戦いは終わって、愛する人と結ばれたなら、あとは穏やかに生きてゆくだけだと思っていた――。 (白薔薇のナスカ関連作品)

四季

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17話

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 それからしばらく私たちは治療を受けることとなった。

 肉体的な傷を治療するのはもちろん、精神的な面でも傷を負っている可能性を考慮しての面談などもあり、ケアは非常に丁寧なものであった。

「終わった終わった」

 今日は朝から面談があって、担当の人から色々聞かれたりいろんな話をしたりしていたのだが、想像していたより長引いて――気づけば午前が半分くらい過ぎ去ってしまっていた。

 で、ようやく病室へ帰ると。

「おかえり! ナスカ」

 腕に繋いだ管の位置を看護師の女性に直してもらっているところだったエアハルトは素早く気づいてこちらへ視線を向けてきた。

「ただいま」

 私はそうとだけ返した。

 ――看護師の女性が部屋から出ていって、それから。

「長かったぁ……」

 ようやく本心を吐き出すことができた。

「ちょっと疲れた顔してるね」
「長かったのよ……」
「お疲れさま」

 エアハルトは苦笑して、それから「あ、そうだ」と少年のように呟く。

「これ食べる?」

 そう言ってエアハルトがこちらへ差し出してきたのは小さめのチャック付き袋に入っているドライマンゴー。

 甘いドライフルーツは嫌いじゃない。
 もう涎が溢れてきている。

「さっきヴェルナーが」
「来たの!?」
「うん。それで、ナスカに、って」
「そうだったの……残念だわ、会えなくて」

 チャック付き袋を受け取ると、すぐにその口を開ける。

「いいにおい~」

 漂ってきた香りに嬉しくなって思わず溶けたような顔をしてしまう。

「いっただーきまーす!」

 もう止められない。
 もう止まれない。

 こんなにも美味しそうなものが目の前にあるのだ、食べたいという衝動は簡単に抑えられるものではないのだ。

「あはは。喉に詰まらせないようにね」

 笑うエアハルトは幸せそうな顔をしていた。

 絶望を、地獄を、越えて私たちはまた強い想いを確かめる。

「あ~ま~い~」

 ドライマンゴーは驚くくらい美味しかった。


 ◆


「アードラーさん! 本当に、本当に……ご無事で何よりです!」

 仕事が忙しくなかなかお見舞いに来られなかったベルデが病室へやって来た。

「もう、もう、心配すぎて……魂が抜けそうでしたッ!!!」

 ベルデの熱量は凄まじい。

 だからそれも無理はないか。
 なんせ彼は何よりもエアハルトという存在を重視しているような状態だから。

「取り敢えず落ち着いてくれ」
「落ち着けませんよ!!」
「いやだから落ち着けって」
「アードラーさんが敵の手に落ちるなど!! 大変なことですッ!! クロレアの英雄にして宝である貴方に万が一があったらと思うと……ああもうどうにかなってしまいそうです!!」

 ベルデは今日も相変わらず。大騒ぎされてエアハルトは困っているようだったけれど、私は困りはしなかった。当たり前のようにベルデはそういう人だと思っている、だから、深く強くエアハルトの身を心配する彼を目にしても特に何とも思わなかった。


 ◆


 ある夜。
 病院内が静まり返った時間にベッドの上でふと目を覚ますと、隣に寝ていたエアハルトもまた目を覚ましたところだったようで。
 ベッドの傍らにある小さな灯りだけが光を注ぐ室内で、偶然、ぱちりと目が合った。

「起きたんだね」

 先に口を開いたのは彼で。

「ええ」

 私は短く返す。

「夜中に起きてしまったら退屈よね」
「ナスカがいたら楽しいよ」
「……ちょっと、もう、何でいつもナチュラルにそういうこと言うのよ」

 小さな灯り、天井、そして薄暗い空間で微かに見える彼の顔。

「そんなだから過保護とか保護者とか言われるのよ」
「……言われてるかな、そんなこと」
「知らないの?」
「知らないし、べつに、僕は何と言われても気にしないよ」

 そんなことをさらりと言ってのける様はまさに激戦を生き延びてきた戦士そのもの――なんていうのは冗談で、私の前にいるエアハルトはなんてことのない優しくて時々頑固な男性だ。

 パイロットとして抜きん出た才を持っていて有能であることは確かだが、愛が過剰気味だし、面倒臭い父親みたいにすぐ心配してくるし、変なところだけ細かいことを気にするし、そんなところはたまに煩わしく思ってしまうこともある。私が精神的にまだまだ未熟ということもあって、時には「面倒臭いよ!」なんて言いたくなってしまうこともあるのだ。

 でも、何だかんだで私はそういうエアハルトを愛している。

「早く飛びたいなぁ」
「……相変わらずね」

 天井へ視線を向けながら希望を口にするエアハルトには少年のような面影がある。

「なんかこう、じっとしてると、違和感があるんだ」
「地上にいる方が気楽で良さそうなのに」
「そわそわしてしまう」
「もう……」

 呆れて、笑ってしまって。

「じゃ、早く治すことね」

 そんな風に続けた。

「うん……」

 私たちが共に歩む道、そこにはきっと良いこともあれば大変だと感じるようやこともあるだろう。
 けれども支え合えたなら。
 きっとそんなに悪い未来にならないのではないかとは思う。

 エアハルトという良きパートナーを得られたのだから、前を向いて、希望を抱いて生きよう。

 私たちは、前へと、未来へと、ただひたすらに突き進む。

 そして。

 その中で得られたもの、幸福を、大切に守りながら生きてゆくのだ。


◆終わり◆
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