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68話「フーシェのオススメ料理」
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帰還した日の晩、任務完了を祝う宴会が開催された。
私は部隊の人間ではない。それゆえ、本当は参加する資格はないはず。しかし、さりげなく参加させてもらえることになった。なので私は会場にいる。
「私も参加して大丈夫なのかしら……」
一応会場へ来はしたが、参加して良いのか不安なので、隣にいるリベルテにさりげなく確認してみる。するとリベルテは「もちろんでございますよ、ウタ様」と笑顔で答えてくれた。
リベルテに注いでもらったりんごジュースを飲みつつ、広間内を見回す。視界に入るのはほとんどが男性で、少々むさ苦しい。だが、皆楽しそうにしているので、嫌な雰囲気ではなかった。果てしなく平和で、ほっこりできる空間だ。
「こういうのも悪くないわね」
「はい!」
少しばかり言葉を交わして、ふと思う。
リベルテはまだ私の横にいてくれているが、それで良いのか? と。
彼は、ウィクトルがいない間、私の傍にいることを命じられていた。しかし、それはもう済んだこと。今はウィクトルも近くにいるのだし、リベルテが私についていなくてはならない理由はない。
「リベルテ、ここにいて良いの?」
「はい。それがどうかなさいましたか」
「いいえ。ただ……ウィクトルのところへ行きたくはないのかなって」
ウィクトルは挨拶を終え、隊員たちのところを回っている。彼の面に笑顔はないが、皆にきちんと向き合う意思が感じられる目つきをしていた。一人一人と言葉を交わす時間は少ない。が、隊員たちが嬉しそうにしているのを見ると、多くの者がウィクトルを慕っているのだと分かる。
「リベルテは後からでもお話できますので、心配無用でございます!」
「そ、そう。なら安心したわ」
本当に心配無用なのだろうか。
事実なら、まぁ、それが一番良いのだが。
その時、私は偶々、深く考えぬままウィクトルの方を見た。そして違和感を覚える。つい先ほどまで飲み物の入ったコップを片手に隊員たちと言葉を交わしていたウィクトルが、静かに広間から出ていっていたから。
「あれ……?」
私は思わずそんなことを呟いてしまう。
その声を聞き、リベルテもウィクトルへ視線を向けた。
「主、出ていってしまいましたね。何事でしょう」
「えぇ……謎ね」
ウィクトルとて子どもではない、放っておいた方が良いのかもしれない。いちいち首を突っ込まれても、彼は不快な思いをするばかりだろう。
あれから三十分ほどが経過したが、ウィクトルは一向に帰ってくる気配がない。
広間内はまだ賑やかだ。飲み食いしている者、親しい仲間と話に花を咲かせている者など、色々な者がいる。中には、「休み何する?」「いやぁ、まずはゴロゴロかな」なんて会話をしている人すらいた。とにかく皆楽しげだ。リラックスした表情で穏やかな時を過ごしている。
「……ウタ、何か食べないの」
「え?」
楽しそうな人たちを眺めていたら、フーシェが声をかけてきた。
その手には、一枚の紙皿。そしてそこには、唐揚げのようなものが三つ乗っている。ほんのり漂う、油の匂い。
「……食べて、これ」
「えっと、それは、私にくれるということ?」
「そう……何も食べていないようだったから。空腹は敵」
唐揚げと思われる物体が乗った紙皿とそれを刺す用のフォークを、フーシェは差し出してくる。
「あ、ありがとう」
私は最初戸惑いしかなかった。他人と関わることを好まないフーシェが自ら積極的にこんなことを言ってくれることなんて微塵も想像していなかったから、私の胸は驚きに満ちていたのだ。そのため、礼を述べるまでに十数秒はかかってしまった。
「美味しそうね」
紙皿とフォークを受け取る。そして、右手に握った紙製の白いフォークを、唐揚げらしき物体に突き刺す。刺さった穴から溢れる汁は、油だろうか。私はフォークを刺したまま物体を持ち上げ、口もとまで運ぶ。すると、油の匂いに加えて香ばしい香りが上ってきて、嗅覚を刺激した。
「いただきます」
物体を口に入れる。
この味、やはり唐揚げのようだ。
塩辛さと甘みの絶妙なバランス、それをサポートする匂い。それらが一致団結し、素晴らしい味を作り出している。唐揚げらしさに満ちた、食欲をそそる味。
「美味しい……!」
一口目を飲み込むと、自然と口から言葉が出た。
「素晴らしいわ! フーシェさん。これ、とても美味しいわね!」
「……鶏肉は栄養価が高い」
そういえば、ウィクトルも前にそんなことを言っていたような。
さらに十分が過ぎたが、ウィクトルは戻ってこない。さすがにそろそろ気になってきた。
喧騒にいるのが苦手で先に退室していったのなら、誰にも話さずこっそり去っていくということはないだろう。一言くらい何か言ってから出ていくはずだ。
何か隠し事? 逢瀬?
