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133話 何だこの沈黙
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カッタッタのいきなりの登場。そのあまりの唐突さに、私は言葉を失った。
だって、こんな展開はまったく予想していなかったんだもの。
そもそも、カッタッタのことなんて顔を見るまですっかり忘れていた。それに、顔を見て名を導き出せたことさえ、奇跡なのだ。
「ぅおーい!? 何だこの沈黙ッ!!」
彼の登場に言葉を失ったのは、私だけではない。シュヴァルを床に押さえ込んでいるベルンハルトも、私と同じように、言葉を失っていた。
「友が来たのにノーコメントとは! ベルンハルト! 何だそれは!」
「……友ではない」
「ガアァァーン」
ベルンハルトがようやく発した第一声に、カッタッタは凄まじい勢いで肩を落とす。
「うそー……それは酷すぎだろー……せっかく助けに来たのによー……それなのに友じゃないとかよー……」
カッタッタは、何やら、ぶつくさ漏らしている。ベルンハルトの発言がかなりショックだったようだ。
「って、そうじゃなかった!」
独り言を言い終えると、カッタッタは、ハッと目を開いた。
「ベルンハルト! 今行くからな!」
シュヴァルを押さえ込むベルンハルトのもとへと駆け寄っていくカッタッタ。
「大丈夫かっ!」
「……あぁ、問題ない」
カッタッタの目には、善意という名の光が宿っていた。彼に悪意がないということは明らかだ。
「他にも何人か来てるからな!」
「そうなのか」
ベルンハルトはシュヴァルの四肢を固く締めつつ話している。
「星王様の命とカッタッタの優しさが合わさったんだ!」
緊迫した状況にあるはずなのに、カッタッタの話し方はどことなく呑気。そこが彼の良いところでもあるのかもしれないが、それにしても、少々場に不釣り合いである。
「……はぁ」
「溜め息とか止めてくれよ!」
「すまない」
「な、素直に謝っただとッ!?」
カッタッタは謎だ。真面目なのかふざけているのか、まったく掴めない。
「そういう冗談はいい。それより——拘束を手伝ってくれ」
「拘束? されてたまるものですか!」
ベルンハルトの発言に対し抗いの声をあげるのは、シュヴァル。
今や彼は、ベルンハルトから逃れようと必死だ。
「カッタッタ、拘束具か何かは?」
「要るのか!?」
「そうだな。ある方が確実だ」
いや、なぜ手ぶらで来たのか。
「分かった! 少し待っていてくれ。外の奴らを呼んでくる!」
カッタッタは部屋から出ていった。
部屋から騒がしさが消える。
「大丈夫なの? ベルンハルト」
静けさが戻ってきてから、私は、ベルンハルトに話しかけてみた。
すると彼は、落ち着きのある声色で返してくる。
「問題ない。イーダ王女はそこにいろ」
「分かったわ」
ベルンハルトは冷静だ。
彼の年齢からすれば信じられないくらいの落ち着きである。
「離しなさい、野蛮人!」
「それはできない」
「くっ……こんなところで終わるわけにはいきません……!」
シュヴァルは顔をしかめている。
しかしまだ諦めてはいないようで、隙あらば逃れてやろう、と考えていそうな顔をしていた。
一旦部屋から出ていったカッタッタは、五分ほど経過して、またこの部屋に戻ってきた。二人の男性と共に。
「待たせたな! 拘束に使えそうな物、それと仲間、持ってきた!」
カッタッタのことはあまり知らない。だから、本当なら、信じきってしまってはいけないのだろう。疑ってみることだって必要かもしれない。
ただ、今の私には「疑う」なんて発想はなかった。
それは多分、私自身が、協力的なカッタッタを疑いたくなかったからなのだろうと思う。
人間、都合のいいことは信じたくなるものだ。
「ベルンハルト! そいつを拘束すればいいんだな!?」
言いながらベルンハルトに駆け寄るカッタッタの手には、太く頑丈そうな縄。がっしりと編み込まれていて、そう易々とちぎれることはなさそうな縄だ。
「頼む」
「おう! 任せろ!」
カッタッタと彼が連れてきた男性二人は、一斉に、ベルンハルトの方へと向かう。
シュヴァルを取り押さえ続けていたベルンハルトの顔面に、ほんの少し、明るいものが差し込んだ。
「よしっ。まずは首だな!」
「いやいや、首やのうて手首ですがな」
「手首か! 確かにな!」
「しっかり頼んます」
カッタッタは、彼が連れてきた二人のうち一人と何やら喋りながら、シュヴァルの手首に縄をかけている。
「いきなりこんなことをして、許されると思っているのですか!」
「許される! なぜなら、星王様の命だからだ!」
カッタッタが連れてきた二人のうち、彼と一緒に行動しているのではない方の男性は、リンディアがいるベッドの方へ向かっていた。
私はどう動けばいいのだろう。
足を引っ張ってしまうことになりかねないので、シュヴァルの方へ行くのは避けた方が無難だろう。だとしたら、リンディアの方へ行くべきか。
……いや。
私が彼女のところへ行っても、何かできるとは思えない。力になれる気がしない。
撃たれたアスターのことは心配だ。そして、それにショックを受けているであろうリンディアのことも心配である。
本当に、どうすべきなのだろう。
私は考える。
誰かがこうすべきと教えてくれれば、どんなにいいか。答えを教えてもらえたなら、それに従うだけでいいので、きっととても楽だろう。
しかし、世の中そう簡単にできてはいなくて。
自分で考え判断しなくてはならない。そういうことも、たくさんあるものだ。
……どうしよう。
悩んだ結果、私は、リンディアとアスターの方へ向かうことにした。そちらの方がシュヴァルから離れていて安全だろう、と思ったからである。
ベッドに向かって駆け出す。
その時、アスターの体は既に、男性に抱えられていた。
「彼は大丈夫そう?」
私は男性に問う。
すると男性はこくりと頷き、静かな声で「治療は必要ですが」と答えてくれた。
治療は必要ということだが、それはつまり、治療すれば助かる可能性が高いということ。このまま話が進めば、アスターはきっと大丈夫だろう。
「ありがとう」
「いえ、任務ですので。では先に失礼致します」
アスターの体を抱えた男性は、そそくさと部屋から出ていった。
それなりに身長があるアスターの体は、脱力しているのもあって、かなり重そうだ。しかし男性は、そんなアスターの体を軽々と持ち上げ、運んでいる。
力持ちなのだな、と、密かに感心した。
アスターが運ばれていってから、私は、リンディアへ視線を向ける。そして、歩み寄る。
「リンディア! 平気?」
「……そーね。へーきよー」
「怪我はない?」
「特にないわねー」
リンディアは、いつもより、疲れたような表情をしていた。
だって、こんな展開はまったく予想していなかったんだもの。
そもそも、カッタッタのことなんて顔を見るまですっかり忘れていた。それに、顔を見て名を導き出せたことさえ、奇跡なのだ。
「ぅおーい!? 何だこの沈黙ッ!!」
彼の登場に言葉を失ったのは、私だけではない。シュヴァルを床に押さえ込んでいるベルンハルトも、私と同じように、言葉を失っていた。
「友が来たのにノーコメントとは! ベルンハルト! 何だそれは!」
「……友ではない」
「ガアァァーン」
ベルンハルトがようやく発した第一声に、カッタッタは凄まじい勢いで肩を落とす。
「うそー……それは酷すぎだろー……せっかく助けに来たのによー……それなのに友じゃないとかよー……」
カッタッタは、何やら、ぶつくさ漏らしている。ベルンハルトの発言がかなりショックだったようだ。
「って、そうじゃなかった!」
独り言を言い終えると、カッタッタは、ハッと目を開いた。
「ベルンハルト! 今行くからな!」
シュヴァルを押さえ込むベルンハルトのもとへと駆け寄っていくカッタッタ。
「大丈夫かっ!」
「……あぁ、問題ない」
カッタッタの目には、善意という名の光が宿っていた。彼に悪意がないということは明らかだ。
「他にも何人か来てるからな!」
「そうなのか」
ベルンハルトはシュヴァルの四肢を固く締めつつ話している。
「星王様の命とカッタッタの優しさが合わさったんだ!」
緊迫した状況にあるはずなのに、カッタッタの話し方はどことなく呑気。そこが彼の良いところでもあるのかもしれないが、それにしても、少々場に不釣り合いである。
「……はぁ」
「溜め息とか止めてくれよ!」
「すまない」
「な、素直に謝っただとッ!?」
カッタッタは謎だ。真面目なのかふざけているのか、まったく掴めない。
「そういう冗談はいい。それより——拘束を手伝ってくれ」
「拘束? されてたまるものですか!」
ベルンハルトの発言に対し抗いの声をあげるのは、シュヴァル。
今や彼は、ベルンハルトから逃れようと必死だ。
「カッタッタ、拘束具か何かは?」
「要るのか!?」
「そうだな。ある方が確実だ」
いや、なぜ手ぶらで来たのか。
「分かった! 少し待っていてくれ。外の奴らを呼んでくる!」
カッタッタは部屋から出ていった。
部屋から騒がしさが消える。
「大丈夫なの? ベルンハルト」
静けさが戻ってきてから、私は、ベルンハルトに話しかけてみた。
すると彼は、落ち着きのある声色で返してくる。
「問題ない。イーダ王女はそこにいろ」
「分かったわ」
ベルンハルトは冷静だ。
彼の年齢からすれば信じられないくらいの落ち着きである。
「離しなさい、野蛮人!」
「それはできない」
「くっ……こんなところで終わるわけにはいきません……!」
シュヴァルは顔をしかめている。
しかしまだ諦めてはいないようで、隙あらば逃れてやろう、と考えていそうな顔をしていた。
一旦部屋から出ていったカッタッタは、五分ほど経過して、またこの部屋に戻ってきた。二人の男性と共に。
「待たせたな! 拘束に使えそうな物、それと仲間、持ってきた!」
カッタッタのことはあまり知らない。だから、本当なら、信じきってしまってはいけないのだろう。疑ってみることだって必要かもしれない。
ただ、今の私には「疑う」なんて発想はなかった。
それは多分、私自身が、協力的なカッタッタを疑いたくなかったからなのだろうと思う。
人間、都合のいいことは信じたくなるものだ。
「ベルンハルト! そいつを拘束すればいいんだな!?」
言いながらベルンハルトに駆け寄るカッタッタの手には、太く頑丈そうな縄。がっしりと編み込まれていて、そう易々とちぎれることはなさそうな縄だ。
「頼む」
「おう! 任せろ!」
カッタッタと彼が連れてきた男性二人は、一斉に、ベルンハルトの方へと向かう。
シュヴァルを取り押さえ続けていたベルンハルトの顔面に、ほんの少し、明るいものが差し込んだ。
「よしっ。まずは首だな!」
「いやいや、首やのうて手首ですがな」
「手首か! 確かにな!」
「しっかり頼んます」
カッタッタは、彼が連れてきた二人のうち一人と何やら喋りながら、シュヴァルの手首に縄をかけている。
「いきなりこんなことをして、許されると思っているのですか!」
「許される! なぜなら、星王様の命だからだ!」
カッタッタが連れてきた二人のうち、彼と一緒に行動しているのではない方の男性は、リンディアがいるベッドの方へ向かっていた。
私はどう動けばいいのだろう。
足を引っ張ってしまうことになりかねないので、シュヴァルの方へ行くのは避けた方が無難だろう。だとしたら、リンディアの方へ行くべきか。
……いや。
私が彼女のところへ行っても、何かできるとは思えない。力になれる気がしない。
撃たれたアスターのことは心配だ。そして、それにショックを受けているであろうリンディアのことも心配である。
本当に、どうすべきなのだろう。
私は考える。
誰かがこうすべきと教えてくれれば、どんなにいいか。答えを教えてもらえたなら、それに従うだけでいいので、きっととても楽だろう。
しかし、世の中そう簡単にできてはいなくて。
自分で考え判断しなくてはならない。そういうことも、たくさんあるものだ。
……どうしよう。
悩んだ結果、私は、リンディアとアスターの方へ向かうことにした。そちらの方がシュヴァルから離れていて安全だろう、と思ったからである。
ベッドに向かって駆け出す。
その時、アスターの体は既に、男性に抱えられていた。
「彼は大丈夫そう?」
私は男性に問う。
すると男性はこくりと頷き、静かな声で「治療は必要ですが」と答えてくれた。
治療は必要ということだが、それはつまり、治療すれば助かる可能性が高いということ。このまま話が進めば、アスターはきっと大丈夫だろう。
「ありがとう」
「いえ、任務ですので。では先に失礼致します」
アスターの体を抱えた男性は、そそくさと部屋から出ていった。
それなりに身長があるアスターの体は、脱力しているのもあって、かなり重そうだ。しかし男性は、そんなアスターの体を軽々と持ち上げ、運んでいる。
力持ちなのだな、と、密かに感心した。
アスターが運ばれていってから、私は、リンディアへ視線を向ける。そして、歩み寄る。
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