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68話 嘘つきは誰
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取り敢えずアスターを取り戻すことはできた。が、ここからが問題だ。
私は勝手な行動をした。
これは、父親——星王への反逆も同然。
たとえ王女であっても、無事で済むという保証はない。
「何をやっているんだ、イーダ! せっかく拘束したんだぞぉ!?」
「父さん。私、やっぱり、アスターさんの疑うことはできないわ」
「賢いイーダだろぅ!? どうして理解できないんだぁっ!!」
父親は正直者。そして、馬鹿と言っても言い過ぎでないほどの、素直な人間だ。だから彼は、シュヴァルのことを完全に信じきっている。
「アスターさんが嘘をついてまでシュヴァルを悪に仕立てあげる理由がないわ!」
「どうしてそう言えるんだっ! だったら、シュヴァルが嘘つきだと言うのかぁっ!?」
「その可能性もあるのよ!」
他人が相手なら、こうもきつく言うことはしなかっただろう。父親が相手だから、度胸のない私でもここまで言えたのだ。
「私がダンダに襲われた時、シュヴァルは、すべてが終わってから部屋に入ってきたわ! まるでタイミングを見計らっていたかのように!」
この際、怪しく思っていたことは躊躇いなく言ってやろう。
私はそう決意した。
「それはたまたまに決まっているじゃないかぁ! きっと、連絡を受けてそこへ駆けつけたんだろぅ!」
「それだけじゃないわ!」
もう引き返すことはできないが、それでも後悔はない。
「駆けつけてきた後、シュヴァルは『役立たずめ』って言ったの。あの時は私、ヘレナに対して言ったのだと思っていたわ。彼は一応否定したけれど、本当はヘレナに対しての言葉なのだと、当たり前のようにそう思っていた。けれども、今は思うの」
「……何をだぁ?」
「それはダンダへの言葉だったのかもしれないって。私を殺し損ねた彼に対し呟いた言葉だったという可能性もないわけじゃないって」
後悔しないためには、今ちゃんと話しておくしかない。
「それにね、私と父さんとベルンハルトで夕食をとった時もね」
「途中で襲撃された時のことかぁ?」
「えぇ。あの時も、シュヴァルが出ていくなり襲撃が始まったでしょう」
私の言葉に、父親は目をぱちぱちさせる。
まだ納得しきってはいないかもしれない。が、多少は心が動いてきている様子だ。
この感じならば、そのうち理解してもらえるかもしれない。
「けどそれは、偶然ってこともあるだろぅ……?」
「確かにそうね。ただ、偶然がそんなに何度も重なるとは、とても思えなくて」
父親と話しながら、リンディアやアスターを一瞥する。二人の面には戸惑いの色が浮かんでいた。
「まぁ、それはそうかもしれないけどなぁ……。だが、シュヴァルが裏切るとは、とても思えないぞぉ……」
父親は揺れている。それは間違いない。無論そう簡単に同意してはくれないだろうが、私の言葉に耳を傾けようとしてくれつつあることは確かだ。もうひと頑張り、というところか。
——そう思っていたのだが。
「星王様。このシュヴァルが裏切ることなど、あり得ません」
それまでは黙っていた本人が、唐突に口を挟んできた。
「恐らく、王女様はお疲れなのでしょう」
「イーダがおかしいってことか?」
「アスターが吹き込みでもしたのでしょう。そして、疲れていらっしゃる王女様は、それを素直にお信じになった。そういうことかと」
やはりシュヴァルは上手い。
決定的な証拠のないことを言っているという意味ではお互い様なのに、彼の言葉の方が真実らしさが感じられる。
「そうか……」
「あくまで推測ではありますが、それが有力かと」
「確かに、それもそうだな」
納得してしまった。
せっかくここまで頑張ったのに……残念だ。
私がそんな風にがっかりしていると、父親は、シュヴァルに向かって声を発した。
「シュヴァル。やはり、もう少し様子を確認することにする」
父親の発言に、シュヴァルは驚いた顔をする。
しかし、彼が顔面に驚きの色を浮かべたのはほんの数秒だけで、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。
シュヴァルは、それから、淡々とした調子で唇を動かす。
「アスターをもうしばらく泳がせておく、ということですか」
「そういうことになるな。可愛いイーダの訴えを無視するわけにもいかないからなぁ」
するとシュヴァルは冷ややかな目つきになった。妙に呑気な父親は気がついていないようだが、今のシュヴァルの目つきは、主に向けるものとは到底思えないようなものであった。
「……大事になってから騒いでも知りませんよ」
彼はそんなことをぽそりと漏らす。
自分の思い通りにならなかったのが悔しかったのだろう。
「父さん」
「何だぁ、イーダ」
「アスターさんをまだ従者として傍においておいても構わない?」
「あぁ! 可愛いイーダがそこまで言うなら、おいておいて構わないぞぉ!」
やった。良かった。
「ただし!」
「……ただし?」
「アスターが悪であったと明らかになった時には、従者としておくことは認めないからなぁ」
「分かったわ。それでいいわよ」
今はそれで十分だ。
アスターが収容所へ放り込まれずに済むなら、それだけでいい。
その後、私たち一向は、第一収容所の中を視察した。
たくさんの人。淀んだ空気。
第一収容所は、良い環境だとはとても言えないような環境であった。
ただ、それでも、かつてベルンハルトが暮らしていた場所を見ることができるのは嬉しかった。彼について、また一つ知ることができたような気がして、ワクワクするのである。
とはいえ、当のベルンハルトは、あまり楽しくなさそうだった。過去の忌まわしき記憶が蘇るから——かもしれない。
彼には少し辛い思いをさせてしまっただろうか。
そんな風に思い、微かな不安を抱きながらも、私は視察を続ける。
