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47話「リベルテのお買い物」
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もうそろそろ夕食の時間かな、などと考えていた時、リベルテが帰ってきた。一人帰ってきた彼の手には、大きな荷物。物がびっしり詰まった白い袋を、彼は二つも手にしていた。
「主! ただいま戻りました!」
部屋に戻ってくるや否や、リベルテはウィクトルのもとへ直行。私でもフーシェでもなく、主人であるウィクトルに、戻ってきたことを元気よく報告していた。
「帰ったのか」
「はい! 食べ物など、色々購入して参りました」
リベルテは、物の入れ過ぎで限界まで大きくなった袋を二つとも差し出しつつ、口を動かしている。顔も、声も、とても楽しそうだ。
「負傷しているというのにすまない。手間をかけたな」
買い物を済ませてきた、という報告を受けたウィクトルは、落ち着いた調子で礼を述べた。
それに対し、恥じらいつつ繰り返し頭を下げるリベルテ。
「い、いえ! リベルテが勝手に考えたことでございますので!」
「助かった。では早速、中身を確認しよう」
「は、はい! お気に召すものがあれば良いのでございますが……!」
ウィクトルは、擦れるたび乾いた音が鳴る白い袋に、そっと手をかける。そして、リベルテに何かを問うこともなく、自ら中身を確認し始めた。瓶入りの飲料や透明な入れ物に入った惣菜が、次から次へと登場する。
そんな風にして袋から物を取り出していっていたウィクトルが、突如、声を発する。
「これは……!」
何事かと思い、ウィクトルの方へ視線を向ける。
彼は、目を大きく開き、瞳を震わせていた。
「フリント焼きか」
「はい。その……主がどう思われるか分からず、買うかどうか迷ったのでございますが」
両眉を内側に寄せ、上目遣いで、ウィクトルの顔色を窺うリベルテ。その表情は、どこか不安げだった。もしかしたら、触れてはならないところに触れてしまったかも、と心配になっているのかもしれない。
不安げなリベルテを余所に、ウィクトルは穏やかな目つきで述べる。
「いや、気にするな。フリント焼きはそれなりに好きだ」
私はその時になって、ようやく、フリント焼きなる物の方へ視線を向けることができた。
数メートル離れてはいるが、それでも、目を凝らせば見えないことはない。
ウィクトルが『フリント焼き』と呼んだそれは、丸い器に入っていた。もちろん、器と言っても家庭で使うような器ではない。短時間食べ物を入れておけるような簡易的な容器だ。下側は艶のある黒、上側——蓋の方は、中身が見えるよう透明になっている。そんな中に、円形の食べ物が見える。ケーキの生地と刻んだ葉野菜をはじめとする具を、混ぜて焼いたような見た目だ。
「それなら良かった……何よりでございます」
「もう食べていいのか?」
「は、はい! もちろんでございます」
フリント焼きについて話しているウィクトルとリベルテのところへ、フーシェが歩み寄る。私だけ離れているというのは寂しいので、私も、一応彼らに近づいておく。だが、あまりに豪快に突っ込んでゆくのも気が進まなくて。三人から一メートル離れた辺りで止まっておいた。
私だけ、奇妙な位置に立ってしまっている……。
一人ぽつんと立たされ、どうしようと困っていると、リベルテがくるりと振り返った。
「ウタ様もこちらへどうぞ! 食べ物を買って参りましたよ!」
喜びを頬に浮かべつつ、リベルテは招くように片手をひらひらさせる。
文化が違えば認識も違う。それゆえ、自分の持つ知識だけで勝手な解釈をするのは、良いこととは言えないかもしれない。だが、地球の知識で理解するなら、リベルテの動作は「こっちへおいで」と言っている意味のものである。
「あ……ありがとう」
私は礼を言いつつも、すぐには接近しなかった。もし招かれているのではなかったら、勘違いだったら、恥ずかしい目に遭う可能性が高いから。そんな私を見て、リベルテはおかしな生き物を見たような顔になった。
