57 / 157
56話 真面目不真面目クリームブリュレ
しおりを挟む
イーダとリンディアが話をしていた頃、ベルンハルトとアスターは、案内された客室内で寛いでいた。
……いや、正しくは、アスターだけが寛いでいたのだが。
「ふむ。このクリームブリュレ、なかなか美味しい」
アスターはソファに腰掛け、持ってきてもらったクリームブリュレを食べている。
好物である甘いものを食べることができて、満足しているようだ。
一方ベルンハルトはというと、幸せそうにクリームブリュレを食べ続けているアスターを、じっと見つめている。呆れたような目つきで。
「アスター。何をしている」
「ん? クリームブリュレを食べているのだよ。君も食べるかね?」
そう答えつつ顔を持ち上げたアスターの唇には、ホイップクリームが付着していた。
だが本人は気づいていない様子だ。
「いや、いい。それより、いい年した大人が口を汚すな」
唇にホイップクリームが付着していることを欠片も気にしていないアスターに、ベルンハルトは少し苛立っているらしい。恐らくそのせいなのだろうが、ベルンハルトは、いつもより低い声を発している。
「口くらい拭け。不潔だ」
「何かついていたかね?」
「白いクリームがついている」
するとアスターは、ようやく気がついたらしく、「これは困った」などと言った。
しかし、すぐに続きを食べ始める。
恐るべきマイペースぶりに、ベルンハルトは溜め息を漏らす。もはや何も言えない、というような呆れ顔で、アスターを見ている。
「ベルンハルトくんも一口いかがかね?」
「要らない」
「そう言わず!」
アスターはほんの少しだけ声を大きくする。その手には、一口分をすくった銀のスプーンが握られていた。
「ほら、特別に、このパリパリな部分をあげよう」
「必要ない、と言ったはずだ」
「まったく……。君には、美味しいを共有したい、という感情はないのかね?」
「僕は仕事中だ。のんびりお菓子を食べるほど暇ではない」
ベルンハルトは鋭い目でアスターを睨んでいる。
「お前だって仕事中だろう。少しは緊張感を持って取り組むべきだ」
その口調は、後輩を叱る先輩のようだ。
ベルンハルトは、相手がかなり年上であっても、臆することなく物を言う才能を持っている——のかもしれない。
「君はなぜそうも……固いのかね」
「これが僕だ」
「なぜ、もっと柔軟な人間になろうとは思わないのか? 私としては、そこが不思議で仕方ないのだがね」
アスターが「理解できない」というような顔で言うと、ベルンハルトはきっぱりと返す。
「僕は僕だ。変えられない」
真っ直ぐな言葉だ。ベルンハルトが発した言葉は、時に他者とぶつかり合うかもしれないほどに、迷いのないものだった。
彼の頑固さが滲み出た発言に、アスターは頭を掻く。
「やれやれ。ただ、非常に君らしい言葉だ。そこは評価しよう」
「お前に評価されても嬉しくない」
「おっと! 厳しい発言が来た!」
「僕はお前のそういうところが大嫌いだ」
アスターがやたらと冗談めかすのに対し、ベルンハルトは真剣そのもの。
二人は正反対の性格だ。
「残念。実に、残念。クリームブリュレを食べ終えてしまった。すまないね、ベルンハルトくん。本当は君にも食べさせてあげたかったのだがね……生憎、完食してしまった」
アスターはジャケットの内ポケットからティッシュを一枚取り出した。それから、そのティッシュで口元を拭く。ゆったりとした動作だ。
「食べ終わったら、イーダ王女のところへ行くからな」
「君は少し気が早くないかね?」
「従者は主のもとにいるものだ」
「おぉ。実に真面目だね」
アスターが感心したように手を叩くと、ベルンハルトは眉間にしわを寄せる。当たり前のことをしているだけなのに「真面目」と言われたことが、少し不快だったのかもしれない。
「僕が真面目なのではない。アスター、お前が不真面目なだけだ」
「ん? そうかね」
クリームブリュレを完食し満足しているアスターは、ソファから立ち上がると、うーんと背伸びをする。
「では、行くとしようか」
「遅い」
「ベルンハルトくん、君は少し……厳しすぎやしないかね」
こうしてリラックスタイムを終えたアスターは、ベルンハルトとともに、扉へ向かって歩き出す。イーダらに合流するために。
