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気がつけば、王妃は亡くなっていた。ある日突然この世を去った。私は彼女の死の理由を知ることはできずじまいだ。
私は日に日に王妃に似てくる王女から目を逸らした。王女の傍にいたら、彼女と別れる時が来るのを恐れ続けなくてはならない。それが嫌だったから。もう辛い思いをしたくない——、ただそれだけの理由で、私は王妃の願いを叶えられなかった。
それと同じくらいの時期だろうか。ルッツが悪魔と関係を持っていることが判明し地下牢へ入れられた。ルッツの世話は兄である私がすることになり、私は毎日食事を運ぶなどの世話をしたが、彼が私に何かを言うことは一度もなかった。そんなルッツの羽は、悪魔から得た魔気によってか、徐々に黒く染まっていく。
ある夜、私が地下牢へ行くと、真っ黒になったルッツが脱走しようとしていた。こんなことになってしまったのは私のせい。そう思うと、彼を止めることはできなかった。
気がつけば、私は一人になっていた。
気がつけば、『裏切り者の兄』と呼ばれていた。そして私はついに親衛隊を辞めさせられた。
そんな時だった。アンナ王女と初めて話したのは。
「お願い! 私の護衛隊長になってほしいの!」
どこへ行けばいいのか、明日何をすればいいのか。失意のどん底にいた私に、王女はそう言って頭を下げつつ手を差し出した。母親と同じ、華奢な手。ガラス細工のように繊細で、強く触れたら壊れてしまいそうな。
「無理……?」
緊張しているのか、王女の手は震えていた。
私はそっとその手をとる。
「はい」
たったの一言で、王女の表情が明るくなる。
「ありがとう! 嬉しい!」
この時、私は初めて自分で自分の歩む道を決めた。今までは誰かに決められた道をなぞるだけだったが、この先は違う。ここから先は自分で選び進んでいかなくてはならない。
「ですが、親衛隊をくびになった身です。ディルク王に認めていただけるか分かりません」
「それは任せて。ちゃんと説得するから!」
王女は無邪気に笑う。
運命とは不思議だと思う。こうして私と王女の手が繋がる、そんな日が来たのだから。
私は一度逃げた。王妃に頼まれていながら、王女の傍にいることを拒んだ。いつか彼女を失うのが怖い、ただそれだけの理由で。
だが、今はもう、あの頃の私とは違う。失うのが怖いなら、私が護ればいい。彼女もそれを望んでいるのだから幸運だ。
十年、いや二十年。この先どれだけの時間が経っても、私はこの日王女の手をとったことを後悔はしないだろう。
「常に貴女の傍に」
ずっと傍にいて王女を護る。それが私の選んだ道だから。
◆終わり◆
私は日に日に王妃に似てくる王女から目を逸らした。王女の傍にいたら、彼女と別れる時が来るのを恐れ続けなくてはならない。それが嫌だったから。もう辛い思いをしたくない——、ただそれだけの理由で、私は王妃の願いを叶えられなかった。
それと同じくらいの時期だろうか。ルッツが悪魔と関係を持っていることが判明し地下牢へ入れられた。ルッツの世話は兄である私がすることになり、私は毎日食事を運ぶなどの世話をしたが、彼が私に何かを言うことは一度もなかった。そんなルッツの羽は、悪魔から得た魔気によってか、徐々に黒く染まっていく。
ある夜、私が地下牢へ行くと、真っ黒になったルッツが脱走しようとしていた。こんなことになってしまったのは私のせい。そう思うと、彼を止めることはできなかった。
気がつけば、私は一人になっていた。
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「無理……?」
緊張しているのか、王女の手は震えていた。
私はそっとその手をとる。
「はい」
たったの一言で、王女の表情が明るくなる。
「ありがとう! 嬉しい!」
この時、私は初めて自分で自分の歩む道を決めた。今までは誰かに決められた道をなぞるだけだったが、この先は違う。ここから先は自分で選び進んでいかなくてはならない。
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「それは任せて。ちゃんと説得するから!」
王女は無邪気に笑う。
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だが、今はもう、あの頃の私とは違う。失うのが怖いなら、私が護ればいい。彼女もそれを望んでいるのだから幸運だ。
十年、いや二十年。この先どれだけの時間が経っても、私はこの日王女の手をとったことを後悔はしないだろう。
「常に貴女の傍に」
ずっと傍にいて王女を護る。それが私の選んだ道だから。
◆終わり◆
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