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28話 情緒不安定気味
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今は部屋に四人。私と父親、リンディアにベルンハルト。それだけで、他には誰もいない。先ほどの父親の抱き着きにより、気を遣わせてしまったのかもしれない。
「ところでイーダ、自室の外での暮らしにはだいぶ慣れたかぁ?」
「え、えぇ……」
そういえば、と密かに思った。
ほんの数日前まで、私はずっと自室にいた。一日のほとんどを自室の中で過ごし、誰かと関わることもせず、一人でいたのだ。
だが、今は違う。
今の私には、ベルンハルトやリンディアがいる。それに、自室の外に出て、色々なところを歩いている。
こんなにも一気に生活が変わる可能性など、考えてもみなかった。
「あまり元気のなさそうな声だなぁ」
「……命を狙われているのよ。元気いっぱいとはいかないわ」
すると、父親が叫ぶ。
「何ぃっ!?」
リンディアとベルンハルトは、思わず顔をしかめていた。二人が顔をしかめた原因は、父親の叫びだと思われる。
「まだ狙われているのかぁ!?」
「そうよ。さっきも、毒殺やら狙撃やら試みられたわ」
「うそーん!?」
父親が弾丸のように放つ尋常でないハイテンションの発言にも、今はそれほど笑えなかった。
「どうなってるんだぁ! ベルンハルト!」
突如声をかけられたベルンハルトは、目をぱちぱちさせる。
「さっきちゃんと聞いたぞぉ! イーダの従者になってくれたんじゃなかったのかぁーっ!?」
「そ、そうだ」
「なのになぜイーダが狙われるぅ!!」
父親はベルンハルトへ、重みのある視線を向けている。ねっとりじっとりとした視線だ。
「待って、父さん! ベルンハルトは悪くないのよ!」
「そうなのか? イーダ」
「えぇ、そうよ。ベルンハルトはちゃんと傍にいてくれているわ。彼は何も悪くないの」
責めるべきは、ベルンハルトではない。
「悪いのは……他人の命を狙う人たちよ」
——刹那。
急にダァンと音がした。
驚いて振り返ると、壁にもたれかかるようにして腰を下ろしかけているリンディアが視界に入る。
「リンディア!?」
名を呼ぶと、彼女は細めた目で私を見た。
水晶のような水色の瞳は、確かにこちらを向いている。私を捉えている。だが、いつもより目力がない。
「何事だ」
リンディアのすぐ隣に立っているベルンハルトが、彼女へ声をかけた。
「……べつにー」
「貧血か」
「……放っておいてちょーだい」
しゃがむような体勢をとっている時点で、「べつに」というような状態でないことは明らか。にもかかわらず、リンディアはベルンハルトにそんなことを言った。ということは、もしかしたら、ベルンハルトを心配させたくないからの発言なのかもしれない。
「リンディア、本当に平気なの?」
近寄りつつそう尋ねると、彼女は「へーきよ」と短く答えた。しかし、どうも平気そうでない。
「無理しなくていいのよ?」
「お気遣いどーも。でも、そーいうのは要らないわー」
そこへ、父親の声が飛んでくる。
「イーダの優しさを拒むだとぉっ!?」
「父さん! そういうのは止めて!」
みっともない大声を連発されると困るので、一応制止しておく。すると父親は、私の制止を聞いて口を閉ざしてくれた。彼の素直さは、こういう時には非常にありがたい。
「取り敢えず、少し休んだ方がいいわ。リンディア」
「……役立たずって、思ってる?」
リンディアの顔つきはどこか暗い。顔そのものの華やかさは健在なのだが、そこに浮かぶ表情が日頃とは異なっているのだ。
「まさか。そんなこと、思うはずがないじゃない」
彼女は私を庇ってくれたのだ。にもかかわらず役立たずなんて思うほど、私は恩知らずではない。
「……どーも」
「私のことは気にしないで。今はゆっくり怪我を治して——」
「止めてちょーだい!」
突如、声を強めるリンディア。
彼女の一声で、場が静まり返った。
「不快にさせたならごめんなさい。けど……」