彼に限ってはそんなことはないだろうが、しかし、怪しく思わずにはいられない。
ちょうど唐揚げも食べ終えたことだし、少し様子を見にいってみようか——そう思い立った私は、リベルテやフーシェの視線が私から離れている隙にこっそり広間から出る。
ウィクトルが向かった場所は分からない。
退室からこれだけ時間が経っているから、かなり離れたところへ行ってしまっている可能性だってあるし。
「取り敢えず……部屋?」
私が思いつく選択肢には限りがあるが、ひとまず、三階の部屋へ向かうことにした。
そこが一番行きやすいところだからである。
扉の前にたどり着く。
幸運か不運か、扉は僅かに開いていた。
私は訳もなく隠れてしまう。べつに悪いことをしているわけではないが、ウィクトルに気づかれないかと必要以上にドキドキしてしまって。だから私は、自然と隠れてしまうのだ。
特に音はしない。
人の声も聞こえてはこない。
どうやって入っていけば良いだろう? と考える。元気に「こんにっちはー!」と大声を出しながら入っていくのか、こっそり忍び込むのか、どのような入り方が良いのだろう。すぐには思考がまとまらない。
——暫し考え、普通に入っていくことに決めた。
僅かに開いていた扉を静かに開けて、ゆっくりと足を進める。驚かせてしまっては申し訳ないので声は特に出さない。音は極力立てないようにして、周囲を見回す。
「やっぱり違ったのかな……?」
私は部隊の人間ではない。それゆえ、本当は参加する資格はないはず。しかし、さりげなく参加させてもらえることになった。なので私は会場にいる。
「私も参加して大丈夫なのかしら……」
一応会場へ来はしたが、参加して良いのか不安なので、隣にいるリベルテにさりげなく確認してみる。するとリベルテは「もちろんでございますよ、ウタ様」と笑顔で答えてくれた。
リベルテに注いでもらったりんごジュースを飲みつつ、広間内を見回す。視界に入るのはほとんどが男性で、少々むさ苦しい。だが、皆楽しそうにしているので、嫌な雰囲気ではなかった。果てしなく平和で、ほっこりできる空間だ。
「こういうのも悪くないわね」
「はい!」
少しばかり言葉を交わして、ふと思う。
リベルテはまだ私の横にいてくれているが、それで良いのか? と。
彼は、ウィクトルがいない間、私の傍にいることを命じられていた。しかし、それはもう済んだこと。今はウィクトルも近くにいるのだし、リベルテが私についていなくてはならない理由はない。
「リベルテ、ここにいて良いの?」
「はい。それがどうかなさいましたか」
「いいえ。ただ……ウィクトルのところへ行きたくはないのかなって」
ウィクトルは挨拶を終え、隊員たちのところを回っている。彼の面に笑顔はないが、皆にきちんと向き合う意思が感じられる目つきをしていた。一人一人と言葉を交わす時間は少ない。が、隊員たちが嬉しそうにしているのを見ると、多くの者がウィクトルを慕っているのだと分かる。
「リベルテは後からでもお話できますので、心配無用でございます!」
「そ、そう。なら安心したわ」
本当に心配無用なのだろうか。
事実なら、まぁ、それが一番良いのだが。
その時、私は偶々、深く考えぬままウィクトルの方を見た。そして違和感を覚える。つい先ほどまで飲み物の入ったコップを片手に隊員たちと言葉を交わしていたウィクトルが、静かに広間から出ていっていたから。
「あれ……?」
私は思わずそんなことを呟いてしまう。
その声を聞き、リベルテもウィクトルへ視線を向けた。
「主、出ていってしまいましたね。何事でしょう」
「えぇ……謎ね」
ウィクトルとて子どもではない、放っておいた方が良いのかもしれない。いちいち首を突っ込まれても、彼は不快な思いをするばかりだろう。
