イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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21話 いつも本気で

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「いやー。このプリン、なかなか美味しーわねー」

 第二ホールにて開催されている食事会を一人満喫しているのは、赤い髪のリンディア。

 彼女は結構大食いなようで、おかず系お菓子系問わず、色々食べている。
 周囲の人たちのことなどまったく気にせず、好きなものを食べたいだけ食べていくスタイルが、非常に彼女らしい。

 私には絶対にできないことだけに、凄いと思わざるを得ない。

「イーダ王女、これも結構美味しーわよー」

 周囲を眺めつつぼんやりしていた私に、ご機嫌なリンディアが話しかけてきた。手には小さなグラスが持たれている。

「これは?」
「ゼリーよ。色が綺麗でしょ」

 確かに、リンディアが持っているグラスにはゼリーらしきものが盛りつけられていた。私たちが暮らすこのオルマリン星のような、澄んだ青のゼリーだ。

「青いわね」
「おかしな返答ねー」
「そう?」

 その青は、晴れた空のようにも穏やかな海のようにも見える。

「そーよ。だってべつに、何色かなんて聞いていないでしょ」
「ごめんなさい……」
「あ。そーいうことじゃないのよー。ただ、ユニークだと思っただけなの」

 そんな風に、リンディアとたわいない会話をしていると、近くにいた黒スーツ姿のベルンハルトが口を挟んでくる。

「くれぐれも油断はするなよ」

 いきなりの忠告には少し戸惑ってしまった。だが、言っていること自体は間違いではない。だから私は、頷いておいた。

「いちいちうるさいわねー」

 リンディアはベルンハルトが気に食わないようだ。

「念のため、だ」
「……どーいう意味?」
「従者なら、周囲には常に目を配っておくべきだ」
「アンタに言われたくないわよ!」

 強い調子で言われたベルンハルトは、呆れたように目を細める。

「そうだろうな」
「そーよ!」

 リンディアは吐き捨てるように返した。

 やはり、この二人に平穏が訪れることはなさそうだ。

 そんなことを考えていると、小さな人影がこちらへ寄ってきた。誰かと思い、人影の方へ視線を向ける。すると、その人影は先ほど少し話したクネルのものだと、すぐに分かった。

「お待たせしてごめんなさぁーい!」

 クネルはグラスを持っている。

「ドリンク、お持ちしたわよーん!」
「あ、ありがとうございます」

 私はクネルから、茶色い液体の入ったグラスを受け取る。

「これは?」
「ブリウン茶よぉーん! アタシのお勧め!」
「お茶ですか?」
「そうそう! 飲んでみてぇ!」

 クネルはなぜか、凄く飲んでほしそうにしている。
 よく分からないが、もしかしたら、絶対に「美味しい」と言わせる自信があるのかもしれない。

 せっかく「飲んでみて」と言ってくれているのに飲まないのも何なので、取り敢えず一口だけ飲むことにした——その時。

「イーダ王女」

 ベルンハルトが、私の手からパッとグラスを奪った。

「ベルンハルト……?」
「少し毒味を」

 彼はクネルを冷ややかに一瞥し、静かな声でそう答えた。
 それに対し、クネルは憤慨する。

「ちょっとぉ! まさか、アタシが毒を盛るとでも思っているのぉん!?」

 クネルは顔中の筋肉を引きつらせながら、声を荒らげた。その様子は、直前までとは別人のようだ。

「失礼にも程があるわぁーん!」
「不快にさせたなら謝る。ただ、確認は必要だ」
「何なのよぉ! アタシがオウジョサマを毒殺しようとしている根拠があるっていうのんっ!?」
「いや、そこまでは言っていない」

 ベルンハルトはグラスを顔へ近づける。そして、液体をほんの少しだけ口に含んだ。

 その数秒後。
 何かに気がついたかのように、ぱっと目を見開く。

「他のグラスを取ってくることはできるだろうか」

 ベルンハルトは真剣な顔で、リンディアに問う。唐突なことに、彼女は戸惑った顔をした。

「何よ、いきなり」
「無理か」
「いや、だから何なの? そんな真剣な顔をして、一体どーしたのよ?」
「少し違和感がある」

 ベルンハルトの言葉に、リンディアは愕然として頬を強張らせる。

「……まさか。あり得ないわ、そんなこと」
「だが、少しおかしい」
「こーんなに人がいるのよ? そんなことをするかしら」

 リンディアはさりげなく、私をクネルから離す。

「ブリウン茶、取ってくるわー」
「みんなしてアタシを疑うっていうの!? 酷い! 酷ぉーい!!」

 そんな風に激しく騒ぐクネルを無視し、リンディアはドリンクコーナーへと向かう。その時の彼女の表情は、いつもとはまったく違い、真剣さが感じられるものだった。

 場には、私とベルンハルト、そしてクネルだけが残る。

「ちょっと、ベルンハルト。一体、何がどうなっているの」
「少しだけ待て」
「このままで大丈夫なの? 人を呼んだ方がいい?」
「問題ない」

 ベルンハルトはそう言うが、一度芽生えた不安の芽を摘み取ることは容易くない。また悲劇的なことが起きたら、と考えてしまう癖は消せないのだ。

「イーダ王女は、そこにいればそれでい——」

 目の前の彼が言いかけた時。

「くっ!」

 突如顔をしかめるベルンハルトを目にし、私はようやく、何かが起きたことを察知した。

「ベルンハルト!?」
「下がれ!」

 鋭く命じられたため、私は数歩後ろへ下がる。

 そして見てしまった。ナイフを握ったクネルの姿を。

「あらぁん。かわされちゃったわねーん」

 クネルは片手にナイフを握り、もう一方の手は頬に添えている。この状況下でまだくねくねしていられるところは、少し凄いと思ったりした。

 だが今は、呑気に感心している場合ではない。

「本性を現したか」
「うふふんっ。こうなったら、本気でいかせてもらうわよーん」

 その頃になって、周囲の人たちもやっと異変に気づいたようだ。「なになに?」などと、ざわめきが広がる。

「覚悟なさぁーい!」

 痩せた体の胸の前にナイフを構えつつ、クネルはそんなことを言い放つ。妙にテンションが高い。

「それはこちらのセリフだ」

 対するベルンハルトは、クネルを冷たく睨んでいる。棘のある睨み方だ。

「アタシが弱そうだからって、侮っていたら駄目よーん」
「侮ってなどいない」
「本気で行かせてもらうわよんっ!」

 周囲の人たちは、そそくさと離れていってしまう。誰も、クネルを止めようとはしない。人とは案外こういうものなのかもしれない、と思ったりした。
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