昨日負傷したばかり足は、幸運なことに、歩いても痛くならなかった。
私は勝手な行動をした。
これは、父親——星王への反逆も同然。
たとえ王女であっても、無事で済むという保証はない。
「何をやっているんだ、イーダ! せっかく拘束したんだぞぉ!?」
「父さん。私、やっぱり、アスターさんの疑うことはできないわ」
「賢いイーダだろぅ!? どうして理解できないんだぁっ!!」
父親は正直者。そして、馬鹿と言っても言い過ぎでないほどの、素直な人間だ。だから彼は、シュヴァルのことを完全に信じきっている。
「アスターさんが嘘をついてまでシュヴァルを悪に仕立てあげる理由がないわ!」
「どうしてそう言えるんだっ! だったら、シュヴァルが嘘つきだと言うのかぁっ!?」
「その可能性もあるのよ!」
他人が相手なら、こうもきつく言うことはしなかっただろう。父親が相手だから、度胸のない私でもここまで言えたのだ。
「私がダンダに襲われた時、シュヴァルは、すべてが終わってから部屋に入ってきたわ! まるでタイミングを見計らっていたかのように!」
この際、怪しく思っていたことは躊躇いなく言ってやろう。
私はそう決意した。
「それはたまたまに決まっているじゃないかぁ! きっと、連絡を受けてそこへ駆けつけたんだろぅ!」
「それだけじゃないわ!」
もう引き返すことはできないが、それでも後悔はない。
「駆けつけてきた後、シュヴァルは『役立たずめ』って言ったの。あの時は私、ヘレナに対して言ったのだと思っていたわ。彼は一応否定したけれど、本当はヘレナに対しての言葉なのだと、当たり前のようにそう思っていた。けれども、今は思うの」
「……何をだぁ?」
「それはダンダへの言葉だったのかもしれないって。私を殺し損ねた彼に対し呟いた言葉だったという可能性もないわけじゃないって」
後悔しないためには、今ちゃんと話しておくしかない。
「それにね、私と父さんとベルンハルトで夕食をとった時もね」
「途中で襲撃された時のことかぁ?」
「えぇ。あの時も、シュヴァルが出ていくなり襲撃が始まったでしょう」
私の言葉に、父親は目をぱちぱちさせる。
まだ納得しきってはいないかもしれない。が、多少は心が動いてきている様子だ。
この感じならば、そのうち理解してもらえるかもしれない。
「けどそれは、偶然ってこともあるだろぅ……?」
「確かにそうね。ただ、偶然がそんなに何度も重なるとは、とても思えなくて」
父親と話しながら、リンディアやアスターを一瞥する。二人の面には戸惑いの色が浮かんでいた。
「まぁ、それはそうかもしれないけどなぁ……。だが、シュヴァルが裏切るとは、とても思えないぞぉ……」
父親は揺れている。それは間違いない。無論そう簡単に同意してはくれないだろうが、私の言葉に耳を傾けようとしてくれつつあることは確かだ。もうひと頑張り、というところか。
——そう思っていたのだが。
「星王様。このシュヴァルが裏切ることなど、あり得ません」
それまでは黙っていた本人が、唐突に口を挟んできた。
「恐らく、王女様はお疲れなのでしょう」
「イーダがおかしいってことか?」
「アスターが吹き込みでもしたのでしょう。そして、疲れていらっしゃる王女様は、それを素直にお信じになった。そういうことかと」
やはりシュヴァルは上手い。
決定的な証拠のないことを言っているという意味ではお互い様なのに、彼の言葉の方が真実らしさが感じられる。
「そうか……」
「あくまで推測ではありますが、それが有力かと」
「確かに、それもそうだな」
納得してしまった。
せっかくここまで頑張ったのに……残念だ。
私がそんな風にがっかりしていると、父親は、シュヴァルに向かって声を発した。
「シュヴァル。やはり、もう少し様子を確認することにする」
父親の発言に、シュヴァルは驚いた顔をする。
しかし、彼が顔面に驚きの色を浮かべたのはほんの数秒だけで、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。
シュヴァルは、それから、淡々とした調子で唇を動かす。
「アスターをもうしばらく泳がせておく、ということですか」
「そういうことになるな。可愛いイーダの訴えを無視するわけにもいかないからなぁ」
するとシュヴァルは冷ややかな目つきになった。妙に呑気な父親は気がついていないようだが、今のシュヴァルの目つきは、主に向けるものとは到底思えないようなものであった。
「……大事になってから騒いでも知りませんよ」
彼はそんなことをぽそりと漏らす。
自分の思い通りにならなかったのが悔しかったのだろう。
「父さん」
「何だぁ、イーダ」
「アスターさんをまだ従者として傍においておいても構わない?」
「あぁ! 可愛いイーダがそこまで言うなら、おいておいて構わないぞぉ!」
やった。良かった。
「ただし!」
「……ただし?」
「アスターが悪であったと明らかになった時には、従者としておくことは認めないからなぁ」
「分かったわ。それでいいわよ」
今はそれで十分だ。
アスターが収容所へ放り込まれずに済むなら、それだけでいい。
その後、私たち一向は、第一収容所の中を視察した。
たくさんの人。淀んだ空気。
第一収容所は、良い環境だとはとても言えないような環境であった。
ただ、それでも、かつてベルンハルトが暮らしていた場所を見ることができるのは嬉しかった。彼について、また一つ知ることができたような気がして、ワクワクするのである。
とはいえ、当のベルンハルトは、あまり楽しくなさそうだった。過去の忌まわしき記憶が蘇るから——かもしれない。
彼には少し辛い思いをさせてしまっただろうか。
そんな風に思い、微かな不安を抱きながらも、私は視察を続ける。
昨日負傷したばかり足は、幸運なことに、歩いても痛くならなかった。
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