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105話「ウィクトルの拠点待機」
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帝都の中央に近い位置に設置されている拠点に、ウィクトルとリベルテはいた。
流れているのは殺伐とした空気。拠点があるのは軍勢が激突している点から数百メートルほど離れた地点ではあるが、無数の報告が飛び込んでくることもあってか穏やかな雰囲気ではない。
「一部、ビタリー軍との衝突があったようでございますね」
「そうか」
「うちの部隊には被害はございませんが」
「承知した」
帝都にはもはや絶対的な安全地帯など存在しない。今は衝突が起きていない場所であっても、今後衝突が起こる可能性は十分にあるわけで、安全とは言えないのだ。
そんな緊迫した空気のただなかで、ウィクトルはふと呟く。
「……ウタくんは無事だろうか」
主人の唐突な溜め息交じりの呟きに、リベルテは目をぱちぱちさせる。
「急にどうなさったのでございますか? 主」
「……いや。何でもない」
「えぇ!? そんなの、気になりますよっ!!」
リベルテは豪快な反応をする。
「忘れてくれ、リベルテ」
「……は、はい」
真面目な顔で淡々と忘れるよう頼まれたリベルテは、「それでも気になる」というような顔をしつつも、大人しく頷いた。
その時、一人の男性が駆け込んでくる。
「失礼します!」
ウィクトルとリベルテの視線が男性の方へと向く。
それでなくとも殺伐とした雰囲気だった拠点内に、さらなる緊張が走る。
「ビタリーの軍勢がまもなく大通りへ差し掛かる模様!」
男性は聞き取りやすい声で報告。
報告を受けたウィクトルとリベルテは、一度、互いの顔を見合わせる。そして、数秒経ってから、再び報告者の男性の方へと視線を戻した。
「そんなところまで通したのですか?」
リベルテが問う。
「敵軍の数が予想より多いようでした! また、一部の市民も加わっている模様です!」
「市民、ですか……?」
報告者の発言の気になる部分に対して言葉を発するのはリベルテ。その隣にいるウィクトルは、黙って話を聞いている。
「今の帝国に不満を持つ貧しい層ではないかと」
「なるほど、それはありそうですね」
「それでは失礼します!」
「助かりました」
報告役の男性が去った後、リベルテはウィクトルを見上げる。
「今後はどのように致しましょうか?」
「大通り……確か、うちは警備で出ている者がいたか」
「はい」
「彼らの状況を確認しておいた方が良いかもしれないな」
◆
元々のビタリーの派閥に、現在の帝国のあり方に不満を抱く豊かでない者たちを加え、進軍を続けるビタリーの軍勢。その後方に、ビタリー本人は控えている。
イヴァンが暮らす場所を目指し進み続ける者たちは、誰もがビタリーを尊敬し彼に忠誠を誓っているわけではなかった。
仕事として進まざるを得ない者というのも少なくはないのだ。そういった者たちは、家族のため自分のため、仕方なくビタリーの指示に従っている。反逆などすればどんな目に遭わされるか分からないから。彼らは恐怖支配に身を拘束されている。
また、形のない未来に夢を描き、理想に向かって歩いている者たちもいる。そんな彼らは、大抵一般人である。ビタリーの語る幻にも等しい理想郷、それを求め、明るい未来のために進んでいるのだ。ただし、彼らはただやみくもに進んでいるだけ。理想郷が実現可能なものなのかどうかを判断するほどの能力は、彼らにはなかった。
そして、帝都へ向かう人々の中には、勢いで参加しているだけの若者もいる。
彼らは暴れたい年頃だ。しかし、日頃は暴れることなどできない。そんなことをすれば、連行されかねない。だが今は違う。今は武器を取ることも許され、好き放題な行動をできる。そういった輩は、皆「世を変えるため」という盾を持ち、暴力を正当化している愚か者。彼らにとって今回のこの出来事は、一種のお祭りのようなものなのである。
ビタリー側の軍勢には、統一感がない。
だが、若さと勢いがある。
