イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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33話 銃弾の嵐の中

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 リンディアの叫びとほぼ同時に放たれたのは、緑色の細い光。

 何がどうなった放たれた光なのか、私は暫し分からなかった。だが、アスターがトリガーを引いているようには見えない。となると、リンディアが放ったものなのだろう。

 もしかしたら、彼女が光線銃を使ったのかもしれない。
 いつも彼女が持っているある赤い拳銃が、光線を放つことのできるものだったという可能性が有力だろうか。

「まったく、いきなり他人に向かって撃つとは。危険だとは思わないのかね」

 アスターは先ほどより数歩下がった位置に立ち、顔をしかめている。

「さすがのあたしも、ふつーは撃たないわよー」
「普通は撃たないのに、師匠に向かっては撃つのかね」
「今は敵だもの。撃つのはとーぜんじゃない」

 隙間が狭く、よく見えない。
 ここから見て分かるのは、リンディアとアスターが武器を手に対峙していることだけだ。

「年寄りを敬う心くらいは忘れないでほしいのだがね!」

 直後、アスターがトリガーを引いた。

 ダダダ! と轟音が響く。
 頭蓋骨まで粉砕されてしまいそうな音に、私は思わず耳を塞いだ。凄まじい銃声には、まだ慣れない。

 リンディアは低い姿勢で銃弾を避け、鋭く発する。

「ベルンハルト!」

 彼もいるのだろうか。
 もしここへ来てくれているのだとしたら、会いたい。

 そんなことを考えていると、こちらへ向かって駆けてくるベルンハルトの姿が見えた。扉へと一直線に向かってきている。

「そう容易く連れ帰られるとは思わないでくれたまえ! ……なんて言ったらかっこいいかもしれないね」

 ベルンハルトが駆け出したことに気づいたアスターは、すぐに狙いをベルンハルトへ移す。
 目標こそ変わったが、行うこと自体は変わらない。アスターはそのまま連射を続ける。

 扉を貫通した弾丸が当たるかもしれない——そう思った私は、ほんの少し横へと移動。その数秒後、いくつかの弾丸が、扉に穴を空けた。

 銃弾が飛び交う、狭い地下室。
 もはや、私が様子を確認できるような状況ではない。

「……っ」

 私にはもう、耳を塞ぎ、部屋の隅で小さくなっていることしかできなかった。銃弾の餌食にならないためには、それしかなかったのである。

 ーー少しして、そんな私の耳に、落ち着きのある声が聞こえてくる。

「無事か、イーダ王女」

 戸惑いつつ顔を上げると、ベルンハルトの姿が見えた。白いカッターシャツに黒のズボンという質素な服装だが、この状況下においては、王子様か騎士のように感じられる。

「ベルンハルト……!」
「怪我は」
「ないわ。大丈夫よ」

 傍にしゃがみ込んでくれたベルンハルトに、私は思わず抱き着いた。

 王女が異性の従者に抱き着くなど、問題かもしれない。それに、まだ解決したわけではないので、油断している暇はない。

 しかし、彼に会えたことが嬉しくて、つい心のままに行動してしまったのだ。

「いきなりどうしたんだ」
「また会えて……良かった……!」

 アスターは私を殺す気ではないようだった。だが、解放してくれない可能性が高かったことは事実。一歩誤れば、私は一生この地下室で暮らさねばならないかもしれなかったのだ。

「僕はべつに、そのような言葉を求めてはいない」

 ベルンハルトは冷めていた。ただ、今は、そんな冷めた様子すらも愛おしい。

「ありがとう。来てくれて」
「礼は要らない。来たくて来たわけではないから」

 ……やはり冷たい。

 せっかく感動の再会を果たしたというのに、このテンション。さすがに低すぎないか、と思ってしまう。

「ひとまず出よう」
「えぇ。けど……あの銃弾の嵐の中を行くの?」

 ベルンハルト一人なら問題ないのだろう。
 しかし私は素人だ。銃弾を避け続ける自信など、欠片もない。

「それしか方法がない」
「……それは少し、怖いわ」
「外にはリンディアがいる。あの女なら上手くやるはずだ」

 アスターは多分、相手がリンディアであっても躊躇わずに撃つだろう。彼は切り替えのできる人間だから。
 けれど、リンディアがアスターを一切躊躇いなく撃てるのかは、分からない。

 もしそれができないのだとしたら、リンディアとアスターの戦いは、リンディアが圧倒的に不利だろう。

「リンディアに無理はさせられないわ」
「何を言っている? 貴女が助かるのが第一ではないのか」
「助からないより助かる方が良いことは確かよ。けれど、リンディアを危険に曝してまで……」

 私が言い終わるより早く、ベルンハルトは私の腕を掴んだ。そして、私の体を一気に引き寄せる。

 突然のことに、私は思わず放ってしまう。

「ちょ、ちょっと? ベルンハルト?」

 しかし彼は、私の言葉には答えない。そのまま私の体を抱え上げた。

 最近、こうして抱き上げられることが妙に多い気がする……。

「もう何も言わなくていい。このまま外まで連れていく」
「悪いわ、そんなの。重たいでしょう? 自分で歩——」
「いや、べつに重たくはない」

 ベルンハルトは淡々とした調子で述べると、私の体を持ち上げたまま、外へと歩みを進めていく。
 その様を目にしたアスターは、銃口をこちらへと向け——かけたが、リンディアに飛びかかられてそのまま床に倒れ込んだ。

「させないわよ!」
「まったく……少しは労ってほしいものなのだがね……」
「銃口を向けておいて、よくそんなことが言えるわねー!」

 若くないとはいえ、アスターも男性だ。それを飛びかかって押し倒すリンディアの勢いといったら、凄まじいものがある。

「ベルンハルト! 先に行ってちょーだい!」

 リンディアは、アスターを床に押さえつけたまま、顔だけをこちらへ向けて叫んだ。その言葉に対し、ベルンハルトはこくりと頷く。

「リンディア! 怪我しちゃ駄目よ!」

 私はベルンハルトに抱き抱えられたまま、リンディアに向かって述べる。

 すると彼女は、ほんの数秒だけ私へ目を向けてくれた。口角が持ち上がっていたことから察するに、「分かっている」と言いたかったのだろう。

 こうして私は、リンディアとベルンハルトの活躍により、無事地下室から脱出することができたのだった。
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