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131話 弾丸の応酬
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放たれる弾丸。
ベルンハルトはそれを、ナイフで弾いた。
こんなことができるのか、と、私は内心感心する。
だって、拳銃から放たれた弾丸なんて、目ではとても追えないものだもの。それをナイフみたいな細いもので弾き返すなんて、普通無理があるわ。
「我が野望の存在を知る者など、この世には必要ないのです。なので、ここで消えていただきます」
淡々と述べるシュヴァル。
彼はまだ、冷静さを保っている。
「イーダ王女」
「え?」
緊迫した空気の中、ベルンハルトが唐突に声をかけてきた。私は戸惑いつつも、彼の方へと目をやる。
「殺害か生け捕りか、どっちだ」
「え? あの……」
「シュヴァルをどうするのか、ということを聞いている」
そんなこと、いきなり聞かれても。
シュヴァルをどうすべきか、というのは重大な決断だ。聞かれてパッと答えられるような、簡単なことではない。
「……生け捕りじゃない?」
取り敢えず、そう答えておく。
殺害はさすがにまずいだろう、と思ったからである。
「そうか。分かった」
「何を仕掛けてくるか分からないわ。無理しちゃ駄目よ」
ベルンハルトは駆け出す。シュヴァルにかなり接近したところで大きく一歩を踏み出し、彼の背後へと回り込む。
ほんの数秒反応が遅れたシュヴァルの背に、ベルンハルトは蹴りを加える。
「野蛮人め……!」
「何とでも言え」
シュヴァルはベルンハルトを、鬼のような形相で睨む。
しかし、その程度で怯むベルンハルトではない。
恐ろしいくらいの気迫で睨まれても、ベルンハルトの表情はまったく変化していなかった。
ベルンハルトはさらに蹴りを繰り出す。
しかし、今度は背後からではなかったため、シュヴァルは腕で防いだ。
シュヴァルは父親の側近。それゆえ、戦闘能力が高いというイメージはなかった。が、今の動きを見ると、シュヴァルが弱くはないということはまる分かりである。少なくとも素人ではなさそうだ。
余裕を感じさせる、悪さのある笑みを浮かべるシュヴァル。
「そんなことで、このシュヴァルを倒せるとでも?」
シュヴァルは恐らく、わざと刺激するようなことを言っているのだろう。
だが、ベルンハルトは顔色を変えない。
それを見て、私は安堵した。冷静さを保てているようだと分かったからである。
一つ一つの発言に過敏に反応していると、その隙をつかれてうっかりやられかねない。もちろん戦闘能力そのものも関係ないことはないが、冷静さを保つこともまた、やられにくくなる方法の一つだろう。
「そんな考えは甘いのだということを、教えて差し上げましょう」
シュヴァルはまだ余裕のある表情。そんな彼に、ベルンハルトは急接近する。そして繰り出される、遠心力を加えた横からの蹴り。ベルンハルトが放ったその蹴りは、決まったように見えた。が、シュヴァルは上手くかわしていて。蹴りをかわしたシュヴァルは、握っている拳銃の銃口を、ベルンハルトへと向ける。
そして響く、乾いた銃声。
私は思わず目を閉じる。
音が宙に溶けてから五秒ほどが経ち、恐る恐る目を開けると、銃弾が壁に傷をつくっているのが見えた。
ベルンハルトには当たらなかったようだ。
——刹那。
視界に火花が散る。
火花が散ったのは、ベルンハルトがいるのとは逆の方向。
ベルンハルトがやったわけではなさそうだ。
「く!」
シュヴァルの顔が引きつる。
「ははは。私のことを忘れていたかね?」
「アスター……!」
「甘いものがあればもっと元気になれるのだが、まぁ、少し休憩するだけでも復活できるのだよ」
ベルンハルトに気を取られ、彼らの存在をつい忘れてしまっていた。
「うーむ……六十五点といったところかな! しかし、掠り傷しかつけられないとは情けない」
「ホンット情けないわねー」
「リンディア! それは酷い!」
「なーによ。事実じゃなーい」
アスターは大型の銃器を、リンディアは赤い拳銃を、それぞれ構えていた。二つの銃口が捉えているのはシュヴァルだ。
「……アスターはともかく、リンディア。一体どうなっているのです?」
「あたし? 最期に言ーたいことでもあるのかしらー? 遺言なら聞いてあげてもいーわよー」
