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前編
しおりを挟む私、ミレーネは、いたって普通の娘。
容姿は周囲からは良い方だと言われるけれどそれほど自覚はないし、特技があるわけでもなく、性格も並程度、良いかと問われれば「良いです!」と答えることはできそうにないくらいで。
でもそんな私にも婚約者はいた。
彼との出会いは成人式。
親同士が少しばかり知り合いだったこともあり少し話すようになって、それから付き合いが始まった。
で、婚約にまで至ったのである。
けれど――。
「ミレーネ、ちょっといいか?」
朝、まだ起きてすぐの時間に、父からそんな風に声をかけられて。
「うーん眠い……でもいいよ、何? 何かあった?」
「実は、カイルくんとのことなのだが」
ちなみにカイルというのは婚約者の名前。
「婚約、破棄するそうだ」
父は言いづらそうに、しかしはっきりと、そう告げてきた。
「え……どうして……?」
「破棄したいから、らしい。心が変わったのだそうだ」
「ええ……それが理由なの……?」
「そのようだった」
「で、でも! そんなの勝手よ!」
「そうだな、そう思う。だが、無理なんだ。こちらから拒否するのは。男側が婚約破棄したいと言ったなら女側はそれを拒否するのは難しい」
父は渋柿を食べたような顔をしつつ続ける。
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