ーーしかし。
「そうはさせへんで」
それは、先に歩いていっていたベルンハルトとの指先が、ドアノブに触れた瞬間だった。
少女のような甘い声に乗って、独特の方言が放たれたのだ。
ベルンハルトもアスターも、その声を聞いたことがあった——そう、先ほど起きた襲撃の時に聞いたのである。
「……この声」
警戒心を露わにしながらベルンハルトが呟く。
その直後、客室内に少女が現れた。
身長は低め。また、あまり凹凸のない体つきは、十四か十五くらいに見える。紺色の髪は、肩に擦れるほどの長さ、とあまり長くはない。左耳のすぐ上辺りで、乱雑に一つにまとめてあった。
「あの時の襲撃者か」
「そうやねん。あの時は遊び足りなかったから、また来てみたんよ」
少女はそう言って、口元にうっすらと笑みを浮かべる。
そして、スクール水着のような服の腰元にかけていた、刃部分が波打った形状の剣を手に取る。
「今度こそ、ちゃんと相手してな」
彼女は剣を左手で持つと、柄部分に設置されている一枚の歯車を、くるりと一周回転させた。
すると、彼女の右腕がむくむくと変形し始める。
「……何をするつもりだ」
「おや。これまた奇妙な敵が現れたものだね」
ベルンハルトはナイフを抜き、胸の前で構えている。その表情は極めて険しいものだ。
「相棒を連れてくるべきだったもしれないね、これは」
「……相棒?」
「いつもの狙撃用銃だよ」
警戒心を剥き出しにしているベルンハルトとは対照的に、アスターはどこか呑気な顔をしている。客室という限られた空間の中で敵に襲われている最中だというのに、危機感はさほど抱いていないようだ。
「それがあると役に立つのか? べつに、狙撃するわけではないだろう」
「いやいや、そういう意味ではない。ただ、相棒がいるのといないのでは、動き方が少々変わってくるのだよ」
ベルンハルトとアスターが話しているうちに、少女の右腕は原形を留めないほど変わり果てていた。
引き締まってはいるものの華奢だった腕は、今や、怪物のそれのようになっている。
小さな体に明らかに似合わない、太い腕と巨大な手。そして、手のひら部分以外すべてに、深緑の鱗が張り付いている。また、長く鋭い爪が生えている。
引っかかれたら軽傷では済まないだろう。
「今回は本気でいくで!」
……いや、正しくは、アスターだけが寛いでいたのだが。
「ふむ。このクリームブリュレ、なかなか美味しい」
アスターはソファに腰掛け、持ってきてもらったクリームブリュレを食べている。
好物である甘いものを食べることができて、満足しているようだ。
一方ベルンハルトはというと、幸せそうにクリームブリュレを食べ続けているアスターを、じっと見つめている。呆れたような目つきで。
「アスター。何をしている」
「ん? クリームブリュレを食べているのだよ。君も食べるかね?」
そう答えつつ顔を持ち上げたアスターの唇には、ホイップクリームが付着していた。
だが本人は気づいていない様子だ。
「いや、いい。それより、いい年した大人が口を汚すな」
唇にホイップクリームが付着していることを欠片も気にしていないアスターに、ベルンハルトは少し苛立っているらしい。恐らくそのせいなのだろうが、ベルンハルトは、いつもより低い声を発している。
「口くらい拭け。不潔だ」
「何かついていたかね?」
「白いクリームがついている」
するとアスターは、ようやく気がついたらしく、「これは困った」などと言った。
しかし、すぐに続きを食べ始める。
恐るべきマイペースぶりに、ベルンハルトは溜め息を漏らす。もはや何も言えない、というような呆れ顔で、アスターを見ている。
「ベルンハルトくんも一口いかがかね?」
「要らない」
「そう言わず!」
アスターはほんの少しだけ声を大きくする。その手には、一口分をすくった銀のスプーンが握られていた。
「ほら、特別に、このパリパリな部分をあげよう」
「必要ない、と言ったはずだ」
「まったく……。君には、美味しいを共有したい、という感情はないのかね?」
「僕は仕事中だ。のんびりお菓子を食べるほど暇ではない」
ベルンハルトは鋭い目でアスターを睨んでいる。
「お前だって仕事中だろう。少しは緊張感を持って取り組むべきだ」