「いいえ。ただ、あたしに気を遣うのは止めてちょーだい。あたしは王女様に気を遣ってもらえるよーな人間じゃないわ」
リンディアの瞳は複雑な色を湛えている。
私が知る限りの言葉では形容できないような、言葉にはならない色。それは、美しくも、どこか寂しげな色である。
「そんなことないわ。今の貴女は大切な従者だもの、心配するのは当然よ」
「当然なんかじゃないわよー」
「そうなの?」
「えぇ。あたし、親切にされると調子狂っちゃうのよねー……どーも慣れないの」
どうやらそういうことだったらしい。対応に困っている、というだけで、不快にしてしまったわけではないようだ。それならまだ良かった。
ただ、ここまでの様子から察するに、彼女が情緒不安定気味であることは確かだ。
現時点では原因は不明だが、彼女には彼女の事情があるのだろう。
「今から慣れていけばいいわ。べつに、何も急がないのだから」
「……優しーのね」
「え? 普通よ?」
彼女はどのような人生を歩んできたのだろう。ほんの少し、そんなことが気になった。
そこへ、ベルンハルトが口を挟んでくる。
「取り敢えず、明後日の休日は休息に使うべきだ」
放たれた言葉に対し、リンディアはベルンハルトをキッと睨む。それから、鋭さのある声色で「アンタは黙ってて」と返した。
二人の間に流れる空気は、とにかく冷たい。
「そのお姉ちゃんは、明後日何かあるのかぁ?」
ベルンハルトに続き、父親までもが口を挟んできた。何も言わずとも、話は聞いていたようだ。
「聞いていたの、父さん」
「そりゃあな! ……で、明後日何があるんだぁ?」
「リンディアは人に会いに行くそうよ」
すると、父親は笑顔になる。
「会いに行かず、来てもらうってのはどうだ?」
父親は提案したが、リンディアは首を左右に動かす。
「いいえ。生憎ですが、それはできません」
「……そうなのかぁ?」
リンディアもさすがに、星王に対しては丁寧な言葉を使うことがあるらしい。星王相手に生意気を言うほどの無礼者ではないようだ。
「イーダが大事にしている人のためなら、誰だって呼び出してやるぞ!」
「それは結構です」
「はっきり言われてしまったぁっ!?」
「ところでイーダ、自室の外での暮らしにはだいぶ慣れたかぁ?」
「え、えぇ……」
そういえば、と密かに思った。
ほんの数日前まで、私はずっと自室にいた。一日のほとんどを自室の中で過ごし、誰かと関わることもせず、一人でいたのだ。
だが、今は違う。
今の私には、ベルンハルトやリンディアがいる。それに、自室の外に出て、色々なところを歩いている。
こんなにも一気に生活が変わる可能性など、考えてもみなかった。
「あまり元気のなさそうな声だなぁ」
「……命を狙われているのよ。元気いっぱいとはいかないわ」
すると、父親が叫ぶ。
「何ぃっ!?」
リンディアとベルンハルトは、思わず顔をしかめていた。二人が顔をしかめた原因は、父親の叫びだと思われる。
「まだ狙われているのかぁ!?」
「そうよ。さっきも、毒殺やら狙撃やら試みられたわ」
「うそーん!?」
父親が弾丸のように放つ尋常でないハイテンションの発言にも、今はそれほど笑えなかった。
「どうなってるんだぁ! ベルンハルト!」
突如声をかけられたベルンハルトは、目をぱちぱちさせる。
「さっきちゃんと聞いたぞぉ! イーダの従者になってくれたんじゃなかったのかぁーっ!?」
「そ、そうだ」
「なのになぜイーダが狙われるぅ!!」
父親はベルンハルトへ、重みのある視線を向けている。ねっとりじっとりとした視線だ。
「待って、父さん! ベルンハルトは悪くないのよ!」
「そうなのか? イーダ」
「えぇ、そうよ。ベルンハルトはちゃんと傍にいてくれているわ。彼は何も悪くないの」
責めるべきは、ベルンハルトではない。
「悪いのは……他人の命を狙う人たちよ」
——刹那。
急にダァンと音がした。
驚いて振り返ると、壁にもたれかかるようにして腰を下ろしかけているリンディアが視界に入る。
「リンディア!?」
名を呼ぶと、彼女は細めた目で私を見た。
水晶のような水色の瞳は、確かにこちらを向いている。私を捉えている。だが、いつもより目力がない。
