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5話「逃れたい」
しおりを挟むアイスライトはちっと舌打ちをして、それからぷいと顔をそむけた。
それこそ不機嫌な子どものように。
感情を少しも隠そうとせず、進行方向を反転させる。
「もういい!」
吐き捨てて、去ってゆく。
私はその背をじっと見つめていた――するとぽんと軽く右肩を叩かれる。
「またしても……災難でしたね」
声がして、視線がロゼットへ移った。
「すみません、お騒がせしてしまって」
「いえ」
「でも……その、本当に助かりました。あのままだったらどんなことになっていたか。でも、ロゼットさんのおかげで追い払うことができました」
礼は丁寧に。
心くらいはその時その時できちんと伝えたい。
それから。
「でも、アイスライト、かなり困っているみたいでしたよ」
せっかく情報を得られたのだから、現状についても一応伝えておかなくては。
「火消しで大忙し、みたいなことを言っていました」
「そうですか……!」
ロゼットの表情が僅かに柔らかくなる。
春の訪れみたいに。
「順調なようですね」
「はい、そうみたいです。さすがですねロゼットさん」
言えば、彼は静かに顔をそむけた。
「ロゼットさん?」
「……ああ、いえ。何も僕の力ではありません、すべては情報の力です」
そこまで言って彼は沈黙する。
その時になって思い出した。
用事がきちんとできなかったということを。
「……あの、ごめんなさい買い物」
「買い物?」
「はい。買いたい物があったのですが、買えませんでした。その中にはここの備品も含まれていて……ごめんなさい本当に」
すると。
「いえ!」
彼は急に強めな調子で発した。
「え」
「あ……失礼。しかし、買い物などまた別の機会で良いではないですか」
意外だった。
彼が調子を強めることがあるなんて。
――妹関連以外で。
「それより、一旦中へ」
「どういうことですか? 今からならまだ戻れます。もう一回行ってきますよ買い物に」
提案してみるのだが。
「駄目です」
はっきり返されてしまった。
「どうしてですか」
「また何かあったら大変です。ですから今は中へ」
「アイスライトのことですか? ならもうきっと大丈夫ですよ」
「絶対とは言えませんから」
「でも、買う物が……」
「それなら他の者に行かせますから」
今日のロゼットはやたらと厳しい、選択を譲ってくれない。
「取り敢えず、エリカさんは中へ」
「……はい」
これ以上何度も同じやり取りをしたくないので、こちらが引き下がっておくことにした。
彼なりに心配してくれているのかな、くらいに軽く捉えておこう。
取り敢えずアイスライトから逃れられた。
今はそれだけでいい。
それ以上のことなんて何も望まない。
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