それは、戦いを望む者の寄せ集めだからこその、若さと勢いだ。
「そろそろ頃合いかな」
「そうなんですの? ビタリー様」
自軍のかなり後方を車で移動しているビタリーは、隣にいるシャルティエラと言葉を交わす。
ビタリーがイヴァンに牙を剥き、本性を隠しもせずに行動を始めた時、シャルティエラは一度体調を崩した。それは恐らく、本当の戦いが幕開ける、というストレスゆえの体調不良だったのだろう。しかし、数日が経って、シャルティエラの体調は回復してきた。今はもう、目眩を起こすこともない。
「西からの軍勢がそろそろ動き出すよ」
「ついに、ですわね」
「そうしたら帝都はますます混沌とした状況になる。今から楽しみだね」
「一気に潰してしまいたいところですわね」
車内には、ビタリーとシャルティエラ、彼女の部下の侍女、ビタリーの部下一人、の四人がいる。だが、声を発するのは、ほとんどがビタリーとシャルティエラ。あとの二人はあくまで護衛的な意味で付き添っているだけである。
「そうだ。君、少し良いかな」
シャルティエラとの会話が一旦終わったタイミングで、ビタリーは自分の部下に話しかける。
「はっ、はいっ! 何でしょう!」
話す機会はなく、話す相手もいない。そんな環境に一人放り込まれ、何もすることがなかったビタリーの部下は、座席に腰掛けてぼんやりしていた。そんな時に突如声をかけられたものだから、彼は驚いたような顔をしていた。
「ウィクトルが帝都に戻ってきているという噂が流れているようだけど、事実かい?」
「えっ。そうなんですか」
シャルティエラは目を見開いてビタリーを見る。
「僕も真偽は知らないよ。なんせ、噂で聞いただけだからね」
「前線の者に確認してみます!」
「いやいや。それは無意味だと思うよ。こんな早く前線に出てくるはずがないからね」
「そ、その通りですね……。では諜報員を出しますか?」
前線では今もイヴァン側との衝突が起きている。そして負傷者も多く出ている。だが、ビタリーにしてみれば、そんなことはどうでも良いことだ。彼にとっては、速やかにこの国を己のものとすることだけが価値。それ以外のものには、彼は関心がなかった。
「速やかに攻略するには、良質な情報が必要だね。ま、今さら諜報員を派遣しても入り込めるかどうか謎だけどさ」
流れているのは殺伐とした空気。拠点があるのは軍勢が激突している点から数百メートルほど離れた地点ではあるが、無数の報告が飛び込んでくることもあってか穏やかな雰囲気ではない。
「一部、ビタリー軍との衝突があったようでございますね」
「そうか」
「うちの部隊には被害はございませんが」
「承知した」
帝都にはもはや絶対的な安全地帯など存在しない。今は衝突が起きていない場所であっても、今後衝突が起こる可能性は十分にあるわけで、安全とは言えないのだ。
そんな緊迫した空気のただなかで、ウィクトルはふと呟く。
「……ウタくんは無事だろうか」
主人の唐突な溜め息交じりの呟きに、リベルテは目をぱちぱちさせる。
「急にどうなさったのでございますか? 主」
「……いや。何でもない」
「えぇ!? そんなの、気になりますよっ!!」
リベルテは豪快な反応をする。
「忘れてくれ、リベルテ」
「……は、はい」
真面目な顔で淡々と忘れるよう頼まれたリベルテは、「それでも気になる」というような顔をしつつも、大人しく頷いた。
その時、一人の男性が駆け込んでくる。
「失礼します!」
ウィクトルとリベルテの視線が男性の方へと向く。
それでなくとも殺伐とした雰囲気だった拠点内に、さらなる緊張が走る。
「ビタリーの軍勢がまもなく大通りへ差し掛かる模様!」
男性は聞き取りやすい声で報告。
報告を受けたウィクトルとリベルテは、一度、互いの顔を見合わせる。そして、数秒経ってから、再び報告者の男性の方へと視線を戻した。
「そんなところまで通したのですか?」
リベルテが問う。
「敵軍の数が予想より多いようでした! また、一部の市民も加わっている模様です!」
「市民、ですか……?」
報告者の発言の気になる部分に対して言葉を発するのはリベルテ。その隣にいるウィクトルは、黙って話を聞いている。
