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1話「婚約者は幼馴染み、だったのですが……?」
しおりを挟む私には幼馴染みがいる。
彼の名はオーツク。
幼い頃から家が近所で、それゆえ、毎日のように日が暮れるまで遊んでいた。
そしてその彼こそが、婚約者でもある。
彼と婚約することになったのは自然な流れだった。
そういう年齢になってきた頃に「私たちなら上手くやっていけるんじゃない?」「そうだな、お互いのことよく分かってるからな」みたいなやり取りをして、そのまま婚約したのだ。
何も特別なことなんてなかった。
でも嫌い合ってとか誰かに強制されてとかではなくて。
そう、確かに、私と彼は自身の意思によって婚約を決めたのである。
大恋愛ではない。
でもだからこそ上手くいく部分もあるはず。
そう思っていたし、悪い進展なんて少しも考えてみなかった。
――だがその日はやって来てしまう。
「ごめんリア、婚約は破棄とさせてくれ」
リアというのは私の名前だが――ある日のこと、突然、オーツクが女を連れて家にやって来た。
「え……? な、何? どういう……」
「彼女と結婚することにした」
オーツクがそう言えば、彼の隣に立っている女性は一瞬だけ私へ目をやった。
その時の視線の黒いこと。
善良さなんて欠片ほどもない。
私に対して敵意と優越感を同時に抱えているような目つきだ。
もっとも、オーツクはそんなことには一切気づいていないのだけれど。
「待って、意味が分からないわ。急過ぎよ。どうしてそんな」
「彼女を選ぶことにしたんだ」
「だからどうして――って、まさか」
「そのまさかだよ、恐らくな」
嘘だ。
信じたくなかった。
彼がそんなにだらしない人だったなんて……。
「婚約者さん、お願いします。オーツクを解放して差し上げてください」
やがてオーツクの横にいる女性が口を開く。
長い睫毛が何度も上下していた。
「貴女、一体……」
「オーツクが愛しているのはわたし。察しているのならもう分かっているのでしょう? わたしは愛されるという意味で勝っているの、貴女に」
「勝手ですよ、あまりにも」
「けど、実際一番愛されているのはわたし」
そう言って女性は口角を持ち上げた。
「大丈夫か? アルバニア。お前が前に出なくても」
「でもね、オーツク、話すなら女同士の方が良いかもって思って……」
「ああ、ありがとうな。俺に気を遣ってくれているんだな。本当に、本当に優しい女性だな、お前は」
「いいえ、そんなんじゃないの。ただこの人に貴方の本当の気持ちを分かってほしくて」
オーツクとアルバニアは楽しそうに喋っている。
どうしてこんないちゃつきを見せられなくてはならないのか……。
「それで。オーツク、本気なの? 本気でそう言ってる?」
「ああ」
「……すべてが壊れることになるわ」
「だとしても俺はアルバニアを選ぶ。何を失っても、何を言われても、それでも彼女を愛しているから」
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