「ウタ様? なぜ少し離れていらっしゃるのですか?」
「ごめんなさい。すぐ行くわ」
夏の太陽のような笑みを浮かべたままのリベルテを目にし、「これは本当に招かれていそうだな。勘違いではなさそうだな」と思った私は、その時になってようやく三人の方へ歩き出す。
ウィクトルは既に透明な蓋を開けている。妙に積極的。好きと言っていただけあって、食べる気に満ちているようだ。そして、フーシェは、そんな彼の行動を至近距離から見つめている。半分ほど閉じたような形の目で、ウィクトルの手もとを凝視していた。
私の方に意識を向けてくれているのは、現時点ではリベルテだけだ。
「ウタ様はどれになさいますか? 色々買って参りましたよ」
「へぇ。見せて」
「もちろんでございますっ。お気に召す品があれば良いのでございますが」
リベルテが屈託のない笑みで接してくれるから、私は、彼らの中に自然に入ることができた。そもそも、彼が招いてくれたから向かっていけたのだし、そういう意味では、リベルテには凄くお世話になってしまった。
彼の気遣いの心は、常人のそれを超越している——その事実を改めて感じた出来事だった。
惣菜が詰まったパン、お湯を入れるだけで作ることができるスープ、後は温めるだけの麺。そういった色々な品物があって、私は思わず見とれてしまった。こんないろんな物を気軽に買えるなんて、と、今は少し驚いている。
「これは何?」
私はふと、カップを掴み上げる。
半透明の桜色がかったカップには、何やら文字が描かれているが、読めない私にはその内容が理解できない。
「それは麺でございますよ」
「……麺、なの?」
地球にも麺はあった。細くて長い、主食にもできるような存在。それが麺だ。だがしかし、このようなカップに入っている麺は見たことがない。
もっとも、私が多くのことを知らないだけなのかもしれないが。
「はい! お湯を注ぎ入れて作る麺でございますよ!」
「そうだったの」
お湯だけで作れる仲間のようだ。
スープは見たことがあるが、麺は見たことがない。
「これになさいますか? そうなさるのでしたら、リベルテがお湯を入れて参ります」
「え。それは悪いわ」
「いえいえ、お気になさらず。リベルテが手伝わせていただきたいだけでございます」
「主! ただいま戻りました!」
部屋に戻ってくるや否や、リベルテはウィクトルのもとへ直行。私でもフーシェでもなく、主人であるウィクトルに、戻ってきたことを元気よく報告していた。
「帰ったのか」
「はい! 食べ物など、色々購入して参りました」
リベルテは、物の入れ過ぎで限界まで大きくなった袋を二つとも差し出しつつ、口を動かしている。顔も、声も、とても楽しそうだ。
「負傷しているというのにすまない。手間をかけたな」
買い物を済ませてきた、という報告を受けたウィクトルは、落ち着いた調子で礼を述べた。
それに対し、恥じらいつつ繰り返し頭を下げるリベルテ。
「い、いえ! リベルテが勝手に考えたことでございますので!」
「助かった。では早速、中身を確認しよう」
「は、はい! お気に召すものがあれば良いのでございますが……!」
ウィクトルは、擦れるたび乾いた音が鳴る白い袋に、そっと手をかける。そして、リベルテに何かを問うこともなく、自ら中身を確認し始めた。瓶入りの飲料や透明な入れ物に入った惣菜が、次から次へと登場する。
そんな風にして袋から物を取り出していっていたウィクトルが、突如、声を発する。
「これは……!」
何事かと思い、ウィクトルの方へ視線を向ける。
彼は、目を大きく開き、瞳を震わせていた。
「フリント焼きか」
「はい。その……主がどう思われるか分からず、買うかどうか迷ったのでございますが」
両眉を内側に寄せ、上目遣いで、ウィクトルの顔色を窺うリベルテ。その表情は、どこか不安げだった。もしかしたら、触れてはならないところに触れてしまったかも、と心配になっているのかもしれない。
不安げなリベルテを余所に、ウィクトルは穏やかな目つきで述べる。
「いや、気にするな。フリント焼きはそれなりに好きだ」
私はその時になって、ようやく、フリント焼きなる物の方へ視線を向けることができた。
