捨て子から王子の婚約者に、そして……? ~荒波を越え、復讐し、そして幸せになるのです~

四季

文字の大きさ
5 / 10

5話「逃れたい」

しおりを挟む

 アイスライトはちっと舌打ちをして、それからぷいと顔をそむけた。
 それこそ不機嫌な子どものように。
 感情を少しも隠そうとせず、進行方向を反転させる。

「もういい!」

 吐き捨てて、去ってゆく。

 私はその背をじっと見つめていた――するとぽんと軽く右肩を叩かれる。

「またしても……災難でしたね」

 声がして、視線がロゼットへ移った。

「すみません、お騒がせしてしまって」
「いえ」
「でも……その、本当に助かりました。あのままだったらどんなことになっていたか。でも、ロゼットさんのおかげで追い払うことができました」

 礼は丁寧に。
 心くらいはその時その時できちんと伝えたい。

 それから。

「でも、アイスライト、かなり困っているみたいでしたよ」

 せっかく情報を得られたのだから、現状についても一応伝えておかなくては。

「火消しで大忙し、みたいなことを言っていました」
「そうですか……!」

 ロゼットの表情が僅かに柔らかくなる。
 春の訪れみたいに。

「順調なようですね」
「はい、そうみたいです。さすがですねロゼットさん」

 言えば、彼は静かに顔をそむけた。

「ロゼットさん?」
「……ああ、いえ。何も僕の力ではありません、すべては情報の力です」

 そこまで言って彼は沈黙する。

 その時になって思い出した。
 用事がきちんとできなかったということを。

「……あの、ごめんなさい買い物」
「買い物?」
「はい。買いたい物があったのですが、買えませんでした。その中にはここの備品も含まれていて……ごめんなさい本当に」

 すると。

「いえ!」

 彼は急に強めな調子で発した。

「え」
「あ……失礼。しかし、買い物などまた別の機会で良いではないですか」

 意外だった。
 彼が調子を強めることがあるなんて。

 ――妹関連以外で。

「それより、一旦中へ」
「どういうことですか? 今からならまだ戻れます。もう一回行ってきますよ買い物に」

 提案してみるのだが。

「駄目です」

 はっきり返されてしまった。

「どうしてですか」
「また何かあったら大変です。ですから今は中へ」
「アイスライトのことですか? ならもうきっと大丈夫ですよ」
「絶対とは言えませんから」
「でも、買う物が……」
「それなら他の者に行かせますから」

 今日のロゼットはやたらと厳しい、選択を譲ってくれない。

「取り敢えず、エリカさんは中へ」
「……はい」

 これ以上何度も同じやり取りをしたくないので、こちらが引き下がっておくことにした。

 彼なりに心配してくれているのかな、くらいに軽く捉えておこう。

 取り敢えずアイスライトから逃れられた。
 今はそれだけでいい。
 それ以上のことなんて何も望まない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。

有賀冬馬
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。 特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。 けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。 彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下! 「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。 私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

黒の聖女、白の聖女に復讐したい

夜桜
恋愛
婚約破棄だ。 その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。 黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。 だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。 だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。 ※イラストは登場人物の『アインス』です

処理中です...