「今の帝国に不満を持つ貧しい層ではないかと」
「なるほど、それはありそうですね」
「それでは失礼します!」
「助かりました」
報告役の男性が去った後、リベルテはウィクトルを見上げる。
「今後はどのように致しましょうか?」
「大通り……確か、うちは警備で出ている者がいたか」
「はい」
「彼らの状況を確認しておいた方が良いかもしれないな」
◆
元々のビタリーの派閥に、現在の帝国のあり方に不満を抱く豊かでない者たちを加え、進軍を続けるビタリーの軍勢。その後方に、ビタリー本人は控えている。
イヴァンが暮らす場所を目指し進み続ける者たちは、誰もがビタリーを尊敬し彼に忠誠を誓っているわけではなかった。
仕事として進まざるを得ない者というのも少なくはないのだ。そういった者たちは、家族のため自分のため、仕方なくビタリーの指示に従っている。反逆などすればどんな目に遭わされるか分からないから。彼らは恐怖支配に身を拘束されている。
また、形のない未来に夢を描き、理想に向かって歩いている者たちもいる。そんな彼らは、大抵一般人である。ビタリーの語る幻にも等しい理想郷、それを求め、明るい未来のために進んでいるのだ。ただし、彼らはただやみくもに進んでいるだけ。理想郷が実現可能なものなのかどうかを判断するほどの能力は、彼らにはなかった。
そして、帝都へ向かう人々の中には、勢いで参加しているだけの若者もいる。
彼らは暴れたい年頃だ。しかし、日頃は暴れることなどできない。そんなことをすれば、連行されかねない。だが今は違う。今は武器を取ることも許され、好き放題な行動をできる。そういった輩は、皆「世を変えるため」という盾を持ち、暴力を正当化している愚か者。彼らにとって今回のこの出来事は、一種のお祭りのようなものなのである。
ビタリー側の軍勢には、統一感がない。
だが、若さと勢いがある。
それは、戦いを望む者の寄せ集めだからこその、若さと勢いだ。
「そろそろ頃合いかな」
「そうなんですの? ビタリー様」
自軍のかなり後方を車で移動しているビタリーは、隣にいるシャルティエラと言葉を交わす。
ビタリーがイヴァンに牙を剥き、本性を隠しもせずに行動を始めた時、シャルティエラは一度体調を崩した。それは恐らく、本当の戦いが幕開ける、というストレスゆえの体調不良だったのだろう。しかし、数日が経って、シャルティエラの体調は回復してきた。今はもう、目眩を起こすこともない。
「西からの軍勢がそろそろ動き出すよ」
「ついに、ですわね」
「そうしたら帝都はますます混沌とした状況になる。今から楽しみだね」
「一気に潰してしまいたいところですわね」
車内には、ビタリーとシャルティエラ、彼女の部下の侍女、ビタリーの部下一人、の四人がいる。だが、声を発するのは、ほとんどがビタリーとシャルティエラ。あとの二人はあくまで護衛的な意味で付き添っているだけである。
「そうだ。君、少し良いかな」
シャルティエラとの会話が一旦終わったタイミングで、ビタリーは自分の部下に話しかける。
「はっ、はいっ! 何でしょう!」
話す機会はなく、話す相手もいない。そんな環境に一人放り込まれ、何もすることがなかったビタリーの部下は、座席に腰掛けてぼんやりしていた。そんな時に突如声をかけられたものだから、彼は驚いたような顔をしていた。
「ウィクトルが帝都に戻ってきているという噂が流れているようだけど、事実かい?」
「えっ。そうなんですか」
シャルティエラは目を見開いてビタリーを見る。
「僕も真偽は知らないよ。なんせ、噂で聞いただけだからね」
「前線の者に確認してみます!」
「いやいや。それは無意味だと思うよ。こんな早く前線に出てくるはずがないからね」
「そ、その通りですね……。では諜報員を出しますか?」
前線では今もイヴァン側との衝突が起きている。そして負傷者も多く出ている。だが、ビタリーにしてみれば、そんなことはどうでも良いことだ。彼にとっては、速やかにこの国を己のものとすることだけが価値。それ以外のものには、彼は関心がなかった。
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