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48話「ウタの休み日数への疑問」
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それから私たちは夕食を摂った。
リベルテが買ってきてくれた物を四人で囲むのは、とても楽しい時間だった。
かなり不味いチューブ食ではないものの、贅沢な食事ではない。しかし、それでも、幾人かで食事を共にするという行為は私の胸を弾ませるものだった。
「それにしても、平和でございますねー」
空へ舞い上がる白い鳩のような軽やかな声を発したのはリベルテ。
そんな彼を、フーシェは横目で見る。
「……いつ何があるか分からない。油断は……厳禁」
フーシェは拳の半分ほどの大きさの唐揚げを口へ運びつつ言った。
それに対し、リベルテは呆れたように笑う。
「相変わらずですね、フーシェ」
私は半透明なカップに入った白く細い麺をフォークで口へ運ぶ。
塩辛いスープが絡んだ麺は、味と食感の両方がハイレベル。良いものと良いものが合わさり、口腔内にて、見事な旋律を奏で出している。
「……間違ったことは言っていないはず」
「それはそうです。しかし、常に緊張状態でいては、疲れるばかりですよ」
フーシェとリベルテがそんな風に会話している間、ウィクトルはフリント焼きを黙々と食べていた。すぐ近くにいるのに、部下二人の会話に参加することはない。
「……そちらが能天気なだけではないの」
「し、失礼ですね!?」
「……事実を言ったまでよ」
「フーシェ! なぜすぐにそのようなことを言うのです!?」
リベルテの声が徐々に大きくなってくる。彼は、フーシェに刺激され、少しばかり落ち着きを失ってしまっている様子だ。さすがにまだ、心の底から怒りが湧き上がっている、というところまではいかないようだが。
「まったく! 聞いているのですか!?」
「リベルテ」
それまで会話に加わっていなかったウィクトルが、平常心を失いかけているリベルテの名を呼ぶ。
「……へ?」
ウィクトルに名を呼ばれたことで、リベルテは正気を取り戻したようだ。熱された石に水をかけても無意味、なんて言い方をすることもあるが、今回に限っては水をかける意味があった。
「落ち着け」
「は……はい。申し訳ございませんでした。リベルテ、ついムキになってしまい……」
翌朝、私が目覚めた時には、ウィクトルたちは既に仕事着に着替えていた。仕事着と言っても、決まった制服があるわけではないから三人ともが同じ服を着ているわけではないけれど。ただ、宿舎で寛ぐ、といった感じの服装ではない。
「おはよう、ウィクトル。今日はどこかへ行くの?」
「皇帝のところへ」
「今日は休みじゃないのね。……何というか、休み少なくない?」
彼らはあれだけ長期にわたって懸命に働いていたのだから、あと数日くらい休暇があっても良いと思うのだが。先日の、狙撃による負傷だって、まだ終わった話ではないのだし。
「そうだろうか。いつもこんなものだが」
その時、ウィクトルの背後からリベルテがひょっこり顔を覗かせた。
「週休何日という決まりはございませんからね!」
リベルテはこんな日でも機嫌が良い。
彼が不機嫌な時なんてあるのだろうか、想像できない。
「その代わり、遊んでいる者は遊んでおりますよ。週休三日四日五日……正直、良い身分さえあれば、何でもありでございます」
いや、週休五日はさすがに休み過ぎではないだろうか。
そこまでなるともはや「ほとんど休んでいる」というレベル。週の半分も動いていないことになってしまう。かなり忙しい者がいる一方で、一部の人にはそれが許されるのなら、おかしな話だ。
「本当は、リベルテとしても、主にはもっとゆっくりしていただきたいのでございますが……こればかりはどうしようもないので仕方ありませんね」
「私は気にしない」
「さすがは主!」
リベルテはウィクトルを見つめていた。
