イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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102話 父さんと

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 警備の者が開けてくれた扉を通過し、星王の間へ入る。私が部屋へ完全に入りきると、扉はゆっくりと閉まった。恐らく、警備の者が閉めてくれたのだろう。意外と気が利く人だったようだ。

「父さん! 来たわよ!」

 いきなりやって来て、しかも断りなく入ったのだから、驚かせてしまうかもしれない。一瞬そう思いはしたが、「父さんなら怒りはしないだろう」と考え、迷いなく呼ぶことに決めた。

「父さーん! いる?」

 しかし、すぐには返事がなかった。

 星王の間は、しん、としている。人の気配がない。

 この感じだと、取り敢えず、シュヴァルはいないだろう。そこは幸運だ。彼がいない時の方が話しやすい。

 だが……父親もいないとなると、出直しになってしまう。
 そうなると、厄介だ。

 ただ、それはないはず。

 扉の前に待機していた警備の者は「いらっしゃいますよ」と言っていたのだから。

 眠りでもしているの?

 そんなことを考えつつ、星王の間の奥へと進んでいく。

 そして、ベッドの辺りをこっそり覗いてみる。
 しかし、そこにも父親の姿はなかった。

「何してるんだぁ!!」
「ひぇっ!?」

 背後から叫ばれ、私は思わず情けない声を漏らしてしまった。
 ただ、背後で叫んだのが父親であるということは、声で既に分かっている。だから私は、躊躇うことなく振り向いた。

「……いきなり叫ばないでもらえるかしら」

 背後にいたのは、やはり父親。
 予想通りの展開だ。

「おぅ!? イーダだったのかぁ!!」
「そうよ」

 すると彼は、両の足を急にぴっちりと閉じ、もじもじし始める。

「父さんのベッドを漁るなんてぇ……。イーダはやっぱり、父さんのことが大好きだなぁ……」
「は!?」
「もしかして、父さんの取って置きを探しに来たのかぁ? 残念だけどなぁ、危ない本はベッドには隠していないぞぅ」
「ちょっと、そういう話は止めて!」

 そんなことを話しに来たわけではないので、一応制止しておいた。

 ……まったく。

 そもそも、娘に対して話すようなことではないだろう。危ない本、なんて発言は慎んでいただきたい。

「私はそういう話をしに来たわけじゃないの」
「そうなのかぁ?」

 ひと呼吸空けて、彼は続ける。

「なら、何の話をしに来たんだよぅ?」

 父親は軽い調子で言葉を発している。

 彼にとって私と話すことは、冗談を言うような軽い感覚なのかもしれない。

 けれど、今はそういった空気であってはならない。
 私が今から話そうとしているのは、とても真剣なこと。私たちのこれからに関わること、と言っても過言ではないようなことなのだから。

「前に父さんが紹介してくれた侍女——フィリーナについて、聞かせてほしいの」

 意識的に真面目な顔を作り、私は述べた。
 すると父親は、ほんの数秒深く考えるような顔をする。そして、その後、彼は口を開き提案してくる。

「シュヴァルも呼ばないかぁ?」
「彼は必要ないわ」

 即座に返した。

 せっかくシュヴァルのいないタイミングでここへ来ることができたのだ、この機を逃してたまるものか。

「二人だけで話がしたいの」
「可愛いイーダがそこまで言うのなら……いいぞぅ! 二人にしよう二人にしよう!!」

 これまで何度もしくじってきた。せっかくのチャンスを台無しにするようなことを、何度も繰り返してしまってきた。だから、もうしくじるわけにはいかない。

 私のこれは任務ではない。だから、しくじったことを責める者はいないだろう。

 けれど、それに甘えてはいられない。

 やると言ったことは必ずやり遂げる。それは最低限のこと。
 最低限のことすらできず、何が王女だというのか。

 こんな小さなことでさえ繰り返ししくじってばかりいるようでは、星王となりこのオルマリンを治めるなど、夢のまた夢だ。


「フィリーナは父さんの知り合いなの?」

 話ができる状態が整ってから、私はそんな問いを放った。

「いやぁ、それは違うぞぅ」
「なら、なぜ推薦したの?」
「それは……いや。たいした理由はない」
「隠さず答えて」

 星王という地位にある父親に対して心置きなく何でも尋ねられるのは、王女の特権だ。
 父娘だからこそ聞けること、という範囲も、結構広い。

「あの娘を薦めたのは、そう……シュヴァルが連れてきたから、だったかなぁ」
「それは事実なのね」
「そう! 確か、そうだったはずぅ!」

 やはりシュヴァル絡みだったようだ。
 それなら、フィリーナが襲撃者側と繋がりを持っていたとしても不思議ではない。

「シュヴァルから紹介された彼女を、父さんが私へ紹介した。そういうことなのね?」

 私は、父親を真っ直ぐに見つめて、そう確認した。
 その確認に対し、彼はこくりと頷く。

「そうだぞぉ」
「父さんが聞いているかどうか知らないけれど、あの娘、襲撃者と繋がっていたのよ」

 すると彼は、その目を大きく見開く。

「そうなのかぁッ!?」

 裂けそうなほどに開いた瞼、今にも飛び出しそうな目、外れているのかと不安になるほど大きく下へ下がっている顎。

 今の父親の顔は、とにかく凄い状態だ。

「嘘ぅッ!?」
「……聞いていなかったの?」
「襲撃のことは聞いていたぁ! 刺客が数名捕らえられたこともぉ! が、あの娘のことは知らなかったぁーっ!」

 父親はかなり驚いている様子だった。
 これほど驚いているということは、「実は父親も私を狙っていた」という可能性は低いと見て構わないだろう。

 もっとも、驚愕している演技をしているという可能性もゼロではないのだけれど。

 ただ、私は思うのだ。
 父親は演技できるような器用な人間ではない、と。

「それで、その娘は今、どこにいるんだぁ!?」
「行方不明よ。どこかに隠れているんじゃないかしら。今はベルンハルトが探しているわ」
「ベルンハルトがぁ!? あいつ、イーダの従者にもかかわらず、そんな関係ないことをしてるのかぁ!!」

 いや、そうでなく。

 父親はいちいち騒がしい。だから、こうやって話すのは、正直言うと面倒臭い。重要な話でなかったなら、さっさと退散しているところだ。

「父さん、怒るのはそこじゃないのよ」
「え! まぁ、確かにぃ……そうかぁ」

 今回は分かってくれたようだ。

「あのね、父さん」

 私は、シュヴァルのことについて、もう一度話してみようと思った。

 あの時は上手くいかなかったけれど、今なら少しは聞いてくれるかもしれない。
 そんな風に考えたからである。

「シュヴァルのことなんだけど」
「イーダ?」
「やっぱり……ちゃんと調査してみた方が良いと思うわ」

 上手く伝わる保証はない。

 でも、それでも、挑戦は必要だ。
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