緊迫した状況下にありながら、冗談めかすリンディア。
「そうではありません! 父親に銃口を向けるとはどういうつもりなのか、聞いているのです!」
真面目さのない発言をするリンディアに苛立ったのか、シュヴァルは口調を強める。それに対しリンディアは、一瞬目を細めたが、すぐに返す。
「……今さら父親ぶってんじゃないわよー」
彼女らしくない、静かな声色だった。
「何を言うのです! 親に孝行するのは子の努めでしょう。馬鹿な真似は止めなさい!」
「……は? 馬鹿はそっちよ! アンタは父親らしーことなんて、何一つとしてしてないじゃない!!」
シュヴァルが口調を強めたからだろう、リンディアも鋭く言い返した。
刺々しい空気が漂う。
「落ち着きたまえ、リンディア」
「は!? ジジイは黙ってなさいよ!!」
「怒らされていては、思うつぼだよ?」
「なーに善人ぶってんのよ。怒らずにいられるわけがないじゃない!」
落ち着かせようとするアスターだが、リンディアは反発する。
「普通は怒るでしょー!?」
「な。そうなのかね? しかし、シュヴァルの思い通りになるというのは、悔しくないかな?」
アスターの瞳は、リンディアの整った顔をじっと捉え続けている。
「……悔しーわよ」
「だろう? なら、相手することなどないのだよ」
「けどね! 黙ってるってのは、もっと悔しーの!」
吐き捨てるように言い、リンディアは引き金を引いた。
緑色の光が、シュヴァルに向かって飛んでいく。
——父親に向かって引き金を引くとは、どのような心境だろうか。
「ちっ!」
シュヴァルは舌打ちをしつつ、緑に輝く光の弾をかわす。
そして彼は反撃に回る。拳銃の引き金を引くと、弾丸が飛び出す。
——タァン!
シュヴァルが放った弾丸は、リンディアの手元に見事に命中。赤い拳銃がリンディアの手から離れる。
「仕方ありませんね」
さらに、いくつかの弾丸がリンディアに向かっていく。
そんなことはないと思いたかったのだが——シュヴァルは本気でリンディアを仕留めるつもりのようだ。
「親孝行もできぬ馬鹿娘は、消えなさい!」
リンディアは動けない。
ただ、目を大きく開くだけ。
「逃げて、リンディ——」
私は言いかけ、途中で言葉を止めた。
止めざるを得なかったのだ。
アスターが、リンディアを庇ったから。
ベルンハルトはそれを、ナイフで弾いた。
こんなことができるのか、と、私は内心感心する。
だって、拳銃から放たれた弾丸なんて、目ではとても追えないものだもの。それをナイフみたいな細いもので弾き返すなんて、普通無理があるわ。
「我が野望の存在を知る者など、この世には必要ないのです。なので、ここで消えていただきます」
淡々と述べるシュヴァル。
彼はまだ、冷静さを保っている。
「イーダ王女」
「え?」
緊迫した空気の中、ベルンハルトが唐突に声をかけてきた。私は戸惑いつつも、彼の方へと目をやる。
「殺害か生け捕りか、どっちだ」
「え? あの……」
「シュヴァルをどうするのか、ということを聞いている」
そんなこと、いきなり聞かれても。
シュヴァルをどうすべきか、というのは重大な決断だ。聞かれてパッと答えられるような、簡単なことではない。
「……生け捕りじゃない?」
取り敢えず、そう答えておく。
殺害はさすがにまずいだろう、と思ったからである。
「そうか。分かった」
「何を仕掛けてくるか分からないわ。無理しちゃ駄目よ」
ベルンハルトは駆け出す。シュヴァルにかなり接近したところで大きく一歩を踏み出し、彼の背後へと回り込む。
ほんの数秒反応が遅れたシュヴァルの背に、ベルンハルトは蹴りを加える。
「野蛮人め……!」
「何とでも言え」
シュヴァルはベルンハルトを、鬼のような形相で睨む。
しかし、その程度で怯むベルンハルトではない。
恐ろしいくらいの気迫で睨まれても、ベルンハルトの表情はまったく変化していなかった。
ベルンハルトはさらに蹴りを繰り出す。
しかし、今度は背後からではなかったため、シュヴァルは腕で防いだ。
シュヴァルは父親の側近。それゆえ、戦闘能力が高いというイメージはなかった。が、今の動きを見ると、シュヴァルが弱くはないということはまる分かりである。少なくとも素人ではなさそうだ。
余裕を感じさせる、悪さのある笑みを浮かべるシュヴァル。
「そんなことで、このシュヴァルを倒せるとでも?」