光輝く、無垢な瞳で。
そこへフーシェがやって来る。
「……ボナ様、そろそろ時間」
時間、というのは、出発の時間のことだろう。恐らく。
フーシェは、それを伝えに来たようだ。
「そうか。すぐ行く」
ウィクトルは簡単に返事し、それから一度私の方を向く。
「では行ってくる」
「えぇ。いってらっしゃい」
「フーシェと仲良くな」
その言葉を耳にした瞬間、私は思わず「えっ!?」と、何もないところで転倒するかのような情けない声を発してしまった。
「何を驚いている? 今回はフーシェを残していくと決めているのだ」
「え、えぇ……ありがとう……」
今日は居残ってくれるのがフーシェだと知り、恐る恐る、彼女の方へと視線を向ける。すると、彼女が渋柿を食べたかのような顔つきになっているのが見えた。滑らかな肌と愛らしく整った目鼻立ちを台無しにするかのように、眉間に幾千のしわが刻まれている。
「よ、よろしく」
「……勘違いしないで。残るのは……命令だからよ」
視線も、表情も、声も、すべてが、氷のように硬く冷たい。
「……本当はボナ様の傍にいたいのに」
フーシェの硝子玉のような瞳はどこを見つめているのかはっきりしない。私の知らない世界のどこか遠いところを見つめているみたいだ。
彼女が見ているのは、闇だろうか。それとも、明るみだろうか。
ぼんやりしているフーシェを静かに見つめているうちに、ウィクトルとリベルテは部屋から出ていってしまった。
「その……何というか、ごめんなさい。フーシェさん。拘束してしまって」
「……べつに。謝らないで」
訪れる静寂。私は言葉を失う。責められ、しかし謝れば謝るなと言われ、ただ困ることしかできない。右も左も塞がれた状態。なら一体どうしろと言うのか。
……いや、苛立っていても仕方ない。
人間関係なんて大抵不満ばかりのものだ。都合の良い関係など数少ない。小さなことにいちいち敏感に反応して苛立っていては、穏やかには暮らしてゆけないだろう。人と接することで必要以上にストレスを抱えないためには、ある程度の寛容さは必要だ。
リベルテが買ってきてくれた物を四人で囲むのは、とても楽しい時間だった。
かなり不味いチューブ食ではないものの、贅沢な食事ではない。しかし、それでも、幾人かで食事を共にするという行為は私の胸を弾ませるものだった。
「それにしても、平和でございますねー」
空へ舞い上がる白い鳩のような軽やかな声を発したのはリベルテ。
そんな彼を、フーシェは横目で見る。
「……いつ何があるか分からない。油断は……厳禁」
フーシェは拳の半分ほどの大きさの唐揚げを口へ運びつつ言った。
それに対し、リベルテは呆れたように笑う。
「相変わらずですね、フーシェ」
私は半透明なカップに入った白く細い麺をフォークで口へ運ぶ。
塩辛いスープが絡んだ麺は、味と食感の両方がハイレベル。良いものと良いものが合わさり、口腔内にて、見事な旋律を奏で出している。
「……間違ったことは言っていないはず」
「それはそうです。しかし、常に緊張状態でいては、疲れるばかりですよ」
フーシェとリベルテがそんな風に会話している間、ウィクトルはフリント焼きを黙々と食べていた。すぐ近くにいるのに、部下二人の会話に参加することはない。
「……そちらが能天気なだけではないの」
「し、失礼ですね!?」
「……事実を言ったまでよ」
「フーシェ! なぜすぐにそのようなことを言うのです!?」
リベルテの声が徐々に大きくなってくる。彼は、フーシェに刺激され、少しばかり落ち着きを失ってしまっている様子だ。さすがにまだ、心の底から怒りが湧き上がっている、というところまではいかないようだが。
「まったく! 聞いているのですか!?」
「リベルテ」
それまで会話に加わっていなかったウィクトルが、平常心を失いかけているリベルテの名を呼ぶ。
「……へ?」
ウィクトルに名を呼ばれたことで、リベルテは正気を取り戻したようだ。熱された石に水をかけても無意味、なんて言い方をすることもあるが、今回に限っては水をかける意味があった。