その口調は、後輩を叱る先輩のようだ。
ベルンハルトは、相手がかなり年上であっても、臆することなく物を言う才能を持っている——のかもしれない。
「君はなぜそうも……固いのかね」
「これが僕だ」
「なぜ、もっと柔軟な人間になろうとは思わないのか? 私としては、そこが不思議で仕方ないのだがね」
アスターが「理解できない」というような顔で言うと、ベルンハルトはきっぱりと返す。
「僕は僕だ。変えられない」
真っ直ぐな言葉だ。ベルンハルトが発した言葉は、時に他者とぶつかり合うかもしれないほどに、迷いのないものだった。
彼の頑固さが滲み出た発言に、アスターは頭を掻く。
「やれやれ。ただ、非常に君らしい言葉だ。そこは評価しよう」
「お前に評価されても嬉しくない」
「おっと! 厳しい発言が来た!」
「僕はお前のそういうところが大嫌いだ」
アスターがやたらと冗談めかすのに対し、ベルンハルトは真剣そのもの。
二人は正反対の性格だ。
「残念。実に、残念。クリームブリュレを食べ終えてしまった。すまないね、ベルンハルトくん。本当は君にも食べさせてあげたかったのだがね……生憎、完食してしまった」
アスターはジャケットの内ポケットからティッシュを一枚取り出した。それから、そのティッシュで口元を拭く。ゆったりとした動作だ。
「食べ終わったら、イーダ王女のところへ行くからな」
「君は少し気が早くないかね?」
「従者は主のもとにいるものだ」
「おぉ。実に真面目だね」
アスターが感心したように手を叩くと、ベルンハルトは眉間にしわを寄せる。当たり前のことをしているだけなのに「真面目」と言われたことが、少し不快だったのかもしれない。
「僕が真面目なのではない。アスター、お前が不真面目なだけだ」
「ん? そうかね」
クリームブリュレを完食し満足しているアスターは、ソファから立ち上がると、うーんと背伸びをする。
「では、行くとしようか」
「遅い」
「ベルンハルトくん、君は少し……厳しすぎやしないかね」
こうしてリラックスタイムを終えたアスターは、ベルンハルトとともに、扉へ向かって歩き出す。イーダらに合流するために。
ーーしかし。
「そうはさせへんで」
それは、先に歩いていっていたベルンハルトとの指先が、ドアノブに触れた瞬間だった。
少女のような甘い声に乗って、独特の方言が放たれたのだ。
ベルンハルトもアスターも、その声を聞いたことがあった——そう、先ほど起きた襲撃の時に聞いたのである。
「……この声」
警戒心を露わにしながらベルンハルトが呟く。
その直後、客室内に少女が現れた。
身長は低め。また、あまり凹凸のない体つきは、十四か十五くらいに見える。紺色の髪は、肩に擦れるほどの長さ、とあまり長くはない。左耳のすぐ上辺りで、乱雑に一つにまとめてあった。
「あの時の襲撃者か」
「そうやねん。あの時は遊び足りなかったから、また来てみたんよ」
少女はそう言って、口元にうっすらと笑みを浮かべる。
そして、スクール水着のような服の腰元にかけていた、刃部分が波打った形状の剣を手に取る。
「今度こそ、ちゃんと相手してな」
彼女は剣を左手で持つと、柄部分に設置されている一枚の歯車を、くるりと一周回転させた。
すると、彼女の右腕がむくむくと変形し始める。
「……何をするつもりだ」
「おや。これまた奇妙な敵が現れたものだね」
ベルンハルトはナイフを抜き、胸の前で構えている。その表情は極めて険しいものだ。
「相棒を連れてくるべきだったもしれないね、これは」
「……相棒?」
「いつもの狙撃用銃だよ」
警戒心を剥き出しにしているベルンハルトとは対照的に、アスターはどこか呑気な顔をしている。客室という限られた空間の中で敵に襲われている最中だというのに、危機感はさほど抱いていないようだ。
「それがあると役に立つのか? べつに、狙撃するわけではないだろう」
「いやいや、そういう意味ではない。ただ、相棒がいるのといないのでは、動き方が少々変わってくるのだよ」
ベルンハルトとアスターが話しているうちに、少女の右腕は原形を留めないほど変わり果てていた。
引き締まってはいるものの華奢だった腕は、今や、怪物のそれのようになっている。
