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それから二年が経ち、王妃は一人の娘、つまり王女を生んだ。王妃によく似た愛らしい王女は『アンナ』と名づけられた。エンジェリカがお祝いムードに包まれている最中、私は突然王妃に呼び出された。場所は彼女の自室だった。
「ごめんなさい、エリアス。急に呼び出したりして」
「いえ。どうしました?」
彼女の腕の中には生まれたばかりの王女が眠っている。
「あのね、エリアス。この子……アンナを、お願いしたいの」
意味が分からず私は首を傾げる。
「侍女のヴァネッサにも同じようなお願いをしたのだけど、エリアス、貴方にもお願いしておきたいの。貴方は今やこの天界では一番強いと言っても過言ではないでしょう。そんな貴方にだから頼めるのよ。もし私に何かあったら……アンナを護ってほしいの」
「そんなことあるわけがない。王妃の身に何か起こるなど、そんなことが……」
彼女はいつになく真剣な表情をしていた。
「いつ何があるかなんて、誰にも分からないものよ」
だが、すぐにいつもの柔らかい表情に戻る。
「……と言ってもそんなことは起こらないと思うけど。エリアス、お願いしてもいい?」
「分かりました」
私は深く考えることなくそう答えた。王妃の願いを断る理由はない。
その日の夜、そのことを話すとルッツはとても驚いていた。
「親衛隊員にそんなお願いをするなんて変だね。命を狙われている覚えでもあるのかな?」
確かに心当たりがあるから頼むのが普通だろうが、もし何かあるならそれをあの場で話したはず。
「そんなことは起こらないと思うけど、と言っていた」
「ふうん。そうなんだ」
ルッツはいつもと変わらない曖昧な返事をした。
「ただ、王妃に頼ってもらえるとは嬉しいものだ。これでますますルッツが誇れる兄に」
「……何だよ、それ」
私の言葉を遮った彼の声は揺れていた。
「兄さんは俺のことをどこまで馬鹿にしたいんだよ……」
震える声でそんなことを言うルッツを、私は信じられない思いで見つめる。
「ルッツ、何を言っている? 私はお前の兄として」
「意味不明なんだよ!!」
声は怒っているのに、悲しい顔をしていた。ルッツが怒声を放つところを見るのは初めてで私は戸惑う。
「兄さんは知らないんだ! 兄さんがいたから、俺がどんなに惨めな思いをしてきたかっ!」
「ルッツ……?」
「戦闘でも勉強でも、俺はずっと兄さんと比べられてきた! 学校を首席で卒業した時だって、認められることはなかった!」
私はルッツがそんな風に思っていたという事実に愕然としていた。今まで一度もそんなことは言っていなかったから。
「違う、私は……」
「俺は今でも努力を続けている! それなのに、女遊びしている兄さんに勝てない。それどころか距離は広がるばかり。こんなのおかしいだろ!」
ルッツが私に向ける視線はとても冷ややかで、心を突き刺されるような感覚だった。
「でもいつか必ず兄さんを越える。そして俺を兄さんと比べたやつらを見返してやるんだ」
私は何も言えなかった。今の彼にかける言葉を見つけられなかったのだ。
「覚えてろ。俺はいつか兄さんを倒す。地位も名誉も愛も、すべてを奪って、惨めな思いをさせてやるから」
それを最後に、私とルッツの友情は途切れた。
「ごめんなさい、エリアス。急に呼び出したりして」
「いえ。どうしました?」
彼女の腕の中には生まれたばかりの王女が眠っている。
「あのね、エリアス。この子……アンナを、お願いしたいの」
意味が分からず私は首を傾げる。
「侍女のヴァネッサにも同じようなお願いをしたのだけど、エリアス、貴方にもお願いしておきたいの。貴方は今やこの天界では一番強いと言っても過言ではないでしょう。そんな貴方にだから頼めるのよ。もし私に何かあったら……アンナを護ってほしいの」
「そんなことあるわけがない。王妃の身に何か起こるなど、そんなことが……」
彼女はいつになく真剣な表情をしていた。
「いつ何があるかなんて、誰にも分からないものよ」
だが、すぐにいつもの柔らかい表情に戻る。
「……と言ってもそんなことは起こらないと思うけど。エリアス、お願いしてもいい?」
「分かりました」
私は深く考えることなくそう答えた。王妃の願いを断る理由はない。
その日の夜、そのことを話すとルッツはとても驚いていた。
「親衛隊員にそんなお願いをするなんて変だね。命を狙われている覚えでもあるのかな?」
確かに心当たりがあるから頼むのが普通だろうが、もし何かあるならそれをあの場で話したはず。
「そんなことは起こらないと思うけど、と言っていた」
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「ただ、王妃に頼ってもらえるとは嬉しいものだ。これでますますルッツが誇れる兄に」
「……何だよ、それ」
私の言葉を遮った彼の声は揺れていた。
「兄さんは俺のことをどこまで馬鹿にしたいんだよ……」
震える声でそんなことを言うルッツを、私は信じられない思いで見つめる。
「ルッツ、何を言っている? 私はお前の兄として」
「意味不明なんだよ!!」
声は怒っているのに、悲しい顔をしていた。ルッツが怒声を放つところを見るのは初めてで私は戸惑う。
「兄さんは知らないんだ! 兄さんがいたから、俺がどんなに惨めな思いをしてきたかっ!」
「ルッツ……?」
「戦闘でも勉強でも、俺はずっと兄さんと比べられてきた! 学校を首席で卒業した時だって、認められることはなかった!」
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ルッツが私に向ける視線はとても冷ややかで、心を突き刺されるような感覚だった。
「でもいつか必ず兄さんを越える。そして俺を兄さんと比べたやつらを見返してやるんだ」
私は何も言えなかった。今の彼にかける言葉を見つけられなかったのだ。
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それを最後に、私とルッツの友情は途切れた。
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