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8話「救いはあった」
しおりを挟む予定時刻は大幅に過ぎていた。
でもルクセーはすぐには怒りを爆発させなかった。
それは私にとって唯一の救いであった。
彼に会ってからずっと涙が止まらなくて、情けなくて、でもどうしようもなくて――彼に支えられながら何とか近くの喫茶店に入ったが、まだ、すぐには落ち着きを取り戻すことはできなかった。
「……落ち着きましたか?」
向かい合うような席、店のすみっこの二人用の座席だ。
「……はい」
それぞれ水を貰った。
透明なグラスの中には見たことがないくらい透き通った氷がいくつか入っていて、静かに煌めいている。
「それで、説明、とは?」
来ておいて良かった。
こうして彼にまた会えたから。
でも申し訳なさも時と共に膨らんでゆく。
彼は優しい。
でもだからこそ申し訳ない。
「……遅刻した理由です」
「ああいやいいんですよ~、気にしないでくださいよ~」
「……でも、その、それは嫌です。こんな酷い遅刻をしておいて、何も言わないままでいるなんて……」
それから私は遅刻した理由について話した。
かつて婚約者だったルリードとその父親が急に私の家へやって来たこと。そして、やり直したい、というようなことを伝えてきたこと。さらには、断ってもその意思を受け入れてはもらえず、何度も何度も執拗に同じようなことを言われたこと。
一つも隠さずに話した。
それが遅刻した者の義務だと思ったから。
「――そうでしたか、そんなことがあったのですね」
ルクセーは話をきちんと聞いてくれていた。
途中で感情的になったりはしなかった。
「はい。その、本当に、お待たせしてしまって……なんというか、申し訳なかったです」
「大丈夫ですよ、無事で良かった」
「……優しいですね」
「もし来る途中で事故にでも遭っていたら、というのは、少し心配だったんです。だって、もしそんなことになっていたら、ご両親に申し訳ないでしょう? 謝っても謝っても償えませんから」
彼に心配させてしまったことが辛い。
「心配させてしまって、申し訳ありませんでした」
「いえいえ~、無事で何よりです」
「ごめんなさい」
「ああもう謝らないでください! 貴女は悪くないんですから! ね? そうでしょう?」
その時ルクセーは初めて水に手をつけた。
グラスから液体を飲む、それだけの少しの動作ですら品の塊のようだ。
いいのかな、こんな人と私が一緒にいて……。
「アメイリアさん、実は今日、プレゼントがあるんですよ~」
「プレゼント?」
「はい! これです! よければ受け取ってください」
グラスを置き、小さな箱を出してくるルクセー。
「実はね、待っている間に買っておいたんです。ちょっと店を見ていたら、これいいなぁ~と思うアクセサリーがあって。選んだのが僕なのでセンスはちょっと……かもしれないですけど、あはは……そこはちょっと見逃してください~」
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