「何事だ」
リンディアのすぐ隣に立っているベルンハルトが、彼女へ声をかけた。
「……べつにー」
「貧血か」
「……放っておいてちょーだい」
しゃがむような体勢をとっている時点で、「べつに」というような状態でないことは明らか。にもかかわらず、リンディアはベルンハルトにそんなことを言った。ということは、もしかしたら、ベルンハルトを心配させたくないからの発言なのかもしれない。
「リンディア、本当に平気なの?」
近寄りつつそう尋ねると、彼女は「へーきよ」と短く答えた。しかし、どうも平気そうでない。
「無理しなくていいのよ?」
「お気遣いどーも。でも、そーいうのは要らないわー」
そこへ、父親の声が飛んでくる。
「イーダの優しさを拒むだとぉっ!?」
「父さん! そういうのは止めて!」
みっともない大声を連発されると困るので、一応制止しておく。すると父親は、私の制止を聞いて口を閉ざしてくれた。彼の素直さは、こういう時には非常にありがたい。
「取り敢えず、少し休んだ方がいいわ。リンディア」
「……役立たずって、思ってる?」
リンディアの顔つきはどこか暗い。顔そのものの華やかさは健在なのだが、そこに浮かぶ表情が日頃とは異なっているのだ。
「まさか。そんなこと、思うはずがないじゃない」
彼女は私を庇ってくれたのだ。にもかかわらず役立たずなんて思うほど、私は恩知らずではない。
「……どーも」
「私のことは気にしないで。今はゆっくり怪我を治して——」
「止めてちょーだい!」
突如、声を強めるリンディア。
彼女の一声で、場が静まり返った。
「不快にさせたならごめんなさい。けど……」
「いいえ。ただ、あたしに気を遣うのは止めてちょーだい。あたしは王女様に気を遣ってもらえるよーな人間じゃないわ」
リンディアの瞳は複雑な色を湛えている。
私が知る限りの言葉では形容できないような、言葉にはならない色。それは、美しくも、どこか寂しげな色である。
「そんなことないわ。今の貴女は大切な従者だもの、心配するのは当然よ」
「当然なんかじゃないわよー」
「そうなの?」
「えぇ。あたし、親切にされると調子狂っちゃうのよねー……どーも慣れないの」
どうやらそういうことだったらしい。対応に困っている、というだけで、不快にしてしまったわけではないようだ。それならまだ良かった。
ただ、ここまでの様子から察するに、彼女が情緒不安定気味であることは確かだ。
現時点では原因は不明だが、彼女には彼女の事情があるのだろう。
「今から慣れていけばいいわ。べつに、何も急がないのだから」
「……優しーのね」
「え? 普通よ?」
彼女はどのような人生を歩んできたのだろう。ほんの少し、そんなことが気になった。
そこへ、ベルンハルトが口を挟んでくる。
「取り敢えず、明後日の休日は休息に使うべきだ」
放たれた言葉に対し、リンディアはベルンハルトをキッと睨む。それから、鋭さのある声色で「アンタは黙ってて」と返した。
二人の間に流れる空気は、とにかく冷たい。
「そのお姉ちゃんは、明後日何かあるのかぁ?」
ベルンハルトに続き、父親までもが口を挟んできた。何も言わずとも、話は聞いていたようだ。
「聞いていたの、父さん」
「そりゃあな! ……で、明後日何があるんだぁ?」
「リンディアは人に会いに行くそうよ」
すると、父親は笑顔になる。
「会いに行かず、来てもらうってのはどうだ?」
父親は提案したが、リンディアは首を左右に動かす。
「いいえ。生憎ですが、それはできません」
「……そうなのかぁ?」
リンディアもさすがに、星王に対しては丁寧な言葉を使うことがあるらしい。星王相手に生意気を言うほどの無礼者ではないようだ。
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「それは結構です」
「はっきり言われてしまったぁっ!?」
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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