イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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58話 貴女の射撃、非効率的

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 謎の爆発音から一分も経たないうちに、誰かが扉をノックしてきた。

 タイミングがタイミングだ、不審者の可能性もある。そのため、かなり警戒しながら、リンディアが扉を開ける。

「アスター!」

 どうやら、扉をノックしたのはアスターだったようだ。
 私は胸を撫で下ろす。

「何か異変はないかね?」
「異変? さっき爆発音が聞こえたくらいかしらねー。他はないわよー」
「そうか。なら良いのだがね」

 言いながら、アスターは客室内へと入ってくる。許可を得もせずに入ってくる辺り、相変わらずのマイペースさだ。

「実は先ほど、我々の部屋に少女がやって来たのだよ」
「少女って……あの時のー?」
「そう。リンディアと戦った、あの少女だよ」

 ——またしても。

 リンディアとアスターの会話に、不安が駆け巡る。

 せっかく無事逃れてここまで来たというのに、また襲われるなんて。そんなこと、少しも考えてみなかった。もっとも、よくよく考えてみれば、一旦退いた敵がまた襲ってくるということもあり得たのだが。

「まーだ追ってきてたってわけね。まったく、しつこい奴だわー」
「まさに」
「で? 彼女の相手はベルンハルトがしてるってわけ?」
「その通り」

 アスターは白髪頭を掻く動作をする。

「私は接近戦には長けていないのでね」
「逃げてこないで、ちょっとは協力してあげなさいよー」
「いや、それは無理なのだよ」

 リンディアは怪訝な顔で首を傾げる。

「イーダくんのところへ行くよう、命じられてしまったからね」
「ベルンハルトが命令したって言うのー? 怪しーわねー」

 アスターに疑いの目を向けるリンディア。

「信じてくれたまえ」
「怪しーわよー。また誰か悪い奴に雇われたんじゃないでしょーねー」
「まさか! そんなことはあり得ないよ!」

 アスターは、ははは、と呑気に笑った。

 それから数秒して、今度は真剣な顔になる。

「私は今や、身も心もイーダくんのものだからね」

 これまた奇妙な発言が飛び出してきたものだ。

「ちょ……。何言ってんのよ、アンタ。さすがにそれはキモくない?」
「ま、それは冗談だけどね」
「寒すぎる冗談は止めてちょーだい……」


 ——刹那。


「アスター邪魔!」

 リンディアが拳銃を抜いた。
 彼女はそこから、目にも留まらぬ速さで発砲する。

「どうしたの!?」
「話は待ってちょーだい!」

 数秒後、硝煙の香りが漂う中で、何かが床に落ちるのが見えた。

 いつもの見方では、はっきりとは捉えられない。しかし、目を凝らすと、それが長さ十センチほどの剣のようなものであることが分かった。いや、剣よりかは——クナイに近いだろうか。飛び道具と思われる物体である。

「……落とされて、しまいましたか」

 聞こえてきたのは、落ち着いた女性の声。

「何しに来たのかしら」
「イーダ王女の命、いただきに参りました」

 リンディアの視線の先——扉のところには、一人の女性が立っていた。

 灰色がかった水色をした髪は頭の右側で一つに束ねたサイドテール。その房の長さは、胸にかかるかかからないかくらい。髪は手入れの行き届いていて、さらりとしている。そして、真っ白な肌に、黄色みを帯びたガラス玉のような瞳。

 美しい女性だけに、敵なのが残念で仕方ない。

 女性は床を蹴り、こちらに向かってくる。ヒールのある靴なのにこれだけの勢いをつけられるとは、脚力が凄まじい。

「ご安心を。長引かせはしませんから」

 接近してくる彼女の手には、小さな武器——クナイのようなものが、何本も握られている。

「来ないで!」
「それはできません」

 ほんの数秒のうちに、女性は、二三メートルのところまで距離を縮めてきた。が、女性と私の間には、赤い拳銃を構えたリンディアがいる。

「あっさりいくと思ったらおー間違いよー」

 リンディアは拳銃の引き金を引く。

 緑色の光が放たれた。

 しかし、女性はその光をすべてかわした。それも、当たりそうだが当たらない、というところで。そんなギリギリな動きをしながらも、彼女の顔にはまだ余裕の色が浮かんでいる。

「遅いですよ。貴女の射撃は、極めて非効率的です」
「あら、言ってくれるじゃなーい」
「人生には限りがあります」

 言いながら、女性は、片手に持った四本のクナイを投げつけてくる。

「そーね!」

 リンディアは素早く拳銃を連射し、クナイを落とす。そして、唯一落とせなかった一本は足で払った。

 私はほんの一瞬安心した。

 が、ほっとしたのも束の間。次は女性本体が攻めてくる。リンディアに狙いを定める女性の手には、いつの間にか、短刀が握られている。

「ふっ!」

 女性はリンディアに向けて短刀を振る。リンディアは手に持っていた拳銃で短刀の刃を防ぐ。

「くっ……」

 急襲したにもかかわらず止められた女性は顔をしかめた——その直後。

「ほいっ!」

 ガンッ、と痛々しい音が響いた。何事かと思い、音がした方へ目を向ける。アスターが、客室内に置かれていたランプで、女性の後頭部を殴っていたのだった。

 ランプでもろに殴られた女性は、そのまま床にドサリと倒れ込む。

「女は一撃だね」

 倒れた女性を見下しながら、自慢げな顔をするアスター。

 リンディアは何事もなかったかのように「ナーイス」なんて言っている。が、私からしてみれば、ランプで人を殴るなど、驚き以外の何物でもない。しかも気絶するほど殴るなんて、信じられない光景だった。

「これでもー安心よ、王女様」
「……あっ。え、えぇ。ありがとう」

 ランプで殴るところを見てしまった衝撃でぼんやりしてしまっていたが、リンディアの言葉によって正気を取り戻した。

「もう大丈夫なの?」

 私がそう問うと、リンディアとアスターが同時に答える。

「そーね。もー大丈夫よー」
「さすがにもう動けないだろうね」

 素早く返してくれるのは嬉しい。

 しかし、やはり、アスターがランプで殴ったということに対する衝撃が消えない。


 その時。
 ガタン、と扉が勝手に開いた。
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