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3話
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あれから一年ほどが経って、驚いたことに、私は今エルフィアと同棲している。
「ねえお茶持っていこうか?」
「あ、うん! ありがと!」
何がどうしてこうなったのか――正直あまりはっきりとは覚えていないのだけれど、婚約破棄されたことに関する相談に乗っているうちに段々親しくなっていって、それで、最終的に「一緒に暮らしたい」と言われて今に至ったのである。
「ごぼう茶がいいのよね?」
「そうそう」
「良かった間違ってなくて。好きって言ってたかなぁって思ったの」
「エルフィアは記憶力凄いね!」
「えへへ……ありがとう褒めてくれて、でも、ちょっと恥ずかしいわ。……もちろん、嬉しいのだけれど」
私の願いは思わぬ形で叶ったのである。
人生とは分からないものだ。
彼女への想いは一生隠しておく、そう決めていたのに。
「はい、これね」
「ありがと! いい匂い~」
「渋いわよね、好みが」
「よく言われる」
「……言っちゃまずかった?」
「ううん、そんなことないよ。惚れた相手だし、エルフィアになら何言われても大体のことは許しちゃうし」
今ではすっかり心を全開にしてしまっている。
ちなみに、かつて彼女を捨てた男ペクチンはというと、あの後勝手に婚約破棄したことで親と大喧嘩になったそう。で、その喧嘩の最中に刃物を持って暴れたそうで、親に通報され逮捕されてしまったそうだ。それ以降彼は苛立つとすぐに暴れるようになり、牢屋内でもたびたび暴れていたそうで。最終的に彼は「更生の余地なし」とのことで処刑されてしまったそうだ。
ま、彼がどうなろうとももはや私たちには関係ないのだが。
「これね、クッキーよ。この前こっそり買っておいたの。良かったら一緒に食べない?」
ただ、まぁ、彼が痛い目にあったという事実は私にとっては少しすっきりするところではある。
一時でもエルフィアを傷つけた男が幸せになるなんて、正直あまり喜べないことだから。
「いいね! 食べよう!」
「味は三種類あるの。どれが好き?」
「一番好きなのはエルフィアかな」
「もうっ、またそんなこと言って。ふざけてないで試してちょうだい。ね?」
「ふざけてないよ?」
「ほら、食べて確かめてみて」
「エルフィアを食べたい」
「もー、いつもそんな感じなんだからー」
私とエルフィアの幸せな毎日は終わらない。
◆終わり◆
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