「落ち着け」
「は……はい。申し訳ございませんでした。リベルテ、ついムキになってしまい……」
翌朝、私が目覚めた時には、ウィクトルたちは既に仕事着に着替えていた。仕事着と言っても、決まった制服があるわけではないから三人ともが同じ服を着ているわけではないけれど。ただ、宿舎で寛ぐ、といった感じの服装ではない。
「おはよう、ウィクトル。今日はどこかへ行くの?」
「皇帝のところへ」
「今日は休みじゃないのね。……何というか、休み少なくない?」
彼らはあれだけ長期にわたって懸命に働いていたのだから、あと数日くらい休暇があっても良いと思うのだが。先日の、狙撃による負傷だって、まだ終わった話ではないのだし。
「そうだろうか。いつもこんなものだが」
その時、ウィクトルの背後からリベルテがひょっこり顔を覗かせた。
「週休何日という決まりはございませんからね!」
リベルテはこんな日でも機嫌が良い。
彼が不機嫌な時なんてあるのだろうか、想像できない。
「その代わり、遊んでいる者は遊んでおりますよ。週休三日四日五日……正直、良い身分さえあれば、何でもありでございます」
いや、週休五日はさすがに休み過ぎではないだろうか。
そこまでなるともはや「ほとんど休んでいる」というレベル。週の半分も動いていないことになってしまう。かなり忙しい者がいる一方で、一部の人にはそれが許されるのなら、おかしな話だ。
「本当は、リベルテとしても、主にはもっとゆっくりしていただきたいのでございますが……こればかりはどうしようもないので仕方ありませんね」
「私は気にしない」
「さすがは主!」
リベルテはウィクトルを見つめていた。
光輝く、無垢な瞳で。
そこへフーシェがやって来る。
「……ボナ様、そろそろ時間」
時間、というのは、出発の時間のことだろう。恐らく。
フーシェは、それを伝えに来たようだ。
「そうか。すぐ行く」
ウィクトルは簡単に返事し、それから一度私の方を向く。
「では行ってくる」
「えぇ。いってらっしゃい」
「フーシェと仲良くな」
その言葉を耳にした瞬間、私は思わず「えっ!?」と、何もないところで転倒するかのような情けない声を発してしまった。
「何を驚いている? 今回はフーシェを残していくと決めているのだ」
「え、えぇ……ありがとう……」
今日は居残ってくれるのがフーシェだと知り、恐る恐る、彼女の方へと視線を向ける。すると、彼女が渋柿を食べたかのような顔つきになっているのが見えた。滑らかな肌と愛らしく整った目鼻立ちを台無しにするかのように、眉間に幾千のしわが刻まれている。
「よ、よろしく」
「……勘違いしないで。残るのは……命令だからよ」
視線も、表情も、声も、すべてが、氷のように硬く冷たい。
「……本当はボナ様の傍にいたいのに」
フーシェの硝子玉のような瞳はどこを見つめているのかはっきりしない。私の知らない世界のどこか遠いところを見つめているみたいだ。
彼女が見ているのは、闇だろうか。それとも、明るみだろうか。
ぼんやりしているフーシェを静かに見つめているうちに、ウィクトルとリベルテは部屋から出ていってしまった。
「その……何というか、ごめんなさい。フーシェさん。拘束してしまって」
「……べつに。謝らないで」
訪れる静寂。私は言葉を失う。責められ、しかし謝れば謝るなと言われ、ただ困ることしかできない。右も左も塞がれた状態。なら一体どうしろと言うのか。
……いや、苛立っていても仕方ない。
人間関係なんて大抵不満ばかりのものだ。都合の良い関係など数少ない。小さなことにいちいち敏感に反応して苛立っていては、穏やかには暮らしてゆけないだろう。人と接することで必要以上にストレスを抱えないためには、ある程度の寛容さは必要だ。
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