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前編

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「あんた、もう二度とここに来なくていいよ」

 ある晴れの日、婚約者レイビッド・カーニムからそんなことを言われた。

 彼は元々そういうところがある。
 肝心なことを急にさらりと言ってくる――そういう特徴がある。

 しかし、続く言葉にはさすがに驚かされた。

「婚約、破棄するからさ」

 ――この言葉には、さすがの私も硬直してしまった。

 何を言っているの? この人は。婚約破棄、だなんて。しかも、そんなことを急に告げてくるなんて。どうかしている? きっとどうかしているに違いないわ。だっておかしいじゃない、そんなの。

 脳内の思考だけが空回りするように巡る巡る。

「なぁ、聞いてる?」

 レイビッドは不機嫌そうな低い声で問いを投げてくる。

「……え、ええ」

 そう、実際、聞いていないわけではないのだ。

 何を言われたのか。
 それは分かっている。

 ただ、理解が追いついていないだけで……。
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