イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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116話 それぞれの方法で

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「僕はイーダ王女に仕えるという道を選んだ。後悔していないと思ってはいたが……それでも、どうしても引っ掛かりが消えない」

 心の内を話すベルンハルトの表情は、明るくはなかった。

「本当は、オルマリンではなくネージアの味方をして生きる方が、ずっと良かったのかもしれないと……たまに思うことがある」

 それに対しアスターは言う。

「その方が楽だから、かね」

 アスターの声は、それまでとはまったく違った。直前までの穏やかさはどこへやら、今の彼の声は刃のような鋭さを帯びている。

「君がそうしたいのなら、そうすればいい。義務なんてないのだから」

 そう言ってから、アスターは扉に向かって歩き出す。
 アスターが移動し始めたことに気づいたベルンハルトは、その背に向かって叫ぶ。

「アスター! どこへ行くんだ!」

 しかし、アスターは振り向かない。

「どこへ」
「……迎えに行く。それだけだよ」
「イーダ王女たちのところへ行くつもりか? どこへ行ったかも分からないのに?」

 ベルンハルトはアスターに歩み寄っていく。そして腕を掴もうと伸ばした手を——アスターは強く払った。
 ぱぁん、と乾いた音が響く。

「……っ!?」
「君は来なくていい」

 アスターがベルンハルトに向けた視線は、非常に鋭いものだった。

「僕も行く!」
「迷っているのならば、行かない方がいい。……私はそう思うのだがね」

 何か言いたげなベルンハルトも、人を寄せ付けないような目をしているアスターも、暫し何も発さなかった。室内は葬儀中のような静けさだ。

 それからだいぶ経過して、先に沈黙を破ったのはベルンハルト。

「イーダ王女がどこへ連れていかれたのか、分かるのか」
「あるよ。心当たりは、だがね」
「ならはっきりと言え!」
「イーダくんに仕えることを後悔しているような者に、情報を教える気はないのだがね」

 アスターはいつになく冷ややかな目をしている。

「一人で行くつもりなのか」
「……そうだ、と言ったら?」
「戦えるような状態でないことは分かっているんだろう、アスター」

 ベルンハルトがそう言うと、アスターは再び歩き出してしまう。

「待て!」

 歩き出した彼の背に向かって、ベルンハルトは叫ぶ。

 しかし、アスターがそれに返事をすることはなく、彼はそのまま出ていってしまった。

 ベルンハルトは、正気を失った星王以外に誰もいない部屋に取り残され、俯きつつ拳を握る。

 一人俯く彼の顔に浮かぶのは、複雑な表情。
 既存の言葉では言い表せないような、繊細な色。

 ——だが、それを誰かが目にすることはなかった。


 一方、アスターはというと。

「はぁ……。つい出てきてしまった」

 らしくなく部屋を飛び出してしまった彼は、ベルンハルトに対して冷たい態度を取ったことを少々後悔していた。

 彼は一人歩く。
 相棒とも言える狙撃用銃を取りに、自室へ向かっているのである。

「一人で、は、さすがに無茶だったかね……」

 自室へ着くと、その中に置いてある相棒を担ぎ上げる。

「そういえば、禁止されていたのだったな」

 相棒を担ぎ上げてから、アスターは小さく呟いた。以前イーダに言われたことを、今になって思い出したのだろう。

 けれど彼は、相棒を置きはしなかった。
 相棒の狙撃用銃を持ち、アスターは自室を出る。

「あの弾……まだ使えるのか謎でしかない」

 その後、アスターは建物を出た。

「さて……どこへ行こうかね」

 心当たりなんてなかったのだ。
 イーダが連れていかれた場所、なんて分かりっこない。

 それでも、今さら戻ることなんてできない。アスターの後ろに道はなかった。ただ前に進むしかない。例え何も分からずとも、今の彼にはそれ以外の道は選べなかったのだ。

 相棒を片腕で抱えたアスターは、おぼつかない足取りで街を歩く。

 この前の戦いで負った傷は回復しきっていない。だから、歩くことさえ十分にはできないような状態で。けれど、もはや引き返すことはできないから、彼は歩いていく。足を動かす。

 憂鬱な顔で街を歩くアスターは、かつて天才とも言われた狙撃手と同一人物とはとても思えない。

 今や彼は、浮かない顔をした一人の初老にすぎないのだ。


 アスターが街を歩いていた頃、ベルンハルトはというと、カッタッタのもとを訪ねていた。

「突然訪ねてすまない」
「気にすんな! 俺らはもう、友だもんな!」
「いや、友のつもりはないが」
「ガーン!!」

 カッタッタは相変わらず陽気だ。ベルンハルトの心がどんな状況であるかも知らず、元気に騒いでいる。

「一つ頼みたいことがある」

 そんな呑気なカッタッタに対し、ベルンハルトは暗い顔で言う。

「何だ何だ? もちろん協力するっ!」
「シュヴァルの仲間と思われる人物に連れていかれたイーダ王女を探してほしい」
「えっ」
「これが頼みだ」

 ベルンハルトの言葉に、カッタッタは戸惑った顔をする。

「ちょ、あの、えっと……どういう話なんだ? それは」
「なるべく早く、イーダ王女のもとへ行きたい。捜索だけでいい、それ以上は求めない」

 言いながら、ベルンハルトは頭を下げた。

「え、ちょ……何? 何?」

 いきなり頭を下げられたカッタッタは、混乱したように漏らす。

「それは、王女さんが拐われたってこと……だよな? でも、俺らに情報は来ていない。一体どうなってんだ?」
「情報はシュヴァルが止めたのかもしれない。僕にはよく分からないが……」

 その時、カッタッタは急に明るい声を出した。

「なるほどな! 理解したっ!」

 今このタイミングでそれ? と言いたくなるくらいの明るい声。
 これには、ベルンハルトもさすがに驚いていた。

「困った時はお互い様だからな!」
「任せていいか」
「もっちろん! 前はこっちが世話になったからなー。お返しと言ってはなんだが、今度は俺が助ける番だ!」
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