シュヴァルは恐らく、わざと刺激するようなことを言っているのだろう。
だが、ベルンハルトは顔色を変えない。
それを見て、私は安堵した。冷静さを保てているようだと分かったからである。
一つ一つの発言に過敏に反応していると、その隙をつかれてうっかりやられかねない。もちろん戦闘能力そのものも関係ないことはないが、冷静さを保つこともまた、やられにくくなる方法の一つだろう。
「そんな考えは甘いのだということを、教えて差し上げましょう」
シュヴァルはまだ余裕のある表情。そんな彼に、ベルンハルトは急接近する。そして繰り出される、遠心力を加えた横からの蹴り。ベルンハルトが放ったその蹴りは、決まったように見えた。が、シュヴァルは上手くかわしていて。蹴りをかわしたシュヴァルは、握っている拳銃の銃口を、ベルンハルトへと向ける。
そして響く、乾いた銃声。
私は思わず目を閉じる。
音が宙に溶けてから五秒ほどが経ち、恐る恐る目を開けると、銃弾が壁に傷をつくっているのが見えた。
ベルンハルトには当たらなかったようだ。
——刹那。
視界に火花が散る。
火花が散ったのは、ベルンハルトがいるのとは逆の方向。
ベルンハルトがやったわけではなさそうだ。
「く!」
シュヴァルの顔が引きつる。
「ははは。私のことを忘れていたかね?」
「アスター……!」
「甘いものがあればもっと元気になれるのだが、まぁ、少し休憩するだけでも復活できるのだよ」
ベルンハルトに気を取られ、彼らの存在をつい忘れてしまっていた。
「うーむ……六十五点といったところかな! しかし、掠り傷しかつけられないとは情けない」
「ホンット情けないわねー」
「リンディア! それは酷い!」
「なーによ。事実じゃなーい」
アスターは大型の銃器を、リンディアは赤い拳銃を、それぞれ構えていた。二つの銃口が捉えているのはシュヴァルだ。
「……アスターはともかく、リンディア。一体どうなっているのです?」
「あたし? 最期に言ーたいことでもあるのかしらー? 遺言なら聞いてあげてもいーわよー」
緊迫した状況下にありながら、冗談めかすリンディア。
「そうではありません! 父親に銃口を向けるとはどういうつもりなのか、聞いているのです!」
真面目さのない発言をするリンディアに苛立ったのか、シュヴァルは口調を強める。それに対しリンディアは、一瞬目を細めたが、すぐに返す。
「……今さら父親ぶってんじゃないわよー」
彼女らしくない、静かな声色だった。
「何を言うのです! 親に孝行するのは子の努めでしょう。馬鹿な真似は止めなさい!」
「……は? 馬鹿はそっちよ! アンタは父親らしーことなんて、何一つとしてしてないじゃない!!」
シュヴァルが口調を強めたからだろう、リンディアも鋭く言い返した。
刺々しい空気が漂う。
「落ち着きたまえ、リンディア」
「は!? ジジイは黙ってなさいよ!!」
「怒らされていては、思うつぼだよ?」
「なーに善人ぶってんのよ。怒らずにいられるわけがないじゃない!」
落ち着かせようとするアスターだが、リンディアは反発する。
「普通は怒るでしょー!?」
「な。そうなのかね? しかし、シュヴァルの思い通りになるというのは、悔しくないかな?」
アスターの瞳は、リンディアの整った顔をじっと捉え続けている。
「……悔しーわよ」
「だろう? なら、相手することなどないのだよ」
「けどね! 黙ってるってのは、もっと悔しーの!」
吐き捨てるように言い、リンディアは引き金を引いた。
緑色の光が、シュヴァルに向かって飛んでいく。
——父親に向かって引き金を引くとは、どのような心境だろうか。
「ちっ!」
シュヴァルは舌打ちをしつつ、緑に輝く光の弾をかわす。
そして彼は反撃に回る。拳銃の引き金を引くと、弾丸が飛び出す。
——タァン!
シュヴァルが放った弾丸は、リンディアの手元に見事に命中。赤い拳銃がリンディアの手から離れる。
「仕方ありませんね」
さらに、いくつかの弾丸がリンディアに向かっていく。
そんなことはないと思いたかったのだが——シュヴァルは本気でリンディアを仕留めるつもりのようだ。
「親孝行もできぬ馬鹿娘は、消えなさい!」
リンディアは動けない。
ただ、目を大きく開くだけ。
「逃げて、リンディ——」
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