数メートル離れてはいるが、それでも、目を凝らせば見えないことはない。
ウィクトルが『フリント焼き』と呼んだそれは、丸い器に入っていた。もちろん、器と言っても家庭で使うような器ではない。短時間食べ物を入れておけるような簡易的な容器だ。下側は艶のある黒、上側——蓋の方は、中身が見えるよう透明になっている。そんな中に、円形の食べ物が見える。ケーキの生地と刻んだ葉野菜をはじめとする具を、混ぜて焼いたような見た目だ。
「それなら良かった……何よりでございます」
「もう食べていいのか?」
「は、はい! もちろんでございます」
フリント焼きについて話しているウィクトルとリベルテのところへ、フーシェが歩み寄る。私だけ離れているというのは寂しいので、私も、一応彼らに近づいておく。だが、あまりに豪快に突っ込んでゆくのも気が進まなくて。三人から一メートル離れた辺りで止まっておいた。
私だけ、奇妙な位置に立ってしまっている……。
一人ぽつんと立たされ、どうしようと困っていると、リベルテがくるりと振り返った。
「ウタ様もこちらへどうぞ! 食べ物を買って参りましたよ!」
喜びを頬に浮かべつつ、リベルテは招くように片手をひらひらさせる。
文化が違えば認識も違う。それゆえ、自分の持つ知識だけで勝手な解釈をするのは、良いこととは言えないかもしれない。だが、地球の知識で理解するなら、リベルテの動作は「こっちへおいで」と言っている意味のものである。
「あ……ありがとう」
私は礼を言いつつも、すぐには接近しなかった。もし招かれているのではなかったら、勘違いだったら、恥ずかしい目に遭う可能性が高いから。そんな私を見て、リベルテはおかしな生き物を見たような顔になった。
「ウタ様? なぜ少し離れていらっしゃるのですか?」
「ごめんなさい。すぐ行くわ」
夏の太陽のような笑みを浮かべたままのリベルテを目にし、「これは本当に招かれていそうだな。勘違いではなさそうだな」と思った私は、その時になってようやく三人の方へ歩き出す。
ウィクトルは既に透明な蓋を開けている。妙に積極的。好きと言っていただけあって、食べる気に満ちているようだ。そして、フーシェは、そんな彼の行動を至近距離から見つめている。半分ほど閉じたような形の目で、ウィクトルの手もとを凝視していた。
私の方に意識を向けてくれているのは、現時点ではリベルテだけだ。
「ウタ様はどれになさいますか? 色々買って参りましたよ」
「へぇ。見せて」
「もちろんでございますっ。お気に召す品があれば良いのでございますが」
リベルテが屈託のない笑みで接してくれるから、私は、彼らの中に自然に入ることができた。そもそも、彼が招いてくれたから向かっていけたのだし、そういう意味では、リベルテには凄くお世話になってしまった。
彼の気遣いの心は、常人のそれを超越している——その事実を改めて感じた出来事だった。
惣菜が詰まったパン、お湯を入れるだけで作ることができるスープ、後は温めるだけの麺。そういった色々な品物があって、私は思わず見とれてしまった。こんないろんな物を気軽に買えるなんて、と、今は少し驚いている。
「これは何?」
私はふと、カップを掴み上げる。
半透明の桜色がかったカップには、何やら文字が描かれているが、読めない私にはその内容が理解できない。
「それは麺でございますよ」
「……麺、なの?」
地球にも麺はあった。細くて長い、主食にもできるような存在。それが麺だ。だがしかし、このようなカップに入っている麺は見たことがない。
もっとも、私が多くのことを知らないだけなのかもしれないが。
「はい! お湯を注ぎ入れて作る麺でございますよ!」
「そうだったの」
お湯だけで作れる仲間のようだ。
スープは見たことがあるが、麺は見たことがない。
「これになさいますか? そうなさるのでしたら、リベルテがお湯を入れて参ります」
「え。それは悪いわ」
「いえいえ、お気になさらず。リベルテが手伝わせていただきたいだけでございます」
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