小さな体に明らかに似合わない、太い腕と巨大な手。そして、手のひら部分以外すべてに、深緑の鱗が張り付いている。また、長く鋭い爪が生えている。
引っかかれたら軽傷では済まないだろう。
「今回は本気でいくで!」
0
あなたにおすすめの小説
妻は従業員に含みません
夏菜しの
恋愛
フリードリヒは貿易から金貸しまで様々な商売を手掛ける名うての商人だ。
ある時、彼はザカリアス子爵に金を貸した。
彼の見込みでは無事に借金を回収するはずだったが、子爵が病に倒れて帰らぬ人となりその目論見は見事に外れた。
だが返せる額を厳しく見極めたため、貸付金の被害は軽微。
取りっぱぐれは気に入らないが、こんなことに気を取られているよりは、他の商売に精を出して負債を補う方が建設的だと、フリードリヒは子爵の資産分配にも行かなかった。
しばらくして彼の元に届いたのは、ほんの少しの財と元子爵令嬢。
鮮やかな緑の瞳以外、まるで凡庸な元令嬢のリューディア。彼女は使用人でも従業員でも何でもするから、ここに置いて欲しいと懇願してきた。
置いているだけでも金を喰うからと一度は突っぱねたフリードリヒだが、昨今流行の厄介な風習を思い出して、彼女に一つの提案をした。
「俺の妻にならないか」
「は?」
金を貸した商人と、借金の形に身を売った元令嬢のお話。
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】ツンな令嬢は婚約破棄され、幸せを掴む
さこの
恋愛
伯爵令嬢アイリーンは素直になれない性格だった。
姉は優しく美しく、周りから愛され、アイリーンはそんな姉を見て羨ましくも思いながらも愛されている姿を見て卑屈になる。
アイリーンには婚約者がいる。同じく伯爵家の嫡男フランク・アダムス
フランクは幼馴染で両親から言われるがままに婚約をした。
アイリーンはフランクに憧れていたが、素直になれない性格ゆえに、自分の気持ちを抑えていた。
そんなある日、友達の子爵令嬢エイプリル・デュエムにフランクを取られてしまう
エイプリルは美しい少女だった。
素直になれないアイリーンは自分を嫌い、家を出ようとする。
それを敏感に察知した兄に、叔母様の家に行くようにと言われる、自然豊かな辺境の地へと行くアイリーン…
没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。
木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。
不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。
当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。
多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。
しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。
その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。
私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。
それは、先祖が密かに残していた遺産である。
驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。
そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。
それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。
彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。
しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。
「今更、掌を返しても遅い」
それが、私の素直な気持ちだった。
※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる