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前編

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「これまでしばらく婚約者同士として暮らしてきたけどさ、やっぱ、俺ら合わねぇと思うんだわ。だからさ、婚約、破棄しようぜ。っていうか、もう決めたから。アンタとの婚約は破棄な」

 その日、婚約者の彼エルフォボスは、軽くさらりとそんなことを言ってきた。

 事の重大さを理解していないのか?

 婚約破棄、なんて。
 人生においてかなり大きなことだと思うのだが。

 まぁでも……彼にとってはそれほど重大なことでもないのかもしれない。

「そうですか。分かりました。ちなみに、理由は?」
「そんなこと言う必要ねぇだろ」
「あります。私としても知っておきたいですし」
「なら教えてやんよ。アンタより可愛い一生を共にしたい女の子に出会った、それだけだよ」

 気が変わった、ということか。
 それなら何となく理解はできる。

 もっとも、そんなことで婚約破棄するというのは、少々認識がずれている気もするが……。

 恋人とは違うのだ。
 そこをきちんと分かっているのだろうか。

 ……いや、これ以上考えるのはよそう。

 必要以上に思考することに意味などない。
 無意味な思考というのもこの世には存在する。

「分かりました。では私は去ります……さようなら」

 こうして私たちの関係は壊れ、終わった。
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