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6話「体調不良で」
しおりを挟むあれから数日。
この期間にも想定していなかった出来事はあった。
放火未遂だ。
仲間の一人が犯人をたまたま発見し、火をつける前に止めた。なので特に実際には問題は起こらなかった。ぼやにすら至らず、皆無事だった。
――だが、その後の聞き取り調査で、放火未遂の犯人がアイスライトから頼まれてそういうことをしたのだと判明して。
それによって彼への負の感情は増した。
そして、恐怖も。
アイスライトは私を恨んでいるのか? いやだがしかし私は彼に対して酷いことはしていない。なのになぜ? 私は。ただ婚約破棄され、ただ殺されかけて、ただ罪をなすりつけられた、それだけだ。でも彼は私を殺そうとした? 私の持っているものを火によって奪おうとした? ……この前拒否したからだろうか。……いや、しかし、あの程度のことで放火までするだろうか。
「体調いかがですか、エリカさん」
「大丈夫です」
……そう、私は今寝込んでいる。
「なら良かった」
「あれから何か変化はありましたか……?」
「情報は順調に流れています。反アイスライトの意見もどんどん増えていますよ」
それにしても情けない。
まだ何も終わっていないというのに、私だけまともに動けなくて。
「そう……ですか」
「何だか嬉しくなさそうですね? どうかしました?」
ロゼットは私の心を察したようだった。
す、鋭い……。
「いえ、ただ……情けないなと」
「なぜですか」
「こんな時に横になっているしかできないなんて……」
「体調不良は誰でもあることですよ」
「でも……」
「今はお疲れなのでしょう、だからマイナスに考えてしまうのです。きっとそうですよ。僕にもそういう時はありましたから」
いや、そもそも、私は前から特に何もできていないのだ。
せっかくあの暗闇から助けてもらったのに、なんだかんだで一緒にいるだけで、彼には何一つ返せていない。
「ごめんなさい、役に立てなくて……」
呆れるほど弱々しい声が出てしまった、しかし、ロゼットは柔らかく微笑むのみ。
「まだ良いのですよ、今は」
「え……」
「貴女は最後に貴女なりの復讐をすればそれで良いのです」
「……でも、私、何も」
「落ち込む必要はありません。貴女は何も悪いことなどしていないのですからどんと構えていてください。待つのです、貴女が望む復讐をする機会――その時を」
そうだ、国民の意見は明らかに反アイスライトの流れとなっている。
だからきっと大丈夫。
希望なら確かにある。
いつか皆の心がアイスライトの命を奪うだろう。
そして、その心というものには、私の心だって含まれる。
アイスライトに傷つけられてきた人の心はいずれ剣となり彼を刺し貫くことだろう。
「焦らないで良いのですよ、今は休んでいてください」
「はい……」
いつかはきっと復讐を。
でもその時はまだ今じゃない。
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