あれから三十分ほどが経過したが、ウィクトルは一向に帰ってくる気配がない。
広間内はまだ賑やかだ。飲み食いしている者、親しい仲間と話に花を咲かせている者など、色々な者がいる。中には、「休み何する?」「いやぁ、まずはゴロゴロかな」なんて会話をしている人すらいた。とにかく皆楽しげだ。リラックスした表情で穏やかな時を過ごしている。
「……ウタ、何か食べないの」
「え?」
楽しそうな人たちを眺めていたら、フーシェが声をかけてきた。
その手には、一枚の紙皿。そしてそこには、唐揚げのようなものが三つ乗っている。ほんのり漂う、油の匂い。
「……食べて、これ」
「えっと、それは、私にくれるということ?」
「そう……何も食べていないようだったから。空腹は敵」
唐揚げと思われる物体が乗った紙皿とそれを刺す用のフォークを、フーシェは差し出してくる。
「あ、ありがとう」
私は最初戸惑いしかなかった。他人と関わることを好まないフーシェが自ら積極的にこんなことを言ってくれることなんて微塵も想像していなかったから、私の胸は驚きに満ちていたのだ。そのため、礼を述べるまでに十数秒はかかってしまった。
「美味しそうね」
紙皿とフォークを受け取る。そして、右手に握った紙製の白いフォークを、唐揚げらしき物体に突き刺す。刺さった穴から溢れる汁は、油だろうか。私はフォークを刺したまま物体を持ち上げ、口もとまで運ぶ。すると、油の匂いに加えて香ばしい香りが上ってきて、嗅覚を刺激した。
「いただきます」
物体を口に入れる。
この味、やはり唐揚げのようだ。
塩辛さと甘みの絶妙なバランス、それをサポートする匂い。それらが一致団結し、素晴らしい味を作り出している。唐揚げらしさに満ちた、食欲をそそる味。
「美味しい……!」
一口目を飲み込むと、自然と口から言葉が出た。
「素晴らしいわ! フーシェさん。これ、とても美味しいわね!」
「……鶏肉は栄養価が高い」
そういえば、ウィクトルも前にそんなことを言っていたような。
さらに十分が過ぎたが、ウィクトルは戻ってこない。さすがにそろそろ気になってきた。
喧騒にいるのが苦手で先に退室していったのなら、誰にも話さずこっそり去っていくということはないだろう。一言くらい何か言ってから出ていくはずだ。
何か隠し事? 逢瀬?
彼に限ってはそんなことはないだろうが、しかし、怪しく思わずにはいられない。
ちょうど唐揚げも食べ終えたことだし、少し様子を見にいってみようか——そう思い立った私は、リベルテやフーシェの視線が私から離れている隙にこっそり広間から出る。
ウィクトルが向かった場所は分からない。
退室からこれだけ時間が経っているから、かなり離れたところへ行ってしまっている可能性だってあるし。
「取り敢えず……部屋?」
私が思いつく選択肢には限りがあるが、ひとまず、三階の部屋へ向かうことにした。
そこが一番行きやすいところだからである。
扉の前にたどり着く。
幸運か不運か、扉は僅かに開いていた。
私は訳もなく隠れてしまう。べつに悪いことをしているわけではないが、ウィクトルに気づかれないかと必要以上にドキドキしてしまって。だから私は、自然と隠れてしまうのだ。
特に音はしない。
人の声も聞こえてはこない。
どうやって入っていけば良いだろう? と考える。元気に「こんにっちはー!」と大声を出しながら入っていくのか、こっそり忍び込むのか、どのような入り方が良いのだろう。すぐには思考がまとまらない。
——暫し考え、普通に入っていくことに決めた。
僅かに開いていた扉を静かに開けて、ゆっくりと足を進める。驚かせてしまっては申し訳ないので声は特に出さない。音は極力立てないようにして、周囲を見回す。
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