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前編

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 そこそこ歴史ある領地持ちの家に長女として生まれた私は、四つ年下の妹ルリが生まれてからというもの、親からちっとも大事にされなくなってしまった。

 いや、大事にされるされない程度の問題ではない。

 両親はルリばかりを可愛がり、私のことはいつだって無視。最低限の世話しかせず、その一方で、家のことやら何やら色々押し付けてきて。私はまるで奴隷か何かであるかのように扱われて。家の中では私に人権なんてなかった。

 そんな私にも、学園時代に知り合い婚約した人がいたが、その婚約は妹ルリの勝手な行動によって破棄となってしまった。

 ――婚約者を彼女に奪われたのだ。

「お姉様とあのお方の婚約、破棄になりましたわ!」

 そう告げられた時は衝撃を受けた。

「あのお方はこれからあたくしと幸せになるんですの!」

 婚約者と結婚すればここから抜け出せる。
 それだけが希望だった。
 でも、妹のせいで、その僅かな光さえ見ることができなくなってしまった。

 しかも、両親も、妹が婚約者を奪ったことを責めはせず。

「お姉さんだろ? 許してやってくれなぁ」
「貴女は別の人を探しなさい」

 父も、母も、ルリの味方だった。

 だがそんなある日。
 一人の男性が訪問してきた。

「いつも庭で雑用をしているあの美しい女性は娘さんですよね?」

 対応するのは母。

「ええそうです」

 訪問者である金髪の男性はリグラと名乗った。

「娘さんにあのような雑用を押し付けるとは……可哀想とは思わないのですか?」
「思いません。あの子は出来損ないの方ですから」
「出来損ない……よく実の娘にそのようなことが言えますね」
「本当のことですから。妹はもっと可愛く天使です、でも、姉は平凡な女でしかない。しかも、姉は、いまだに家にいる。だから、家のために働くのは当然のことなのですよ」

 すると彼は。

「あのお嬢さん、僕にください」

 恥じらいなどなく、そう言った。
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