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ある冬の夜、突然婚約破棄を告げられて絶望し、この世から去ろうとしてしまったのですが……?(後編)
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◆
意識を取り戻した時、傍らには見知らぬ青年がいた。
「お母さん! 娘さんが目を覚まされました!」
……誰だろう?
まだ寝惚けている目で彼を捉える。
「メリーサ! 気がついたのね! 起きたの!?」
「母さん……」
「川に落ちて溺死しかけていたのよ、貴女は」
「あ……」
「でも、彼が。この彼が、助けてくれて、ここまで運んできてくれたの」
母は事情を簡単に説明してくれた。
「――そんなことになっていたなんて」
「そうよ、彼がいなければメリーサの命は今頃もうなかったかもしれないわ」
傍らにいた青年はヴィジュアールという名だそうだ。
「ええと……その、ヴィジュアールさん……助けてくださって、ありがとうございました」
「いえいえ」
「濡れてしまったのでは……?」
「まぁ、そうですね、多少。けれどもたいしたことではありませんよ。濡れたのは少しだけですし、お母さまからタオルを借りられたのですぐ拭けましたし」
これがヴィジュアールとの出会い。
彼はある日突然私の前に現れた。
それも命の恩人として。
◆
あれから数年、私は、ヴィジュアールと夫婦になった。
「メリーサ! これ貰ってきたんだけど!」
「何それ……野菜?」
あの日、あの冬の夜、私たちは出会った。
その縁は意外なほどに膨らんでいって。
やがて互いを想うようになり。
そしてある冬の日に彼から「未来を共にしたい」というようなことを言われ、私はそれを受け入れた。
私たちは少し珍しい形で出会ったけれど、でも、真っ直ぐに純粋に想い合っていることは確か。
二人の心の繋がりを壊せる者なんて存在しない。
きっとこれからも、いつまでも、私たちは愛をそっと抱き締め肌で感じながら生きてゆくのだろう。
「そうなんだ。ご近所さんがあげるーって」
「ヴィジュはおばさまたちに人気者ね」
「あはは、なぜだか分からないけどたくさん貰ってしまうね」
「また土を洗い落とすところからかしら?」
「いや、それは大丈夫」
「え、そうなの?」
「前に頼んだんだ。できれば洗っておいてほしい、って。そうしたら今回は綺麗に洗ってあったよ」
そうそう、そういえば、グレーテデンのその後はなかなか悲惨なものだったようだ。
彼は私を捨ててすぐに前々からこっそり交際していた女性と婚約しようとしたそうだが、女性の身分がやや低めであったために親から大反対を受け、その女性とは結婚できないこととなってしまったそうだ。
ただ、それでも二人は想い合っていて。
しまいに二人は心中しようと動く。
けれどもその果てにグレーテデンだけが生き残ってしまった。
それによってグレーテデンは女性の親から大変激しく怒られることとなり、また、高額な償いのお金を支払わされることとなってしまったそうだ。
また、その一件により、グレーテデンは自分の親からも見放されることとなる。
勘当され、お金もなくなり、行き場をなくした彼は日雇いの仕事に従事する外なくなってしまい――しかしその職場では「元坊ちゃんだからなぁ、無能だよなぁ」などと言われ散々馬鹿にされたうえ先輩などから酷い虐めを受けたそうで、結局それも上手くいかず。
最終的に彼は物乞いをして生き延びるようになってしまったのだとか。
そしてある冬、路上で座ったまま凍死してしまったそうだ。
◆終わり◆
意識を取り戻した時、傍らには見知らぬ青年がいた。
「お母さん! 娘さんが目を覚まされました!」
……誰だろう?
まだ寝惚けている目で彼を捉える。
「メリーサ! 気がついたのね! 起きたの!?」
「母さん……」
「川に落ちて溺死しかけていたのよ、貴女は」
「あ……」
「でも、彼が。この彼が、助けてくれて、ここまで運んできてくれたの」
母は事情を簡単に説明してくれた。
「――そんなことになっていたなんて」
「そうよ、彼がいなければメリーサの命は今頃もうなかったかもしれないわ」
傍らにいた青年はヴィジュアールという名だそうだ。
「ええと……その、ヴィジュアールさん……助けてくださって、ありがとうございました」
「いえいえ」
「濡れてしまったのでは……?」
「まぁ、そうですね、多少。けれどもたいしたことではありませんよ。濡れたのは少しだけですし、お母さまからタオルを借りられたのですぐ拭けましたし」
これがヴィジュアールとの出会い。
彼はある日突然私の前に現れた。
それも命の恩人として。
◆
あれから数年、私は、ヴィジュアールと夫婦になった。
「メリーサ! これ貰ってきたんだけど!」
「何それ……野菜?」
あの日、あの冬の夜、私たちは出会った。
その縁は意外なほどに膨らんでいって。
やがて互いを想うようになり。
そしてある冬の日に彼から「未来を共にしたい」というようなことを言われ、私はそれを受け入れた。
私たちは少し珍しい形で出会ったけれど、でも、真っ直ぐに純粋に想い合っていることは確か。
二人の心の繋がりを壊せる者なんて存在しない。
きっとこれからも、いつまでも、私たちは愛をそっと抱き締め肌で感じながら生きてゆくのだろう。
「そうなんだ。ご近所さんがあげるーって」
「ヴィジュはおばさまたちに人気者ね」
「あはは、なぜだか分からないけどたくさん貰ってしまうね」
「また土を洗い落とすところからかしら?」
「いや、それは大丈夫」
「え、そうなの?」
「前に頼んだんだ。できれば洗っておいてほしい、って。そうしたら今回は綺麗に洗ってあったよ」
そうそう、そういえば、グレーテデンのその後はなかなか悲惨なものだったようだ。
彼は私を捨ててすぐに前々からこっそり交際していた女性と婚約しようとしたそうだが、女性の身分がやや低めであったために親から大反対を受け、その女性とは結婚できないこととなってしまったそうだ。
ただ、それでも二人は想い合っていて。
しまいに二人は心中しようと動く。
けれどもその果てにグレーテデンだけが生き残ってしまった。
それによってグレーテデンは女性の親から大変激しく怒られることとなり、また、高額な償いのお金を支払わされることとなってしまったそうだ。
また、その一件により、グレーテデンは自分の親からも見放されることとなる。
勘当され、お金もなくなり、行き場をなくした彼は日雇いの仕事に従事する外なくなってしまい――しかしその職場では「元坊ちゃんだからなぁ、無能だよなぁ」などと言われ散々馬鹿にされたうえ先輩などから酷い虐めを受けたそうで、結局それも上手くいかず。
最終的に彼は物乞いをして生き延びるようになってしまったのだとか。
そしてある冬、路上で座ったまま凍死してしまったそうだ。
◆終わり◆
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