヤしている。
それはそうか。
男女がこんな距離で見つめ合っていたら、他者からそんな風な解釈をされてもおかしくはないのかもしれない。
「どうだろうか」
「え……いえ、でも、そこに書かれているクイーンって私のことではありませんよね……?」
「そうかもしれない。だが君にはこれをつける資格があると思う」
「そうでしょうか?」
「もちろん。君もクイーンだ」
その後私はティアラをつけることになった。
思えば、これまでの人生で髪飾り系のものを頭につける経験はあまりなかった。いや、もちろん、一度も何もつけたことがないわけではないし、若干異なる種ではあるが帽子を被ることはあったのだが。
だからきちんとつけられるか心配だったのだが。
「できた」
盾のプリンスが綺麗につけてくれた。
私がしたことはというと、座に腰を下ろしてじっとしておくことだけ。
「本当ですか……!」
「もちろん」
自分一人ではどうしようもないところだった。
彼がいて助かった。
「ありがとうございます。ですが、驚きました。盾のプリンスさんがこんな器用だったなんて」
「紙にはつける方法も書かれていた」
「あ。そうなんですか」
「そうだ。だから密かに練習してきた」
「ありがとうございます……!」
既に練習してきていたとは。
どうやら最初からつけさせる気満々だったようだ。
「でも、どうでしょうか、つけている感じ。変ではないですか?」
「変? まさか。そんなわけないだろう」
その時。
愛のプリンセスから通信が入る。
『あ……あ……もしかして、最悪なタイミングでしたーっ!?』
いきなり騒がしい愛のプリンセス。
彼女の毛先は今日もハートのような形を作っている。
「大丈夫ですよ。何かご用でしょうか」
『ええとですねー、実はー……その! フレレどうしてるかなーって思って。それだけなんです! 用事とかじゃなくって!』
「そうなんですね、お気遣いありがとうございます」
『でもでもでも! プロポーズ中だったなんて思わなくって!!……邪魔してすみませんー』
何を言っているのか?
誤解?
「プロポーズ中って何の話ですか」
『へ? だってだって、ティアラとかつけてるじゃないですかっ!』
「あ」
言われて思い出した。
盾のプリンスにつけてもらった銀色のティアラは今もそのままになっている。
「すみません、これ、プロポーズとは無関係なんですよ。それに、そもそもプロポーズされていませんし」
『むむむむむぅ……? それはホントなんですかぁ……?』
愛のプリンセスは唇を尖らせつつパネルに映し出される顔を徐々に大きくしてくる。
『恥ずかしがるなんてナシナシ! 本当のことを言ってくださいーっ!!』
いや、既に本当のことを言っているのだが。
「本当のことしか言っていませんよ」
『あ……もしかしてもしかして……怒らせてしまってます……?』
なぜそうなる?
私の言葉の返し方がおかしかったのだろうか?
『すみませんすみません……ずみばてぬ……ごべんにゃざあぁぁぁぁ……い……』
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