奇跡の歌姫

四季

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41話「リベルテの慌てモード」

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 シャルティエラは意見さえ合えば良き友になってくれそうな雰囲気の女性ではある。でも、彼女は多分、意見が一致しない者には厳しい性質を持っていることだろう。だから本当は、彼女と違う意見を言うなんてことは避けたかった。けれど、ウィクトルの首を狙うなんてことには、どうしても賛成できず。だからこのような形になってしまった。

 黙っているシャルティエラの顔色を窺う。
 しかし、今の彼女の顔からは、感情を読み取れない。何か考えているような顔つきではあるが、怒っているだとか喜んでいるだとかそういった具体的な感情は掴めない、そんな顔をしている。

 それから数十秒が過ぎ。
 やがて、彼女はそっと唇を動かし始める。

「そう……分かりましたわ。残念ですけど、貴女がそう言うなら仕方がないですわね」

 目を細めつつ、彼女は落ち着いた調子で発した。

「ビタリーは貴女を『素晴らしい歌姫』と絶賛していましたわ。それを聞いたわたくしは『どうせいけすかない女だろう』と想像していましたけれど、いざこうして会ってみると、貴女は案外嫌いでなかった。だからこそ、仲間になれれば良いなと考えたのですけれど……どうやらそれは不可能なようですわね」

 いけすかない女だろう、なんて思われていたのか。
 べつに彼女を責める気はないが——酷いことだ、会ったこともない相手にそんなことを思うなんて。

「わたくしは無理は言いませんわ。潔く諦めます」
「……すみません」
「いいえ。気にすることはありませんわ、貴女の人生ですもの」

 シャルティエラは穏やかに頬を緩ませて受け入れてくれた。しかし、鋭い物言いをされなかったところが逆に不気味で。素直に「良かった」と思えない部分が少しばかりある。気の強そうな人物が仏のような笑みを作っているというのは、実に奇妙なことだ。

「では失礼しますわ。次にお会いする時は——敵同士かもしれませんわね」

 別れしな、彼女はほんの一瞬だけ顔面から笑みを消した。
 声も心なしか低め。
 私はその後ろ姿を眺めながら、言い表し難い不安に駆られる。近い将来とんでもないことが起こってしまうのでは、なんてことを、こんな時に限って妙に考えてしまって。一度負の方向へ傾き出した思考は、すぐには元に戻らない。

 そんな時だ、うさぎが飛び跳ねるような声で呼ばれたのは。

「ウタ様!」

 振り返ると、一旦離れていたはずのリベルテが視界に入った。

 遠慮の色が濃く浮かんだような顔つきだ。
 怒ったり悲しんだりしているような色みはなく、しかしながらどことなく強張りを感じさせる顔。それはまるで、中央にしこりのある柔らかいボールのよう。

「問題ございませんでしたか?」
「え、えぇ。大丈夫よ」
「危険な行為はありませんでしたか?」
「えぇ。ただ少し話をしただけで終わったわ」

 どうやらリベルテは私の身を案じてくれていたようだ。

「それなら安心致しました……」

 リベルテは、溜め息に似た息を漏らしつつ、胸を撫で下ろす。
 安堵している彼を見たら、なぜか、こちらまでホッとする。麗らかな春の日に木々の中を散歩した時のような、優しい気持ちになる。

「おかしなことを仕掛けてきたらどうしようと、少しばかり心配しておりました」
「ごめんなさい、心配かけて」
「い、いえ! ウタ様は何も悪くございません!」

 軽く謝罪した瞬間、リベルテは慌て出す。声も急にそれまでより大きくなった。いきなり人格が別人になったかのような変わりようだ。落ち着きのない子どもに憑かれでもしたのか、と疑ってしまいそうになるほど、今のリベルテは慌てている。

 そんな彼に向けて、私は、思わず「待って。落ち着いて」と言ってしまった。

 何だか上から目線な言い方になってしまっただろうか、などと、個人的に気になる。だがリベルテは、そういった類の指摘は一切してこなかった。むしろ、私の言葉で落ち着いたような気すらする。

 こうして、シャルティエラの訪問は終了した。
 いきなりのことで戸惑いも多かったが、取り敢えず喧嘩にならず別れることはできたので、まだ成功した方だったかもしれない。

 もちろん収穫もあった。前もって連絡のない訪問というのは厄介以外の何物でもない——今回の一件で、そのことに気づけた。そういう意味では、彼女の厄介な形でも訪問が私にもたらしてくれたものというのも、何一つないわけではない。


 それ以降も、リベルテと二人きりの時間が多くあった。
 なぜなら、ウィクトルとフーシェは任務で宿舎にいないからだ。

「ふんーふんーふんふーん」

 私は退屈凌ぎに新たな歌を作ることに挑戦を始めた。始めた理由は単純。旅行時に持ちネタともいえる曲が一曲だけしかなくて、いろんな意味で苦労したから。

 何でも良いので、曲のレパートリーを増やしていかなくては。
 それが私の脳内だった。

 朝も昼も夜も、時間帯など関係なく、紙とペン一本を借りて書き続ける——そう、歌詞を書いているのだ。
 伴奏は必要ない。声だけで十分だ。ただ、残念ながら私の頭には、思いついた歌詞をすべて記憶しておくメモリーは入っていない。だから、ふと思い浮かんだ際に、こうして書き記しておかなくてはならないのだ。

 今は昼。
 この日、この時も、私は歌詞をメモしている。

「ウタ様! お茶をお持ち致しました!」

 一人黙々と作業を進めていると、時折リベルテが気を利かせてくれる。気遣いの具体的な内容は何かというと、飲み物や簡単な菓子を運んできてくれることだ。

「まぁ、素敵なオレンジ色ね」

 今日リベルテが持ってきてくれたお茶は、茶色や焦げ茶色ではなく、鮮やかなオレンジ色だった。曇りのない透明なグラスに目立つ色の液体が注がれていたら、もはや、それは一種の芸術品だ。

「綺麗なオレンジ色を出すところに苦労致しました」
「難しいの?」
「はい。葉と水分量を間違えてしまうと色はもちろん変わりますし、濁ってしまうこともございます」
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